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レファヌキ共和国の物語【第24章】
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第24章、満月。カフェ・エイブでライブの幕が上がる。 このリレー小説は、架空の国のカフェと、月を巡る物語です。 まずはこちらを⬇️ ★まとめ読み用プレイリスト (第1章〜第15章) https://nana-music.com/playlists/3686144 (第16章〜 ) https://nana-music.com/playlists/3708915 ★第1章に、この物語が生まれるまでのエピソードも書かれています。ご一読頂けると嬉しいです。 https://nana-music.com/sounds/061f6d77 【登場人物の紹介】(第23章時点) https://nana-music.com/sounds/063acc48 ✴︎23章までのネタバレを含みます。 【地名・用語等の紹介】(第23章時点) https://nana-music.com/sounds/063acc59 ✴︎23章までのネタバレを含みます。 ★登場人物は全て架空の存在です。nanaのフレンドさんからお名前を頂いているケースもありますが、性格その他、全て創作で、ご本人とは別の存在です。 ★文章の無断転載は、ご遠慮くださいね。 ★朗読等のコラボの際は、下記のサウンドをご参考の上、キャプションの記載をお願いします(小説本文の転載はNGです)  ↓ https://nana-music.com/sounds/065b1067 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 【第24章】満月のライブ 「お帰りなさい」 鍵を3回叩いた途端、波音が消え、アルバーラは、カフェ・エイブの倉庫に居た。ゲンチアナが微笑んでいる。 「受付は終わったわ。まだ来ていないのは、シーラさんだけ」 「いつもありがとう」 カフェ・エイブの満月のライブは、前金の完全予約制だ。受付とステージを、アルバーラが一人でこなす為に考えた仕組みだが、ライブの当日は、いつもゲンチアナが手伝ってくれる。 「着替えたらすぐ出るから、ゲンチアナも席に着いて」 ゲンチアナは頷き、倉庫を出ていった。 倉庫の一番奥の棚には、布が掛けられている。アルバーラが布を外すと、鏡台が現れた。鏡の隣には、赤いドレスが一着、ハンガーに掛かって吊るされている。 アルバーラは急いでドレスに着替えた。化粧はしない。代わりに、鏡台の引き出しから、小箱を取り出す。 中に入っているのは、片耳だけの赤いピアスだ。 安物だが、気に入って大切にしていた。なのに、20年前、フェアヤムが漁に出た日、片方が無くなっているのに気づいた。 残った片割れが、何だか自分のように思えて、アルバーラは、ライブの時には、必ずこのピアスを耳に飾る。 今日も左耳にピアスを飾り、アルバーラはステージに向かった。 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ カフェ・エイブのガラス扉は開け放たれ、店内とテラス席が一体となっていた。 全ての席にはランプが点されて、ティーコージーをかぶせたジンジャーティーのポットが置いてある。この季節はブランケットと懐炉も各席に用意されている。 観客は、アルバーラの新曲への期待を、連れの者と語ったり、ジンジャーティーを楽しんだりしている。 その中で、ゲンチアナとウェイは、ピアノの正面の特等席で、緊張した面持ちで座っている。ほぼ満員の観客の中で、ウェイの隣の空席が、ぽつんと目立つ。 「戻ってこないと思っていた方がいい」 ウェイが呟いた。マフラーを首に巻き、膝に木箱を抱えている。 ゲンチアナは、シーラの為に用意された空席を眺めた。 「シーラさんは、シーラさんのすべき事をなさっている。そうよね?」 「……多分、そうなんだろうね。そう信じる事にするよ。その上で、僕らは、僕らにできる事をする」 ウェイは、膝に抱えていた木箱を、テーブルの上に置いた。ゲンチアナは、木箱にそっと触れた。 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ ステージにアルバーラが登場すると、大きな拍手が起きた。深紅のドレスに身を包んだアルバーラは、ゆったりとピアノの前に座った。客席は、期待で静まり返った。 アルバーラの堂々とした様子に、彼女の指が震えている事は、本人以外は誰も気づかない。 今まで、ステージでこれほど緊張した事は無い。指の震えを抑えようと、アルバーラは目を閉じ、自分の中の旋律に集中した。波音を思い浮かべ、ゆっくりと体を揺らす。 左耳の赤いピアスが揺れて、月明かりに煌めいた。 その瞬間、アルバーラは、耳元で歌声を聴いた。彼女の中の波音のリズムに合わせて、甘く低く歌う声を。15歳の夏に、船から聞こえてきたのと同じ、懐かしく愛しい歌声を。 歌声に合わせて、アルバーラは鍵盤を鳴らした。指の震えはおさまっている。 目を開けて、アルバーラは歌い始めた。両耳の赤いピアスが、きらきらと揺れた。 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ ゲンチアナは、固唾を飲んで、アルバーラの歌を聴いた。 よく知っている旋律。夢の中で何度も聞いた、母の子守唄のメロディ。 ——カユーナ。 両親の笑顔を、はっきりと思い出し、ゲンチアナの目から涙があふれた。 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ ウェイもまた、アルバーラの歌を身じろぎもせずに聴いた。 幼い頃、夢うつつに聴いた歌だ。 シーラが帰宅するのは深夜になる事が多かった。彼女は帰宅すると、いつもまっすぐにウェイのベッドに向かう。 「ぐっすり眠ってるよ」 「そうね」 両親が自分を覗き込んでいるのを、ウェイはいつも、夢うつつに感じていた。 やがて、いつも、シーラは低く子守唄を歌う。ウェイは眠ったふりをしながら、母の子守唄を聴くのが好きだった。 何故、忘れていたのだろう。 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ アルバーラは歌う。同じ旋律を、様々にアレンジしながら、何度も繰り返す。 客席には、何人か、時々鼻を啜る者が居る。抑えきれずに嗚咽する者も。 やがて、曲のテンポがゆっくりになった。アルバーラの声は誘うようだ。 ゲンチアナが立ち上がった。アルバーラの声を追いかけるように、同じフレーズを歌う。 ウェイも立ち上がり、ゲンチアナに続いた。ひとり、またひとり、と、観客が次々に立ち上がった。 観客全員が立ち上がり、大合唱となったその時、地鳴りがした。テーブルと椅子が細かく震え、テラス席も店内も、全ての灯りが消えた。 客席が静まり返る中、アルバーラの歌声は、空気を震わせた。 (第25章へ続く) 第25章 満月の図書館(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/063e3f4f 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 ★リレー小説に参加したい方は、第16章以降、枝分かれでお願いします。私は私で、第16章以降、結末まで書かせて頂きます。 詳細は、第15章のキャプションをご覧下さい。  ↓ https://nana-music.com/sounds/06276784 ★コミュニティあります! 「レファヌキ共和国 国立よろず相談所」 https://nana-music.com/communities/1196360 リレー小説用につくりましたが、小説以外のレファヌキサウンドや、外部リンクも、確認できる限り、こちらに格納しています。雑談や感想も大歓迎! よろしければ覗いて下さると嬉しいです! ーーーーーーー 🌖 ーーーーーーー 「レファヌキ共和国の物語」 企画:あーばー https://nana-music.com/users/6071144 https://twitter.com/__a__ba__lalala/status/1443880160004952067?s=21 音楽:aya.c「レファヌキ共和国の曲」 DTM:c https://nana-music.com/sounds/061ed505 フルート:aya(ふえふき) https://nana-music.com/sounds/061f301a リレー小説「レファヌキ共和国の物語」 書き手:清水はこべ・岬・ゑ・jU'''・香魚・(ゆぅ) https://nana-music.com/playlists/3686144 https://nana-music.com/playlists/3708915 リレー小説企画:清水はこべ(箱) https://nana-music.com/sounds/061f6d77 https://twitter.com/shimizu_hakobe/status/1444445773312057347?s=21 第1章 プロローグ(書き手:清水はこべ・岬) https://nana-music.com/sounds/061f6d77 第2章 狩猟月(書き手:ゑ。) https://nana-music.com/sounds/061f769a 第3章 祭り日(書き手:jU''') https://nana-music.com/sounds/061f7f32 第4章 新月前日のカフェ(書き手:香魚) https://nana-music.com/sounds/06495f44 https://nana-music.com/users/10478635 第5章 二日月の宵(書き手:清水はこべ・岬) https://nana-music.com/sounds/062051a0 第6章 静寂(書き手:(ゆぅ)) https://nana-music.com/sounds/0620ee31 第7章 隠された歴史(書き手:香魚) https://nana-music.com/sounds/06495f73 https://nana-music.com/users/10478635 第8章 三日月の夜(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0621807c 第9章 半月の図書館(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0621f763 第10章 半月の病院(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06227be6 第11章 半月の劇場・前編(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06251e3b 第12章 半月の劇場・後編(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06255a5a 第13章 十日夜の王宮(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06259ae8 第14章 十日夜の監獄(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0625e153 第15章 十日夜の夢(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06276784 第16章 十三夜のテラス席(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06292959 第17章 十三夜の店内(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062b0a2b 第18章 十三夜の親子(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062c15dc 第19章 十三夜の昔話(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062de89b 第20章 十三夜の歌い手(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062fd07f 第21章 十三夜の雷(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06316bdd 第22章 満月前の監獄(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0635136c 第23章 満月前の海岸(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06378303 第24章 満月のライブ(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/063acfed 第25章 満月の図書館(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/063e3f4f 第26章 満月の広場(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06419ade 第27章 満月の虹(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06445583 第28章 エピローグ(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06492327 Special thanks プロローグ設定協力:岬 https://twitter.com/misaki_u_e?s=21 イラスト:たけねこ(第7章設定協力) (朝)https://nana-music.com/sounds/061fd48d (夜)https://nana-music.com/sounds/0620aecf ガイドブック(地理・歴史):蟹蟹クラブ(第8章設定協力) https://nana-music.com/sounds/0620ce61 「月の子守唄」:(ゆぅ)(第15章設定協力) https://nana-music.com/sounds/0624ae40 「永遠の月」:(ゆぅ)(第23章設定協力) https://nana-music.com/sounds/061fc725 参考サイト アクラネカレンダー「満月カレンダー 2021年10月」 https://www.arachne.jp/onlinecalendar/mangetsu/ 暦生活「月の呼び名」 https://www.543life.com/moonname/ ーーーーーーー 🌘 ーーーーーーー ようやく満月のライブです。 10月初旬に始まったこのリレー小説、第二章の書き手のゑさんからは「新月で始まる物語が、10/20の満月に向けて、お話と実際の月齢がリンクしていくと面白いですよね」と、アイデアを頂いたんです。 そりゃあ面白そうだ!と、思ったあの秋の日も、もはや遠い記憶……。ごめんなさい、10/20に完結させるのは、無理でした。この物語がこんなに壮大になるとは、第一章・第二章の時点では、思ってなかったんです。 それでも、満ちていく月の物語を、こつこつと積み重ねて、やっと、満月の下でアルバーラが歌うシーンを描く事が出来て、感慨深いです。 ゑさん、すみません、あれからリアルの満月を4つ見送ってますが、ようやくここに辿り着きましたよー! 完結まであと4章。この物語も、ラストまでのカウントダウンに入りました。よろしければ、もう少しお付き合い頂けると嬉しいです。 で、すみません。リアルで諸事情あり、突然、投稿の間隔が開く可能性があります。お返事なども遅れるかも。 状況次第ですが、何事も無ければ、いつも通りのペースで投稿します。ただ、お返事や聴きnanaよりは、創作活動と投稿を優先する傾向があると思います。ご容赦頂けると幸いです。 レファヌキ共和国、この物語以外にも、色んなコラボがあります! オリジナル曲や、絵や、ナレーション、ガイドブックに、国旗のコラボもあるんですよ! 是非、皆さんも、この素晴らしい国を探索して、楽しんでくださいね! ★プレイリスト「レファヌキ共和国の音楽と絵画」 https://nana-music.com/playlists/3684932 https://nana-music.com/playlists/3689849 https://nana-music.com/playlists/3744935 ーーー★ーーー ちなみに、私は、この物語以外にも、リレー小説をやっています。ご興味ある方は、のぞいて頂けると嬉しいです。 ★「旅芸人一座の物語」  https://nana-music.com/playlists/3601402  https://nana-music.com/sounds/061cd18e ★「影のないボクと灰色の猫」  https://note.com/smzhkb/n/n55d4322010ac  https://nana-music.com/sounds/05d87982 #cオリジナル #謎設定 #あーばーさんに感謝の箱 #cさんに感謝の箱 #あやさんに感謝の箱 #岬さんに感謝の箱 #ゑさんに感謝の箱 #じゅーさんに感謝の箱 #あゆちゃんに感謝の箱 #かっこゆさんに感謝の箱 #箱のよみもの #レファヌキ共和国 #レファヌキ共和国の物語

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