それでも歩いていく
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それでも歩いていく
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バドンから帰ってまだ数日の事、仕事を一段落終えたニフがトントンと書類を揃えていた。
「你好ニフー!メアリだヨ!?会いたかたカ?」
日はもう光を落としだしているのに、サンサンと輝く笑顔の帰還者が現れた。ニフは眼鏡を直しながら嬉しそうに微笑む。メアリは出張所のカウンターにベタりと寄りかかって二へへ!と笑って見せた。
「ニフにお土産ヨー!メアリ気が利くネ!」
エッヘン!手に持っていた紙袋を差し出す。ニフはランランとした目で紙袋を広げると、お菓子や小さな楽器、貝殻など、可愛らしくて南国を思わせる品が出てきた。
「コレはコハクと行ったスイーツのお店の商品!コレは誰でも演奏できる楽器ヨ!後々ー」
ニフが聞くより先に待ちきれないメアリは嬉々として土産の説明をしだす。どれも海と太陽の匂いがする。…1つ、それらとは雰囲気の浮いている少し草臥れた地図が入っていた。
「これは…地図…ですか?」
お喋りに興じていたメアリがふっと影を落とした。そして穏やかに微笑んでニフに問う。
「メアリ、ニフの事大好きなのに知らない事多いネ…。ニフは、もし、今のニフじゃなかたら…どんなニフになってたカ?」
話の意図が読めず、ニフは首を傾げた。哎!とメアリは短く声を上げて言葉を続けた。
「えと…理事会員じゃなくて、キリエにもこなかたら、どんな人生だたかなって…この地図をくれた子と話してて思たヨ…」
メアリは事の次第をゆっくり語りだした。
天候の穏やかなバドンだが、その日は特に良い天気であった。コハクはレオの仕事を手伝いに出てしまった。せっかくの一人の時間、あの人にお土産を探そう…メアリは意気揚々と出かけた。
いつ来てもバドンの商店街は楽しい。キリエと違ってお土産店が多く、目移りし過ぎて真っ直ぐ歩けないほどだ。髪飾りの蝶のようにヒラヒラ、フワフワ…メアリは店を回っていった。
すると、メアリの目を引く異様な人物が店先で立っていた。細い体に動きやすそうな服装、何より目を引くのは体より大きなリュックにカバン…ぶら下がったマグカップがプラプラと背中で揺れていた。
「…何?…あれ?君、ここの人じゃないね?」
目線に気付かれてしまったようだ。慌てるメアリを他所に優しい声で話しかけてきた。
「へ?哎、そうヨー。メアリはキリエからバドンを視察しに来たネ!おネーサンは何者カ?」
人物より荷物が気になり、目線はカバンを向いていた。その姿に彼女は笑いながら答えた。
「あはは…気になるよね。私は旅人なんだ…もう何年も旅を続けてる」
成程、荷物の多さや姿に納得した。2人は雑談を通し仲良くなり、近くの露店でフルーツを買ってベンチに座った。
「旅人さん、面白い人ヨ!お話も楽しいネ!メアリも色々旅に出たけど、旅人さんはもと凄いヨ!なんでも知てるネ!尊敬するヨー」
「メアリも凄いじゃない。さっき見せてくれたジャグリング…あれってタネとかあるの?本当にやってるの!私には出来ないなー」
明るい笑い声が響く。沈黙…ふと、メアリは気になった事を口にした。
「ところで、旅人さんはなんで旅してるネ?」
旅人は笑顔のまま空を仰いだ。フーと息を吐く。
「私は半神なんだ。一応亜人の括りに入るけど…どの人種とも違うし、1番人口が少ない人種…理解されるのはなかなか難しい。何より…カミツキになれない唯一の人種だから…どこに行っても生きにくくてね…」
半神が魔法を使えない事はニフやアグルを見ていて知っていた。しかし、彼らは呪詛を使い、半神の目を使って仕事をしている。神に近い特別な人種…最も人口の多い人間のメアリにとって、憑神が見える半神は小さな憧れすらあった。
「メアリの街は理事会で働いてる半神が居るヨ?危ない世界でかっこよく戦てる半神もいるネ!珍しい半神カコイイよ!旅人さん、メアリ羨ましいネ!旅人さんもカコイイ!!」
悪意のないその言葉に複雑な顔をしながらも小さく微笑んだ。
「…魔法が使えない事を補うのは簡単じゃないんだ…どこの仕事も断られるし、勝手にその人の憑神を知ってしまう目があるから、半神ってだけで避ける人もたまに居る…特に私の生まれ故郷は酷くてさ…世界って残酷だなって思った。どの世界でも、どの人種にも溶け込めて愛される人間になりたかった…半分は人間の血なのにな…」
確かに人間の見た目、言われなければ人間だと思うだろう。けれど、輝く日光に照らされて、ちらりと腕に半神特有の魔障のヒビが見えた。
「迫害を受けてきた狭い狭い故郷を世界だと思ってた…でも、故郷の外にも大地が続いてて…私は世界を見たいって思った。外の…その次。世界を」
沈黙が2人を包んだ。彼女の理不尽への悲しみがヒシヒシと伝わるが…メアリは思いを間違ってるとは思えなかった。
「デモ…やっぱり旅人さんカコイイと思うネ。神様と人間の子供で、特別な力があるネ!それは宝物ヨ!!それに…辛くても世界を知ろうとしたネ!メアリ、それ尊敬するヨ!旅人さんは心が世界みたいに綺麗で、広い人!メアリわかるヨ」
「あは、お互いを憧れるってなんか凄い事だね」
嬉しそうに2人は笑った。旅人はポケットから草臥れた紙を取りだし、メアリに手渡した。
「これ、あげる。憧れのメアリとその半神さんに!今まで旅した場所の地図。私の存在の証」
そんな大事なもの…!とメアリは旅人を見たが、彼女の笑顔で全てを悟った。これは軌跡、彼女はまた旅をする…変えられぬ自分の命を輝かせて。
「謝…必ず渡すカラ!いつかキリエにも来てネ」
メアリと旅人は出会った時の爽やかな笑顔のまま手を振って別れた。
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各国の地図をお土産に手渡しました。
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