その度、力になる
ラックライフ
その度、力になる
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待ちに待ったジーグの帰還。沢山の兵が協力して依頼品を運んでくれた。すぐに搬送は終わり、仕事に取り掛かるだけ。それはありがたいのだが…
「…冗談キツイな…」
剣や槍、弓、斧…あらゆる武器がぎっしり入った木箱がズラリ。何箱あるのか数えるのも億劫になる。自分が休んだ代償を見せつけられるのは、なかなか精神的に来るものがあるとジーグは溜息をついた。
軍からの協力者を見送った後、ジーグは心を無にして仕事の山へと立ち向かった。大変な量ではあるが、武器屋にとってキリエの自衛軍所有の武器をメンテナンスするのは毎度の慣れた仕事だ。何度も見ている武器。既に一つ一つの癖や欠点も頭に入っている。…これはまた雑な使い方をしてるな…これは前回の補修が上手く効いてる…。まるで武器と対話するかのように、見慣れた武器を着実に手直ししていく。ああ、やっぱり楽しい…ジーグは仕事にのめり込んでいった。
「…またこいつか。いつも消耗が酷い」
メンテナンスを初めて3日後、大分木箱が工房から減ってきた。ジーグはいつも通り、順番に木箱から武器を取り出した。他の武器に比べてボロボロの湾曲した短剣。毎度補強と研ぎ直しをして整えてやるのだが、戻ってくる頃にはまた同じ有様。どういう使い方をしてるのか、いつもこの武器が戻ってくる度に疑問に思っていた。…ちょうどメンテナンスが終わった武器がだいぶ溜まった。1人で運べる量仕上がる度、軍へと返しているジーグは、納品するついでに短剣の所有者を探そうと思いついた。
「…あ!ジーグさんですね!武器のメンテナンス、心より感謝致します!」
門番の新人兵が大きな声で敬礼をする。おー…と軽く返しながら、ジーグは重い木箱を抱えて詰所の中へと入っていった。そして武器倉庫の担当者に納品受付を頼んだ。
「いやぁ、流石だね。蜥蜴のジーグ。おまいさんの鋭い目は雑な仕事を許さない。代役の武器屋とは比べモンにならんよ」
初老の蛇の獣人が嬉しそうに武器を受け取った。様々な武器を使いこなし、キリエでは有名な兵隊であった。現役を終えても尚、武器への知識を買われ、武器倉庫担当として働いている。同じ爬虫類の獣人の好で、ジーグとは仲が良いようだ。
「どれだけその代役って奴は酷い仕事したんだよ。私はいつも変わらない仕事をしてるだけだ」
2人はふふっと笑いあった。ところで…とジーグは懐からあの短剣を取り出した。
「こいつの所有者を知らないか?毎回ボロボロになってウチにくるんだが…?」
「こいつか…それは悪かった。許してやってくれジーグ。こいつはね…ずっと戦ってるんだよ」
獣人は目を細めて語りだした。
所有者は昔、罪人であった。過去の愚行により、忌み子へと落ちてしまった。魔法も使えぬ弱い自分を知り、初めて自分は如何に意思が弱く、連んでいた下卑な輩に流されていたのかと痛感した。無論、弱者は喰われるのが裏の世界。そこで初めて自分が行った非道がどれだけのものか、死を前にして思い知らされた。命からがらキリエに辿り着き、罪を償いながら忌み子の世話役の助力でカミツキに戻り、軍で働く事となった。
「そこで初めて自分で稼いで買った武器なんだそうだ。あいつは誰よりも熱心に、誰よりも長くその短剣で鍛錬を重ねてるよ。しかし、何も短剣じゃなくても…もっといい武器を買う事も、軍から支給されるものを使ったっていい…俺はそう言ったんだ。そしたらそいつは…」
この短剣に救われたのだ。そう言ったのだという。無骨でシンプルな短剣。しかし、今まで使ってきたどんな武器よりも丁寧に作られており、真っ直ぐな想いが、その使い心地と耐久性から伝わった。武器なんて所詮攻撃出来ればいい…そうとしか思っていなかった。思えば生き方全てがそうだったのかもしれない。しかし、違う…人も環境も物も…全ては己の有り様に合わせて集まってくるのだと知った。
「この短剣が相棒でいる間は、自分は真っ当だって思えるんだと。この短剣のように、自分も強くなりたいってな…」
そう言って笑いながら短剣の柄に巻いた革を指でずらした。そこには『ジーグ』と彫られている。
そうだ…この短剣は昔店で売っていたものだ…ジーグは不意にアイツの言葉を思い出した。
『私のこの技術が人々を救って、幸せに導けたら…それはとても幸せな事だって思うんだ』
ジーグは獣人から短剣をひったくると急いで工房へと帰っていった。
「私だって負けずに日々技術を磨いてるんだ。今度はどんな使い方をしたって耐え抜いてやる!」
2日後、ジーグは意気揚々と武器倉庫に向かい、声を上げた。担当者の獣人は優しい笑顔で短剣を受け取るとじっくり見つめ、軽く振り回した。
「いやぁ、流石だね。蜥蜴のジーグ。おまいさんの鋭い目は雑な仕事を許さない」
良い仕事をした時のいつもの言葉が帰ってきた。ジーグの目に光が灯る。
「だがねぇ、今1歩。良い武器屋ってのは納期を守るもんだ。今日は全てのメンテナンスを終えて、納品する約束のはずだがね?蜥蜴のジーグ…」
しまった…!話につい胸を熱くし、更に彼の鍛錬に耐えられるにはどうするべきか模索するのに没頭してしまった…。ジーグは司令官室へ、期限の延長を懇願しに向かった。
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賽子クエスト 失敗
リザルト
クリティカル 1
確率 1/2
オーバーキルワード 無し
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