戦友の声
Last Note.
戦友の声
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「何を思うって…それは、アイツとの約束が…」
バリバリバリ!!ジーグの体から閃光が走る。その強い力に思わず苦痛の声が上がった。槌を握る自分の姿のそいつは嘲笑って槌を肩へとかけた。
「愚かなり、我が片割れ。お前のその人生は吾輩の径である。故にお前の言わんとする事など手に取る様に分かる。…そしてその弱さもな」
夢か現かもはや分からない。二人の間には何も無い闇だった。空虚な空間で浮かんでいるような感覚すらあった。その暗闇にジーグの体から走る稲妻だけが光を放っていた。
自分を憑神だと言うそいつは、重々しい槌を軽々と暗闇に振りかざした。すると黄金の稲妻が辺りを埋め尽くすかのように下へと流れ出す。ジーグを睨みつけて不敵に笑う憑神は、また更に槌を振りかざすと稲妻は吸い寄せられるように一つにまとまり、やがて巨大な龍と化した。龍は憑神の意のままに空を舞うと、ジーグへ詰め寄り大きな口を開けて雷鳴の雄叫びを上げて消え去った。
「嗚呼、地の砂で山を作るが如き容易い事よ。雷を操るなぞ…でもお前は…」
そう言うともう一度槌を振った。雷はパリパリと音を立てながら、何かの形に変化していく…人…子供だろうか?やがて頭の奥から声が響いた。
「詠唱だけでどうにかしようってのがおかしいんだ!いっそ武器になっちゃえばいいんだ!杖みたいに魔法を帯れば…憑神が武器に憑けばいんだ!そうすれば思うように使いこなせるのに!」
ジーグの目がかっと見開いた。昔の映像を見せられている…!憑神は意地悪い顔で目を細めた。
「約束…だろうか?確かに大義名分は友との約束なのかもしれん。しかし、その始まりは不変だ。お前は…吾輩の神格を使いこなせない。その事実から逃げる為に道具に頼った…違うか?」
「ち…違う!私は…!!」
今まで苦しみながら向き合い続けた憧れの人の死、沢山の仲間に支えられて出来上がりつつある銃、寝る間を惜しんで学び続けた孤独な日々も…完全否定を受けた様な感情に激怒し声を荒あげるが、言葉に詰まった。相手は憑神、姿が全てを表していた…相手は自分自身である。憑神とカミツキ、二つで一つの存在。反論できなった。今でも単一魔法を完璧に使いこなせない。強すぎる力に振り回される事に苛立つ。その自分を、銃が完成するその寸前で、憑神から突き付けられる…想像を絶する苦悶に顔が歪んだ。
「今一度問う。古より詠唱にて力を共にしてきた。しかし、我がカミツキよ、お前は吾輩の神格を道具に託そうとする。さて、それを成す道すがら、お前は何を…思う?」
先程まで悪意の混じった表情で向き合っていた憑神の表情が変わっていた。悲しみをたたえた、穏やかな顔だった。
「…我が手にミョルニルの槌!轟き打ち砕け!」
体に走る電撃の痛みに耐えながらジーグは唱えた。しかし、手をかざした方向に雷は落ちず、ジーグの後ろに虚しく光った。失敗を揶揄する事も無く、憑神は静かに見つめた。
「轟き打ち砕け!…轟き打ち砕け!!…くそ!私は!!逃げる為じゃない、私は…打ち砕け!」
魔法を連発するが、不発だったり威力が弱かったり、普段以上に精度が悪い。体の痛みと動揺がモロに魔法に出てしまっている。
「吾輩は…全て見てきた。お前は吾輩、吾輩はお前だ。神格を強く受け継いだが故に、ヒューマノイドの体では溢れてしまうこの力を…お前は何度も何度も…そして今も…この様に立ち向かってきた。吾輩もまた、お前と共に闘ってきた」
その言葉にジーグはハッとした。いつの間にか自分の頬を涙が伝っていた。鏡のように自分の姿の憑神も泣いている。…憑神の心が自分に直接流れるのを感じた。ジーグの魔力と魂の声を必死に聞いて、一つになって力を貸そうとするトールの姿…何十何百と唱えられる度、全身全霊で努力するその心が。
「トール…お前…」
トールは槌を天高くかざした。激しい閃光が辺りを包むと、また電竜を生み出した。
「答えろ我が片割れ!お前の道は何なのだ!?」
「私は逃げる為に努力してきた訳じゃない!私は…!!お前と更に向き合っていく為にこの道を進んでいるんだ!トール!!」
ジーグに襲いかかろうとした電竜はジーグの一撃に貫かれ、形を保てず消えていった。
「魔法を道具で制御するために作ってるんじゃない…より明確に意志を結び魔法に寄り添う為のものだ…あの銃は憑神交心の呪詛を基盤に作られている。魔法の鍛錬なくして、銃を操る事は出来ないんだ」
「…分かっている。分かっているのだ、片割れよ。吾輩の弱さなのだ…お前は逃げ道の為に銃を作っていない事など分かっているのに…許せよ…」
説明しながら事切れたジーグを優しく抱き止めた。深い深い眠りに入っていくジーグを愛おしそうに見つめるトール。
「吾輩と共にあってくれ。幼子の頃から努力するお前を…愛している」
闇は静かに2人を包み込んだ。…目が覚めたのは昼を過ぎた辺りだった。いつもの工房、いつものベッド。不思議な夢を見たような…首を傾げるジーグだったが、すっかり快調になった体を勢いよく起き上がらせると銃の続きに取り掛かった。
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憑神と心を通わせました。
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