
レファヌキ共和国の物語【第20章】
音楽:aya.c 文:清水はこべ・岬・ゑ・jU'''・香魚・(ゆぅ)
第20章、十三夜、物語の欠片を手のひらに乗せて。 このリレー小説は、架空の国のカフェと、月を巡る物語です。 まずはこちらを⬇️ ★まとめ読み用プレイリスト (第1章〜第15章) https://nana-music.com/playlists/3686144 (第16章〜 ) https://nana-music.com/playlists/3708915 ★第1章に、この物語が生まれるまでのエピソードも書かれています。ご一読頂けると嬉しいです。 https://nana-music.com/sounds/061f6d77 【登場人物の紹介】(第19章時点) https://nana-music.com/sounds/062fc96e ✴︎19章までのネタバレを含みます。 【地名・用語等の紹介】(第19章時点) https://nana-music.com/sounds/062fc97c ✴︎19章までのネタバレを含みます。 ★登場人物は全て架空の存在です。nanaのフレンドさんからお名前を頂いているケースもありますが、性格その他、全て創作で、ご本人とは別の存在です。 ★文章の無断転載は、ご遠慮くださいね。 ★朗読等のコラボの際は、下記のサウンドをご参考の上、キャプションの記載をお願いします(小説本文の転載はNGです) ↓ https://nana-music.com/sounds/065b1067 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 【第20章】十三夜の歌い手 「《国音》というのは、これですよね?」 アルバーラは、粉々になった貝殻を手のひらに乗せて、シーラを見た。ゲンチアナとウェイも、アルバーラの手元を覗き込んだ。 「これは、写し。フェアヤムが集めた《国音》の欠片を、私が小さな結界の中に封じ込めたもの」 「フェアヤムが?」 シーラは頷いた。アルバーラは手のひらの貝殻を、初めて見るもののように見つめた。 「20年前、私はフェアヤムをレファヌキに帰すつもりで、ラヌキに先回りしたの」 「そうだったんですか」 「でも、うまくいかなかった。通路が半分閉じていたから。私の使った『湖の通路』も、フェアヤムが使った『海の通路』もラヌキには行けるけれど、レファヌキには戻れなかった」 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ 通路が半分閉じている以外にも、ラヌキには、おかしな事が幾つかあった。 時間の流れが狂っていた。月が沈むと、次の瞬間、高い位置に月がある。空気が不安定で、色彩の反射もぼんやりしていた。 シーラは空気中の《音》を調べ、ラヌキの空気に影響を及ぼす原因が、ラヌキの《ファ塔》地下にあると突き止めた。 恐らく《国音》はそこにある。そう推測して、シーラとフェアヤムは、《ファ塔》 に潜入した。 だが、偽王に捕らえられ、地下の監獄に送られた。 監獄の空気は、外よりも更に不安定だった。強い魔法が干渉して、空気が変質していた。 《国音》は砕かれて、監獄の中を漂っていた。 シーラは《国音》の欠片を集めようとした。しかし、変質した空気に影響されて身動きが出来なかった。幻聴が聴こえて、幻影が見える。自分で自分を壊したくてたまらなくなる。 結局シーラは、実体を眠らせ、影を分離させる事で、影響を逃れるしかなかった。 影を分離させた途端に、フェアヤムに、シーラの姿が見えなくなった。声もほとんど届かない。 それでも、シーラはフェアヤムに、何度も声を掛けた。監獄の中では、影も自分の思うようには、なかなか動かせなかった。 フェアヤムは、時折、微かに届くシーラの声に耳を澄まし、監獄の空気に含まれる《国音》の破片を、少しずつ集めてくれた。 ふたりが《国音》の写しを完成させた時、20年が経過していた。 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ 「なのに、あたしのせいで、写しは、壊れてしまった……」 アルバーラは、粉々の貝殻を握りしめてうつむいた。 「あたしが、ラヌキの事を口にしなければ……」 「いいえ、アルバーラ。フェアヤムが無事なのも、写しを持ち帰る事ができたのも、あなたのお陰よ」 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ フェアヤムは、影を分離させる術を習得していなかった。なのに何故か、監獄の空気の影響を受けずにいた。 ある日、シーラは理由を見つけた。 監獄には、《音》の粒子がやっと通り抜けられるくらいの、僅かな裂け目が出来ていた。 裂け目は新月と満月に開き、外から《音》の粒子が流れ込んできていた。フェアヤムはその粒子を浴びる事によって、監獄の空気の影響を受けずに済んでいた。 フェアヤムが浴びていた《音》、それは、アルバーラの歌だった。 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ 「あなたが作ってくれた裂け目から、私は写しと共に、影をここへ送る事が出来たのよ」 シーラの話をじっと聴いていたアルバーラは、しばらく黙ってシーラを見つめ、それから、ぽつりと言った。 「あの人、満月にプロポーズして、新月に居なくなったんです。だからあたしは、新月に歌を作り、満月に歌っていたんです」 言葉が堰を切り、想いが溢れた。アルバーラの瞳は潤んでいる。 「あたしは赤ん坊の時、ソシミラド海岸に捨てられて、養護施設で育ちました。小さい頃から歌が好きで、10代の初めからは、しょっちゅう施設を抜け出して、カフェ・エイブに通いました」 「院長先生に、よく怒られていたわね」 ゲンチアナが、懐かしむ目をした。 「そうだったね。でも、エイブが院長に話をしてくれた。『この子の歌は、唯一無二だ』って、言ってくれて」 涙を湛えた瞳のまま、アルバーラは、微笑んだ。 「最初、あたしはフェアヤムが嫌いでした。あの人、すぐ練習をさぼって、遊びに行ってたから。あたし達、会うと喧嘩ばかりしてました」 「あの頃、よく、フェアヤムの悪口を聞かされたわ」 「悔しかったんだ。あの人、練習しない癖に、上手に歌うんだもの。エイブが父親なのも羨ましかった。でも実は、あの人、遊びにいくふりをして、船でずっと練習していたんです。……あたしに負けたくないって」 「フェアヤムらしいわね」 シーラも微笑んだ。 「それを知った時、あたし、自分の本当の気持ちに気づいて……でも、長い間、素直になれなかった。だから、プロポーズされた時は、心臓が止まるかと思いました。初めて素直に自分の気持ちを伝えて、プロポーズを受けて……」 アルバーラの瞳から、涙が零れ落ちた。 「……そして、あの人は、居なくなったんです」 ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ 「アルバーラ、写しは、ただの呼び水よ。《国音》は、あなたの中にあるの」 涙を流すアルバーラに、シーラは静かに言った。 「あたしの中に?」 「ええ、あなたの歌が空気を震わせる度に、レファヌキの空気はそれに呼応する。空気中に《国音》の振動が増えれば、エイブも私も、そして、フェアヤムも、手を打つ事が出来る」 「フェアヤムも……」 アルバーラは、乱暴に涙を拭った。 「……今朝、歌う直前まで旋律に耳を澄ましていても、正確に音が取れるかどうか、五分五分でした。でも、やるしかない。やります」 「お願いよ。満月までが勝負」 「満月に何があるんですか?」 「次の満月、偽王はレファヌキを襲うわ」 シーラの言葉で、全員に緊張が走った。 (第21章に続く) 第21章 十三夜の雷(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06316bdd 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 ~~ ✴︎ ~~ 🌙 リレー小説に参加したい方は、第16章以降、枝分かれでお願いします。私は私で、第16章以降、結末まで書かせて頂きます。 詳細は、第15章のキャプションをご覧下さい。 ↓ https://nana-music.com/sounds/06276784 ★コミュニティあります! 「レファヌキ共和国 国立よろず相談所」 https://nana-music.com/communities/1196360 リレー小説用につくりましたが、小説以外のレファヌキサウンドや、外部リンクも、確認できる限り、こちらに格納しています。雑談や感想も大歓迎! よろしければ覗いて下さると嬉しいです! ーーーーーーー 🌖 ーーーーーーー 「レファヌキ共和国の物語」 企画:あーばー https://nana-music.com/users/6071144 https://twitter.com/__a__ba__lalala/status/1443880160004952067?s=21 音楽:aya.c「レファヌキ共和国の曲」 DTM:c https://nana-music.com/sounds/061ed505 フルート:aya(ふえふき) https://nana-music.com/sounds/061f301a リレー小説「レファヌキ共和国の物語」 書き手:清水はこべ・岬・ゑ・jU'''・香魚・(ゆぅ) https://nana-music.com/playlists/3686144 https://nana-music.com/playlists/3708915 リレー小説企画:清水はこべ(箱) https://nana-music.com/sounds/061f6d77 https://twitter.com/shimizu_hakobe/status/1444445773312057347?s=21 第1章 プロローグ(書き手:清水はこべ・岬) https://nana-music.com/sounds/061f6d77 第2章 狩猟月(書き手:ゑ。) https://nana-music.com/sounds/061f769a 第3章 祭り日(書き手:jU''') https://nana-music.com/sounds/061f7f32 第4章 新月前日のカフェ(書き手:香魚) https://nana-music.com/sounds/06495f44 https://nana-music.com/users/10478635 第5章 二日月の宵(書き手:清水はこべ・岬) https://nana-music.com/sounds/062051a0 第6章 静寂(書き手:(ゆぅ)) https://nana-music.com/sounds/0620ee31 第7章 隠された歴史(書き手:香魚) https://nana-music.com/sounds/06495f73 https://nana-music.com/users/10478635 第8章 三日月の夜(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0621807c 第9章 半月の図書館(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0621f763 第10章 半月の病院(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06227be6 第11章 半月の劇場・前編(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06251e3b 第12章 半月の劇場・後編(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06255a5a 第13章 十日夜の王宮(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06259ae8 第14章 十日夜の監獄(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0625e153 第15章 十日夜の夢(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06276784 第16章 十三夜のテラス席(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06292959 第17章 十三夜の店内(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062b0a2b 第18章 十三夜の親子(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062c15dc 第19章 十三夜の昔話(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062de89b 第20章 十三夜の歌い手(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/062fd07f 第21章 十三夜の雷(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06316bdd 第22章 満月前の監獄(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/0635136c 第23章 満月前の海岸(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06378303 第24章 満月のライブ(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/063acfed 第25章 満月の図書館(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/063e3f4f 第26章 満月の広場(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06419ade 第27章 満月の虹(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06445583 第28章 エピローグ(書き手:清水はこべ) https://nana-music.com/sounds/06492327 Special thanks プロローグ設定協力:岬 https://twitter.com/misaki_u_e?s=21 イラスト:たけねこ(第7章設定協力) (朝)https://nana-music.com/sounds/061fd48d (夜)https://nana-music.com/sounds/0620aecf ガイドブック(地理・歴史):蟹蟹クラブ(第8章設定協力) https://nana-music.com/sounds/0620ce61 「月の子守唄」:(ゆぅ)(第15章設定協力) https://nana-music.com/sounds/0624ae40 参考サイト アクラネカレンダー「満月カレンダー 2021年10月」 https://www.arachne.jp/onlinecalendar/mangetsu/ 暦生活「月の呼び名」 https://www.543life.com/moonname/ ーーーーーーー 🌘 ーーーーーーー 第16章から始まった十三夜の物語、次回、第21章でひと区切りです。いやー、長かった……書いても書いても終わらなくて、泣きそうでした(笑)。 特に、この第20章は、このリレー小説全体を通して、一番苦戦しました……。5回くらい頭から書き直してます。どうにか出せて良かったです……。 このペースで投稿してると、確実に完結は年を越してしまいますね……。でも無理せずいきます。お付き合いくださる皆さんには、感謝ばかりです! で、すみません、前回、第27章で完結予定と予告してましたが……。やっぱり、第26章、2つに分割するかも……。完結は第28章となる可能性が……。 次回投稿までには、最終章が27章になるか、28章になるか、確定すると思います……多分。 レファヌキ共和国、この物語以外にも、色んなコラボがあります! オリジナル曲や、絵や、ナレーション、ガイドブックに、国旗のコラボもあるんですよ! 是非、皆さんも、この素晴らしい国を探索して、楽しんでくださいね! ★プレイリスト「レファヌキ共和国の音楽と絵画」 https://nana-music.com/playlists/3684932 https://nana-music.com/playlists/3689849 https://nana-music.com/playlists/3744935 ーーー★ーーー ちなみに、私は、この物語以外にも、リレー小説をやっています。ご興味ある方は、のぞいて頂けると嬉しいです。 ★「旅芸人一座の物語」 https://nana-music.com/playlists/3601402 https://nana-music.com/sounds/061cd18e ★「影のないボクと灰色の猫」 https://note.com/smzhkb/n/n55d4322010ac https://nana-music.com/sounds/05d87982 #cオリジナル #謎設定 #あーばーさんに感謝の箱 #cさんに感謝の箱 #あやさんに感謝の箱 #岬さんに感謝の箱 #ゑさんに感謝の箱 #じゅーさんに感謝の箱 #あゆちゃんに感謝の箱 #かっこゆさんに感謝の箱 #箱のよみもの #レファヌキ共和国 #レファヌキ共和国の物語
