蜜月アン・ドゥ・トロワ
ルカ&ジンチョウゲ
蜜月アン・ドゥ・トロワ
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折れそうな白い手首、筋ばった首元、
そしてそっと目蓋を開かせ瞳を覗くと、
硝子玉のような虚ろな青い瞳が見返してくる。
「…………残念ながら」
目蓋を再度そっと閉じさせて、
ベッド脇に寄り添い合う夫婦にそう告げると
二人は抱き合うように泣き崩れた。
ベッドにはたった15年の生涯を終えた少年が
眠っていた──二度と目覚めない眠りだが。
「う、ぅぅっ…先生…ありがとうございます」
「本当に…息子がお世話に…」
「……いえ、彼は勇敢でした。最期まで…」
口から白々しい言葉が滑り落ち、
ルカは胸に何かが詰まるような気持ちで
息の塊を吐き出した。
15年の人生。そのほとんどがベッドの上。
彼の幸せとは何だったのだろう…。
そして、私は彼に何ができたのだろう…。
「……何だか…落ち込んでるみたいだね」
その言葉にはっと顔をあげると、
ジンチョウゲが憂い顔でこちらを見ていた。
手に持ったグラスを覗き込んだまま
物思いに耽ってしまったらしい。
「あぁ……君は鋭いな…
うん…そうだな、落ち込んでいる…」
「ルカは落ち込むとよくそのお酒を飲むんだね」
「これか…これは蜂蜜酒(ハニーミード)と言うんだ」
「蜂蜜酒?」
透明なグラスを部屋のランプに透かすと、
微かな黄金色の液体が揺らめく。
「蜂蜜を自然に発酵させた酒なんだが、
古代には不死の酒とも呼ばれたらしい」
「不死の酒…」
「うん、いつの時代も人は
夢想してしまうんだな……永遠というものを」
そう言うとジンチョウゲは
少し表情を曇らせて窓の方に顔を背けた。
そして窓の外で沈んでいく太陽を見て、
微かな声で呟いた。
「永遠の命…ぼくもそんなものがあればいいと…
思ってた時期もあったけど」
「………」
永遠に近い時を生きる人形。
店主から聞いた言葉を思い出す。
悲しそうな横顔は彼女が今まで見送ってきた
命の数を物語っていた。
「……何だか湿っぽい話をしてしまったな。
ジンチョウゲ、気分転換に
君の歌が聞きたいな…聞かせてくれないか」
「もちろん、マスターのためならいつでも。
どんな曲が聞きたいかな……
あまり陽気な歌は得意でないけど……」
「そうだな…こんなに美しい夕暮れだ、
少し感傷的な曲がいいかもしれないな…」
それなら、とジンチョウゲは
ゆったりとしたワルツを口ずさみ始める。
軽やかなステップを思わせるリズム。
ウィスク、シャッセ、ナチュラルターン、
流れるように歌声は音階の上を踊っていく。
音楽に身を任せるようにして、
ルカもグラスを置き、椅子から立ち上がった。
「ジンチョウゲ、お手をどうぞ」
「ルカ、きみダンスが踊れるの?
でも…ぼくはダンスはあまり……」
「私も学生以来だから踊れるか怪しいな。
なに、楽しむためのダンスだ。
好きなだけ足を踏んでもらって構わないさ」
「ふふ、それならお言葉に甘えて」
外は夕暮れが迫り、昼と夜が混じり合う。
「現在(いま)」を惜しむように
二人はいつまでもぎこちなく踊り続けた──
#EQCENTRIEQUE #ルカ #ジンチョウゲ
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誰も居なくなった
二人だけの街に
機械仕掛けの時計が
夜の訪れ知らせる
夕闇が空を
ワイン色に染めて
不慣れな二人を
舞台へと誘う
Chasse 'n' Whisk 'n' Natural-Turn
貴方に魔法をあげる
Throwaway and Oversway
その名前は honey mead
蜜月 Un・Deux・Trois
互いの指を絡めて
singin' swingin'
sweetest song
二人の夢を奏でる
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