
M氏の幸福|はちあわせのメッカ【旅芸人一座の物語〜第26話】
遊佐未森|バービーボーイズ
——旅芸人一座の物語、第26話。異色のマッシュアップと、座長と老医師の物語を。 こんばんは。清水はこべ(箱)です。 小説と、マッシュアップコーラスのコラボです。遊佐未森さんとバービーボーイズという異色の取り合わせに、旅芸人一座の物語を載せました。 今回は座長のジェイと、老医師ミムルドの回です。 コーラスはパン振りで多重しています。イヤフォン等で聴いていただけると嬉しいです。 ★・「旅芸人一座の物語」とは・★ エリス羽衣さん企画のリレー小説。書き手はエリスさんと私のふたりです。歌と物語を合わせて、nanaに不定期連載しています。 今回の物語は、前回投稿、第25話の続きになります。投稿順・時間軸とも最新話です。 第25話「WATER」 https://nana-music.com/sounds/06c47e82 ★・・・音楽について・・・★ 2曲のマッシュアップです。 ひとつは、遊佐未森さんの「M氏の幸福」。ミムルドがメインの第5話、第23話でも登場した楽曲です。 「樹々に隠れた」で始まるボーカルが、エリスさん。演奏は、なおはっぷさん。エリスさんのリクエストで、なおはっぷさんがお作りになった伴奏です。 もうひとつは、バービーボーイズの「はちあわせのメッカ」。ジェイがメインの第16話でも登場した楽曲です。 「大胆不敵」で始まるコーラスが私です。普通に歌うとおさまらないので、大サビとBメロの順番を入れ替えています。また、ラストは「M氏の幸福」の3番歌詞を、オクターブ下で載せました。 なおはっぷさん、エリスさん、いつもながらやりたい放題ご容赦ください。今回も楽しかったです。ありがとうございます。 第5話「M氏の幸福」 https://nana-music.com/sounds/060c0969 第16話「はちあわせのメッカ|Despacito」 https://nana-music.com/sounds/0631f1ed 第24話「レンズ|M氏の幸福」 https://nana-music.com/sounds/06c3f96a ★・・・お詫びと御礼・・・★ 腱鞘炎のご心配を下さった皆さん、ありがとうございます。完治はしていませんが、回復傾向です。 今回の物語は8月から少しずつ進めてきました、無理せず、時間をかけておりますので、ご安心ください。 コメント返信も、8月から再開しましたが、半年ほど遅れています。創作・投稿を優先で、無理ない範囲でお返事します。ご容赦頂けると幸いです。 ★ーーー✴︎ーーー★ーーー✴︎ーーー★ 以下、読み物を掲載します。【長文注意】 ※文章の無断転載はなさらないで下さいね。 ※小説にコラボをお考えの方は、ご相談下さい(キャプション表記でお願い事項あり)。(絵師さんゆるく募集中!) ※登場人物は全て架空の存在です。nanaのフレンドさんからお名前を頂いているケースもありますが、性格その他、全て創作で、ご本人とは別の存在です。 ★ーーー✴︎ーーー★ーーー✴︎ーーー★ 【旅芸人一座の物語】 企画:エリス羽衣 書き手:エリス羽衣・清水はこべ(箱) ★まとめ読みプレイリスト ① https://nana-music.com/playlists/3601402 ② https://nana-music.com/playlists/3730970 ★時系列順まとめページ https://nana-music.com/sounds/061cd18e ★ーーー✴︎ーーー★ーーー✴︎ーーー★ 第26話「M氏の幸福|はちあわせのメッカ」 書き手:清水はこべ(箱) ボーカル:エリス羽衣 コーラス:清水はこべ(箱) ★これまでのあらすじ 王宮に招かれた旅芸人一座。その実態は、王宮の秘密を探る諜報集団。 何も知らない、貴族の少女アコベールは、一座の歌姫エリージャの歌に魅了され、エリージャもまた、アコベールの無邪気さに癒される。 一座が王宮を去る日、馬車の荷台に隠れて、こっそりエリージャについて行こうとしたアコベールだったが、すぐに見つかり、王宮へ帰される事に。 一頭の馬に乗り、王宮を目指すエリージャとアコベールが見たものは、炎に包まれたアコベールの屋敷だった。 炎を逃れた二人は、老医師ミムルドの元を訪れる。ミムルドは、アコベールの後ろ盾になる事を約束。 一座に戻ったエリージャは、座長のジェイから、「放火の犯人は一座」という噂が流れている事を知らされる。 一座の汚名を晴らすため、ジェイは、ミムルドの元へ向かうが、途中でみぞおちの痛みに襲われ、落馬。右足を負傷してしまう。 それから数日後、痛む足を引きずり、泉に辿り着いたジェイは、水汲みに訪れたアコベールと出会い、怪我の手当てを受け、ミムルドの屋敷に案内される。 ✴︎ーーー★ーーー✴︎ 「アコベール、私は客人と話がある。昼食の支度を任せても良いか?」 ミムルドの言葉を、ジェイは興味深く聞いた。伯爵令嬢に食事の支度を任せるとは。当のアコベールは、眼を輝かせている。 「全てを任せて頂けるのですか?」 「ああ、好きにやってみるがいい」 頬を染めて、足取り軽く立ち去るアコベールの後ろ姿を、ジェイは黙って見送った。 ✴︎ーーー★ーーー✴︎ 「良い馬を持っておるな。泡を吹いて、ここへ駆け込んできた。主人を助けたくて、必死だったのであろう」 ミムルドはそう言うと、武骨な素焼きのカップに入った香草茶を、口に運んだ。 「誠にご無礼を致しました」 ジェイは丁寧に謝った。正直、馬の事は諦めていた。ミムルドのところに辿りついていたのは、幸先がいい。 「落馬の際に、右足を捻りまして。ここへ辿り着くのに、何日も掛かりました」 「それは難儀であったな」 「ですが、不思議な事がありまして」 ジェイは、それとなくミムルドの様子を伺いながら、言葉を続けた。 「先程、アコベール様が、擦り傷の手当てをして下さったら、どういう訳か、捻挫まで治りました」 「ほう」 「驚きましたよ。血止めの薬草で捻挫が治るなんて。擦り傷そのものも、跡形も無く消えましてね」 「ふむ。それは確かに不思議だ。アコベールが使ったのは、ヒメゼニ草であろう。血止めの効果は高い。だが、捻挫に効くものではない」 ミムルドは、少し考える素振りを見せたが、やがて、ジェイをの目を見つめ、口を開いた。 「もしや、何か悩みでもあったか? 心に大きな衝撃を受けると、一時的に、体に不調をきたす事がある」 ✴︎ーーー★ーーー✴︎ 「大きな衝撃、ですか? ……さてねえ」 ジェイは、みぞおちの激しい痛みを思い出しながらも、腑に落ちない、という顔をしてみせた。 「まあ、落馬というのは、心身に衝撃を与えるものだからな。何にせよ、無事に辿り着けて良かったな」 ミムルドは、穏やかに微笑むと、香草茶を口にした。 ——相変わらず、食えねえ爺さんだぜ。 ジェイは話の接ぎ穂を考えながら、香草茶に口を付けた。渋味が強いが、癖になる味だ。 ミムルドは、黙ってジェイを見つめていたが、やがて、カップを置いて、口を開いた。 「世間話はこのくらいで良かろう。伝言は届いている筈だ。この老いぼれに、用があるのではないか?」 ✴︎ーーー★ーーー✴︎ 「ええ、旅芸人風情を、ミムルド先生がお助け下さる機会なんて、そうそうありませんからね」 ジェイは商売用の笑みを浮かべた。 「用向きを聞こうか」 「単刀直入に伺います。先生は『山の民』にお詳しいですね?」 ミムルドは首を傾げた。 「『山の民』? その答えがそなたの助けになるのか?」 「恐らくは、先生ご自身の助けにもなろうかと」 「話が見えぬが」 ——爺さん、食いついてきたな。 手応えを感じながら、ジェイは話を続けた。 ✴︎ーーー★ーーー✴︎ 「ステラリア伯爵城の火事の話は、ご存知ですね?」 「アコベールから聞いておる」 「最初、あの火事は『山の民』の祟りだという噂があった事も?」 「いや、初耳だ」 「そうでしょうな。あっという間に立ち消えましたから。代わりに、事実無根の別の噂が立ちまして」 「なるほど。旅芸人の一座が火を付けた、という噂は届いておる」 「迷惑な話ですよ。身の潔白を晴らさないと、興行も打てやしません」 「それで、『山の民』について調べ始めたという訳か」 ジェイは笑顔を深くし、畳み込んだ。 「一座の潔白は、アコベール様がご存知です。しかしながら、アコベール様のご無事が明るみに出ると、先生も、アコベール様も、お命を狙われるやもしれません。我々が無実だと、都合の悪い輩が居るようですからね」 「なるほど」 「私には武術の心得はありませんが、情報屋には情報屋の戦い方がございます。お役に立てるかと思いますよ。お力をお貸しくださいませ」 「さて、どうであろうな」 ミムルドは、射るようにジェイを見た。 「そなた、病に取り憑かれておろう」 ジェイは黙った。無意識の内に、みぞおちに手を当てる。 ✴︎ーーー★ーーー✴︎ 「ひとつ、聞いておきたい」 ミムルドの口調はゆったりとして、どこか遠くから聴こえる。 「もしも、そなたの病を治すのと、一座の汚名を晴らすのと、どちらかしか選べないとしたら、どちらを選ぶ?」 「一座ですよ」 ジェイは即答した。 「死に至る病でも?」 「当たり前ですよ」 ジェイは口元を歪めて、薄く笑った。 「俺はいずれ死ぬんですからね。それが、明日だろうと、ニ十年後だろうと、大して変わりゃしねえ」 「ほう」 「だけど、音楽と踊りは違う。奏でる奴と歌う奴が居て、踊る奴が居れば、残るんだ」 父のフィドルの旋律。それに合わせて踊る母。二度と耳にする事も、目にする事も、叶わない音色と姿。 同じ旋律と振り付けを、ジェイが選りすぐった奏者と踊り手が、奏で、舞う時、音楽と踊りの中に、ふたりを感じる瞬間が訪れる。 「俺が死んだって、音楽と踊りは、少しずつ形を変えながら、ずっと残る。いや、残してみせる」 ✴︎ーーー★ーーー✴︎ 「なるほど、それがそなたの本音か。一座は命よりも大切、という訳だな」 ミムルドの声は笑みを含んでいる。 「良かろう。命よりも大切なものがある者は、強い」 ジェイは口を開こうとした。だが、うまくいかない。急速に体の力が抜けていく。 ——やられた。あの香草茶だ。 「悪いようにはしない。そなたの命と、一座の命運は、ひとまず、このミムルドが預かろう」 体のバランスを失い、テーブルに突っ伏したジェイの背中に、ミムルドの言葉が響いた。 ★ーーー✴︎ーーー★ーーー✴︎ーーー★ ★続きの章の投稿は、コメント一斉通知や、リポスト等でお知らせします(通知をご希望の方は、コメント頂けると嬉しいです)。 ★投稿順続き 第27話「人生ゲーム|WATER」 https://nana-music.com/sounds/06c61185 ★時系列続き(2024/10/14時点) 第27話「人生ゲーム|WATER」 https://nana-music.com/sounds/06c61185 ★・・・あとがき・・・★ 創作のこぼれ話をひとつ。 今回一番苦労したのは、話の展開でも、コーラスでもなくて、「ヒメゼニ草」の命名でした。はい、これ、架空の植物です。日本のチドメ草に似た形状の植物を想定していますが、多分、別物です。 一座の物語の舞台は「森の国」という設定なので、これからも幾つか架空の草木が登場する予定があります。こういう枝葉の設定を考えるのが、どうやら私は芯から好きみたいです(笑)。 今後の投稿で、見慣れない植物の名前を見つけたら、「あ、楽しく作ったんだろうな」と、にやりとして頂けたら、嬉しいです。 さて、2年振りに再開した一座の物語。この第26話からが、今年書き進めた分の投稿です。新たな気持ちでこの物語を紡げる事を、とても嬉しく思います。 初稿はあと2話分出来ています。今回、かなり引きが強いラストになりましたので、次回は早めに出せるといいな。腱鞘炎の機嫌を取りながら進めますので、お待ちいただけると幸いです。 次回は久しぶりに、ボーカルもコーラスも全て自分で入れる予定なので、サウンド作りにも苦戦していますが、頑張ります。 あとがきまで読んで下さった方、本当にありがとうございます。よろしければ、またお目にかかれます様に。 ✴︎ーーー★ーーー✴︎ 「M氏の幸福|はちあわせのメッカ」 【旅芸人一座の物語〜第26話】 ★音楽 遊佐未森「M氏の幸福」 JASRAC:012-4061-7 作詞:工藤順子 作曲:外間隆史 原曲歌唱:遊佐未森 バービーボーイズ「はちあわせのメッカ」 JASRAC:068-9125-0 作詞:杏子 作曲:Barbee Boys 原曲歌唱:バービーボーイズ 演奏:なおはっぷ ボーカル:エリス羽衣 コーラス:清水はこべ(箱) マッシュアップアレンジ:清水はこべ(箱) ★読み物 「旅芸人一座の物語」 企画:エリス羽衣 https://nana-music.com/sounds/05fd857f 書き手:エリス羽衣・清水はこべ(箱) (第26話書き手:清水はこべ(箱)) #なおはっぷさんとエリス #エリス遊佐未森 #旅芸人一座の物語 #なおはっぷさんに感謝の箱 #エリスさんに感謝の箱 #箱の中の遊佐未森さん #箱の中のはやりうた #箱のまっしゅあっぷ #箱のこーらす #箱のよみもの
