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レファヌキ共和国の物語【第25章】
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第25章、満月に照らされた図書館で。 このリレー小説は、架空の国のカフェと、月を巡る物語です。 まずはこちらを⬇️ ★まとめ読み用プレイリスト (第1章〜第15章) https://nana-music.com/playlists/3686144 (第16章〜 ) https://nana-music.com/playlists/3708915 ★第1章に、この物語が生まれるまでのエピソードも書かれています。ご一読頂けると嬉しいです。 https://nana-music.com/sounds/061f6d77 【登場人物の紹介】(第24章時点) https://nana-music.com/sounds/063dde1e ✴︎24章までのネタバレを含みます。 【地名・用語等の紹介】(第24章時点) https://nana-music.com/sounds/063dde30 ✴︎24章までのネタバレを含みます。 ★登場人物は全て架空の存在です。nanaのフレンドさんからお名前を頂いているケースもありますが、性格その他、全て創作で、ご本人とは別の存在です。 ★文章の無断転載は、ご遠慮くださいね。 ★朗読等のコラボの際は、下記のサウンドをご参考の上、キャプションの記載をお願いします(小説本文の転載はNGです)  ↓ https://nana-music.com/sounds/065b1067 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 【第25章】満月の図書館 「申し訳ありません。『地上の雷』は、貸し出し中です。その他の4冊は、残念ながら、当館に所蔵されておりません」 ジュッティの言葉に、利用者の男性は肩をすくめた。 「ミーシャクの著作は、5冊全て揃っていたと思うんだが。つまり、紛失があったって事かな」 「……はい。申し訳ありません」 「ああ、いや、文句に聞こえたなら、悪かったね。そんなつもりじゃないんだ」 男性は、にこにこしている。ジュッティは、こっそり胸を撫で下ろした。 彼が貸し出しを希望していた5冊の内、『狩猟月の来襲』は、まさに、昨日、ジュッティが紛失手続きをしたばかりの本だった。 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ 今夜は満月だ。図書館の利用者は、そう多くはない。 祭り日を翌日に控えた今夜は、日々の疲れを労わり、月に祈るのが、この国での伝統的な過ごし方だ。 多くの者は、仕事を早めに終わらせて、家で家族と寛ぐか、お気に入りのカフェで、仲間と過ごす。 見たところ、ジュッティの担当する階の利用者は、ミーシャクの小説を借りに来た男性の他には、もうひとりだけだ。 人手が足りない中、紛失手続きに追われて、ジュッティは少々疲れている。今日の静かな図書館の様子はありがたかった。 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ 人手が足りないのは、ゲンチアナとウェイが、突然休みを取ったからだ。 昨日の朝、カフェ・エイブで目覚めたジュッティは、アルバーラから伝言を受け取った。 「今日と明日、ゲンチアナとウェイは仕事を休む事になったから。ジュッティにフォローして欲しいんだって。いいかな?」 「ええ、もちろんよ」 ジュッティは即答した。 久しぶりに、頭がはっきりしていた。泣きながら眠りに落ちる前に、自分が何をしたのか、明確に思い出せる。 知らない内に手のひらにあった小箱の蓋を開けたのは、無意識だった。蓋を開けた途端、小箱は形を変えながら手のひらに吸いつき、自分の意思とは関わりなく、ジュッティの体は動いた。 ゲンチアナとウェイの首筋が震える感触が、手のひらに残っている。それを振り払おうと、ジュッティは自分の肩を抱き締めて、首を強く振った。 アルバーラはジュッティの背中を叩いた。 「大丈夫。ジュッティのせいじゃない。二人ともその事はよく分かってるから」 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ 「ところで、司書さんは、弦楽器をお好きなのかな?」 利用者の男性に言われて、ジュッティは戸惑った。 「ええ。どうしてそう思われたんですか?」 「カウンターの後ろにあるリュートは、司書さんの物かな、と思ってね」 ジュッティは内心慌てた。利用者が誰も居ない時、休憩の合間に、ひとりでリュートを弾きながら歌う事がある。今日も利用者が居なくなったら、気晴らしに歌おうと、こっそり思っていた。 「……ええ、まあ」 「よかったら、一曲披露してもらえないかな」 男性は人差し指を立てて、片目を瞑った。ジュッティは困惑した。 「困ります。他の利用者さんのご迷惑になりますから」 「俺なら、迷惑にはならないよ」 ジュッティに背中を向けて、書架で本を探していた利用者が、振り返った。その顔を見て、ジュッティは驚いた。 「……エイブ?」 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ エイブは、アルバーラの養父で、カフェ・エイブの創業者だ。 引退して長いが、有名なピアニストだった。ジュッティも、ライブを何度か聴きに行った事がある。 今は、病を得て入院し、随分長く寝たきりだと聞いていた。 そのエイブが、実は魔法使いで、病院のベッドで眠りながらも、国を密かに護っているのだと、昨日、アルバーラから聞かされたばかりだ。 一昨日までのジュッティだったら、そんな話を信じる事は無かっただろう。 しかし、ジュッティは、実際に魔法で操られ、ゲンチアナとウェイを襲った。自分の身に起きた事を思い返すと、アルバーラの言葉を信じるしか無かった。 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ 「歌っておくれ、ジュッティ。昔の曲がいい。出来るだけ古い歌を聴かせてくれないか」 エイブは微笑んでいる。元気そうに。 いつ、病院を出てきたのだろうか。いや、もしかしたら、病院を出てはいないのかもしれない。 恐らく、今、エイブに従った方がいいのだろう。ジュッティは、直感的にそう思った。 小箱が手のひらに吸い付く感触が、今も消えない。もう二度と、あんな経験はしたくない。 黙ってエイブに頷くと、リュートを手に取った。 その途端、どこかから、歌声が聴こえた気がした。 胸の底から同じ歌が湧き上がるのを感じる。ずっと忘れていた、古い歌。 ジュッティは、衝動のままに、リュートを爪弾き、歌い始めた。利用客の男性も、エイブも、静かに耳を澄ましているようだった。 最後のフレーズを歌い終わろうとする瞬間、塔全体に、衝撃が走り、ジュッティは、座っていた椅子から投げ出された。 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ 気がつくと、ジュッティは、リュートを抱えたまま、床に倒れていた。 灯されていた灯りは全て消えている。だが、窓からの月明かりで、あらゆる書棚から、本が落ちて散乱しているのが見て取れた。 重たい司書のカウンターがひっくり返っているのに気付いて、ジュッティはぞっとした。 「皆さん、ご無事ですか?」 ジュッティの声は震えている。沈黙が続く。 「皆さん、ご無事ですか!?」 ジュッティは声を張り上げた。途端に耳元で声がした。 「ジュッティ、歌っておくれ」 「司書さん、歌ってください」 誰の姿も見えない。 ジュッティはリュートを抱え直した。爪弾こうとすると、指が震える。目を閉じて、深呼吸をすると、ジュッティはアカペラで歌い始めた。 本が散乱した図書館の中で、優しい子守唄が響いた。 (第26章へ続く) 第26章 満月の広場(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06419ade 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 【 お 知 ら せ 】 ★このリレー小説を同人誌化します! 数名の方から「紙の本で読みたい」というリクエストがありましたので、他の書き手の皆さんに、転載のご了解を頂きました。 リレー小説完結後、具体的に進める予定です。詳細が決まりましたら、何かの形でお知らせします!(但し、時間は相当かかると思います。気長にお待ち頂けるとありがたいです) ✴︎同人誌化するのは、16章以降を私が執筆したバージョンです。枝分かれのアナザーストーリーは含みません。ご了承下さい。 ★リレー小説に参加したい方は、第16章以降、枝分かれでお願いします。私は私で、第16章以降、結末まで書かせて頂きます。 詳細は、第15章のキャプションをご覧下さい。  ↓ https://nana-music.com/sounds/06276784 ★コミュニティあります! 「レファヌキ共和国 国立よろず相談所」 https://nana-music.com/communities/1196360 リレー小説用につくりましたが、小説以外のレファヌキサウンドや、外部リンクも、確認できる限り、こちらに格納しています。雑談や感想も大歓迎! よろしければ覗いて下さると嬉しいです! ーーーーーーー 🌖 ーーーーーーー 「レファヌキ共和国の物語」 企画:あーばー https://nana-music.com/users/6071144 https://twitter.com/__a__ba__lalala/status/1443880160004952067?s=21 音楽:aya.c「レファヌキ共和国の曲」 DTM:c https://nana-music.com/sounds/061ed505 フルート:aya(ふえふき) https://nana-music.com/sounds/061f301a リレー小説「レファヌキ共和国の物語」 書き手:清水はこべ・岬・ゑ・jU'''・香魚・(ゆぅ) https://nana-music.com/playlists/3686144 https://nana-music.com/playlists/3708915 リレー小説企画:清水はこべ(箱) https://nana-music.com/sounds/061f6d77 https://twitter.com/shimizu_hakobe/status/1444445773312057347?s=21 第1章 プロローグ(書き手:清水はこべ・岬) https://nana-music.com/sounds/061f6d77 第2章 狩猟月(書き手:ゑ。) https://nana-music.com/sounds/061f769a 第3章 祭り日(書き手:jU''') https://nana-music.com/sounds/061f7f32 第4章 新月前日のカフェ(書き手:香魚) https://nana-music.com/sounds/06495f44 https://nana-music.com/users/10478635 第5章 二日月の宵(書き手:清水はこべ・岬) https://nana-music.com/sounds/062051a0 第6章 静寂(書き手:(ゆぅ)) https://nana-music.com/sounds/0620ee31 第7章 隠された歴史(書き手:香魚) https://nana-music.com/sounds/06495f73 https://nana-music.com/users/10478635 第8章 三日月の夜(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0621807c 第9章 半月の図書館(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0621f763 第10章 半月の病院(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06227be6 第11章 半月の劇場・前編(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06251e3b 第12章 半月の劇場・後編(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06255a5a 第13章 十日夜の王宮(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06259ae8 第14章 十日夜の監獄(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0625e153 第15章 十日夜の夢(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06276784 第16章 十三夜のテラス席(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06292959 第17章 十三夜の店内(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062b0a2b 第18章 十三夜の親子(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062c15dc 第19章 十三夜の昔話(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062de89b 第20章 十三夜の歌い手(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062fd07f 第21章 十三夜の雷(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06316bdd 第22章 満月前の監獄(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0635136c 第23章 満月前の海岸(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06378303 第24章 満月のライブ(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/063acfed 第25章 満月の図書館(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/063e3f4f 第26章 満月の広場(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06419ade 第27章 満月の虹(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06445583 第28章 エピローグ(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06492327 Special thanks プロローグ設定協力:岬 https://twitter.com/misaki_u_e?s=21 イラスト:たけねこ(第7章設定協力) (朝)https://nana-music.com/sounds/061fd48d (夜)https://nana-music.com/sounds/0620aecf ガイドブック(地理・歴史):蟹蟹クラブ(第8章設定協力) https://nana-music.com/sounds/0620ce61 「月の子守唄」:(ゆぅ)(第15章設定協力) https://nana-music.com/sounds/0624ae40 「永遠の月」:(ゆぅ)(第23章設定協力) https://nana-music.com/sounds/061fc725 参考サイト アクラネカレンダー「満月カレンダー 2021年10月」 https://www.arachne.jp/onlinecalendar/mangetsu/ 暦生活「月の呼び名」 https://www.543life.com/moonname/ ーーーーーーー 🌘 ーーーーーーー 気がつくと2月。またまた間が空いてしまってごめんなさい。前章からは完結へ向けてのラストスパートなので、早めに出したかったのですが、なかなか理想通りにはいかず……。 この所、リアルで色々ありまして、気持ちにあまり余裕がありませんでした。ひとまず、状況は好転の方向に向かっています。ご心配下さった皆さん、ありがとうございます。 先が見えない状況は続きますが、だからこそ、音楽や物語や絵や映像を紡ぐ時間は、本当にかけがえがないと感じています。お付き合い下さる皆様にも、理解を示してくれる家族にも、感謝ばかりです。 この物語も、完結まであと3章。大切に紡いでいきます。よろしければ、もう少しお付き合い頂けると嬉しいです。 あ、上の方でお知らせもしてますが。 この物語、同人誌化します!!! 「紙の本で読みたい」と言って下さった皆さん、ありがとうございます。そのお声が、とてもとても嬉しかったのです。 実は同人誌など、一度も作った事が無いのですが、今時は便利なサービスが色々ありそうなので、完結後、頑張ってチャレンジしてみます。時間はかかると思いますが、気長にお待ち頂けると嬉しいです。 レファヌキ共和国、この物語以外にも、色んなコラボがあります! オリジナル曲や、絵や、ナレーション、ガイドブックに、国旗のコラボもあるんですよ! 是非、皆さんも、この素晴らしい国を探索して、楽しんでくださいね! ★プレイリスト「レファヌキ共和国の音楽と絵画」 https://nana-music.com/playlists/3684932 https://nana-music.com/playlists/3689849 https://nana-music.com/playlists/3744935 ーーー★ーーー ちなみに、私は、この物語以外にも、リレー小説をやっています。ご興味ある方は、のぞいて頂けると嬉しいです。 ★「旅芸人一座の物語」  https://nana-music.com/playlists/3601402  https://nana-music.com/sounds/061cd18e ★「影のないボクと灰色の猫」  https://note.com/smzhkb/n/n55d4322010ac  https://nana-music.com/sounds/05d87982 #cオリジナル #謎設定 #あーばーさんに感謝の箱 #cさんに感謝の箱 #あやさんに感謝の箱 #岬さんに感謝の箱 #ゑさんに感謝の箱 #じゅーさんに感謝の箱 #あゆちゃんに感謝の箱 #かっこゆさんに感謝の箱 #箱のよみもの #レファヌキ共和国 #レファヌキ共和国の物語

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