エールのリレー
LiSA
エールのリレー
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なんでも屋事務所の小さなソファー。困惑と歓迎とワクワクで踊るいつもの尻尾。妙な緊張感。客人は堪らずちぇりを見つめた。
「キャン!ごめんなさい!えとえとえっと…なんでも屋へようこそ!要件をどうぞ!」
客人に気を取られてうっかり沈黙してしまっていた。慌てていつもの挨拶を述べメモを取り出す。
「いや、急かしたわけでは…。ふふ、そんなに驚かないでください」
尻尾を見つめて微笑むレオ。この事務所に初めて来たお客様と言うだけで緊張するのに、その人物がまさかのレオである。冷静沈着な理事会員…大概の事は自分でこなせそうな彼が…わざわざ何故ここに来たのか、気になってしょうがない。
「実はですね…今週中に僕は正式に理事会員を退職してキリエに移住するのです。バドンとキリエの仲介の仕事も目処が着いて、やっと書類が通ったんです。住まいももう決めました。後は…」
レオは静かに目を閉じると、シュルシュルと美しいターバンを崩し出した。綺麗に揃った光沢のある艶やかなウエーブが露になる。
「キリエの民として、僕は彼女の人生に寄り添いたい。たとえそれが拒まれても…僕は僕を救ってくれたこの街で一生を捧げるつもりです。この街には愛するものが、守りたいものが沢山あるから。どうか、お手伝い願いますか?キリエの民になる為に。そしてさとらさんを迎える為に」
そう言うと恥ずかしそうに微笑んで胸元に手を添えた。砂漠の街の衣装…確かにまだ彼は異国の人だ…。そうか、彼は生まれ変わろうとしている。そんな大事な場面に、私はお手伝いさせてもらえるんだ!ちぇりはレオの手を握る。
「任せて!!キリエの事は何でも教えるし、きっとレオさんは素敵なキリエの仲間になれるよ!」
興奮で赤くなる頬、やる気に逆立つ耳と尻尾。勢いに驚きつつ、優しく微笑んでよろしくお願いしますと呟いた。
最初はキリエのお散歩。商店の大通り、広場、世界樹へ続く道、危ない川沿いの裏道…自分より大きくて頼りがいのありそうな人に、逆に頼られて道案内をする自分…何だかちょっと優越感。ついつい色々説明しまくってしまう。そんなちぇりにまっすぐに向き合って、どんな言葉もうんうんと笑顔で聞き入れるレオ。次に商店街の協会へ。理事会とは違い、我等商人と住民を支えるキリエ独自の要である。中に入って軽く挨拶を交わした。
「そういえば、レオさんはキリエでどんなお仕事をするの?」
「ああ…たまたま空いていた店が素材屋だったんです。だから、そのまま引き継ごうかと思ってます。僕には故郷の物品を販売できる強みがあるし、何よりさとらさんの支えになれるかなって。呪詛は沢山の素材を必要としますからね」
やっぱり凄いなぁ…ちぇりは素直に思った。未来を既に見すえて、自分のあり方を決めている。しかも愛する人の事をちゃんと考えて…深い愛に触れて、ちぇりの心はますます震えた。
「くぅん、素敵!!絶対上手くいくよ!広告も、配達も、調達も気軽に頼って!私、応援する!」
踊る尻尾と耳が、まるでポンポンのようにフサフサと揺れてエールを送った。
いい雰囲気、順調な案内。しっかり大事な事はメモを取り、キリエで生活する準備はバッチリ。仕上げにスイの防具店へ!砂漠の服を脱いで、見た目からもキリエの住民に…ちぇりのワクワクは止まらない。二人であれこれ相談しながら服をチョイスして着替えてみるが…
「えっと…はぁ…。申し訳ないです。僕どうもセンスがないみたいで…」
赤い顔で出てきたレオ。砂漠の街で好まれる色使いを基調としたどこか重々しいトーンに、ちぇり好みの愛らしい服装。シャープな印象に引き締まった褐色の肌の青年が着るにはあまりにチグハグな服装。大丈夫!次の試してみよう!と励ますが、何を着ても違和感、似合わない、どこかおかしい…。さっきまでの好調が嘘のようだ。
「オシャレに気を使わなかったばかりに…僕がもっとなんでも似合う素敵な人だったら良かったのに」
…とんでもない。レオは充分素敵だしハンサムだ。現に、店に来ていた客達がレオを見つめて小声で黄色い声を上げていた。しかし、本人は全く自分の美しさに気づいていない。それどころかドンドン落ち込んでいくレオ。みりんから始まったエールのリレーに何度も励まされ、彼はここに立っている。歩みを止めてはいけない!ちぇりはレオの腕を掴んだ。
「レオさんはカッコイイよ!2人がダメなら誰かを頼ればいいんだよ!諦めないで!私が絶対応援する!」
ちぇりは店長のスイを呼んだ。流石はプロである。彼の雰囲気を壊さずにしっかりとキリエの住民として違和感のない服をチョイスしてくれた。
「これは私のコーディネート!えへへ」
そう言うと、レオのターバンをマフラーのように巻き、アクセントにルビーのブローチをつけた。
「凄く素敵です。僕の国の物があると、個性が出るというか…本当に良い…ありがとうございます。ちぇりさんを見てると諦めてはいけないと心が奮い立つ…。不思議な方だ」
この言葉が嬉しくて、またパタパタと栗色が揺れ出す。微笑みあった後、レオは難しい顔をした。
「後は何処でプロポーズするかですね…どうしたらいいかなぁ…」
「あ!それならとてもいい人を知ってるよ!私から声かけておくね!えへへ」
レオは一瞬首を傾げたが、お願いします…とちぇりに全てを委ねた。
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プロポーズ大作戦の協力をしてください。
尚、このアンサーは「HoneyWorks」で答える事。
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