異国の果物と異文化
ザ・ベイビースターズ
異国の果物と異文化
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ずっと降り続く雨が止むと同時に強い日差し。肌を焼き付ける空の下でジーグは悪態をつくが、口元には微かな笑み。さぁ、出かけよう!
会場はキリエの門の周辺、想像より大きなマルシェ。大勢の住民や旅人達が店を回っている。ジーグは食材を扱う店のブースへ移動した。
武器を扱う国は沢山あるが、食を扱わない国はひとつもない。このブースだけで世界を見ている気分だ。料理を売る店も出ている。カラフルな食材たち…中にはこれ食べ物か?と思うものもある。
「ハーウェ!おっ客さぁーん!見てってよぉ」
目的を忘れかけていた頃、マルシェの端から声を掛けられた。こんな所に店があったとは。驚いて覗くと、どこのブースよりみすぼらしい店があった。そこに褐色の肌をした男が1人。引き締まった良い体だが、ニタっと人懐っこい笑顔を浮かべた顔はどことなく締りがない。チラッと商品を流し見て、ジーグは踵を返した。
「あー!ちょっとー!」
男は独特のリズムを刻み、ステップを踏んで印を結んだ。するとジーグの足が動かなくなった。
「ここ誰も来ないんだよぉ。頼むから見てってぇ」
情けない顔で半べそをかく。魔法?呪詛?只のダンスだけで足を停めさせたなんて…強く警戒するが、白々しくなるほど男に敵意を感じられない。術を解く方法が見当たらないし…舌打ちをして男の元へ戻る約束をする。
「ハーウェ!僕はアラタ。世界樹からずっと離れた海の向こうの小さな島から遥々来たんだ」
「さっきのはなんだ?バインドのカミツキか?呪詛を仕込んだのか?場合によっては軍に突き出すぞ」
「え?怖い怖い!お客さん。僕何かした?…あ、さっきのかぁ。これは僕ら一族の祈りのダンスだよ。僕らは闇の魔女ランダの半神なんよねー」
バロンの対となる、悪の魔女ランダ。強い闇の憑神だが、どうも威厳がアラタからは感じない。おやつ食べてていーい?…接客中なのにカバンからおやつを取り出し、皮をむいて食べ始めた。
「…信じてないでしょ?はぁ…ランダの踊り子は女しか継げないんだよね〜。ねーちゃんならみんな平伏すんだけどな…どの世界も男はつらいよってねーあははは〜」
男というより、この弟をもった姉とやらが大変そうだ。溜息をひとつ、店のガラクタを眺める。そんなジーグをアラタはニコニコ見つめていたが、あるものを見つけて声を上げた。
「わ!お客さん。面白い楽譜!見せてよ?いい?」
楽譜!?何の話だ…?相変わらずおやつの果物を頬張りながらジーグの腰元を指さす。そこには依代銃…恐る恐る渡してみる。
「面白い楽譜…うんうん、こんな感じかな?」
銃を膝に置き、抑揚をつけて手を叩きだす。
「楽しくなるようなリズムだね!ふんふん…あー、なるほどぉ!これは神様を呼び寄せる楽譜だ」
半神の目が、ジーグの憑神を見つめていた。銃に組み込んだ憑神交心の呪詛を見ただけで読み解いただと!?詳しく教えてくれ!ジーグは叫んだ。
「あー、そっか。呪詛っていうのかぁ。僕らの国には呪詛ってものがないんだ。代わりに祈りのダンスがあるんだよね」
どうやら、術式や魔道法則等の理論を札や装置で作るのではなく、彼らはダイレクトにその理論を体全体で結ぶ印と歌、リズムで呪詛を作り上げているようだ。ランダの末裔は天才的なセンスと勘で、それらを舞として伝承し、カミツキとして魔法を使えない欠点をカバーしてきたのだろう。
「どんな魔法もダンスで生み出せるんさ。後は悪の根源である御先祖が僕らを襲わないよーにって祈る役割もランダの踊り子にはあるんよ。意外とすごいっしょ?僕のねーちゃん。僕は音を読んで拾えるだけなんだけどね」
「それでも、呪詛を読むとはすごい事だ!頼む、まだ1歩銃が完成しない!何が問題か教えてくれ!」
「このリズムじゃー神様もいつ入っていいか分からないんだろうねぇ。ねーちゃんと合わせて踊ってみたら分かりそうなんだけど…ごめんよ」
んー…と悩みながら、赤い果実をまたカバンから取り出した。
「そういやお客さん。食材ブースでなにか探してたみたいだけど、目的のものは見つかった?」
「あ、そうだ。目的があったんだ…実はミックスジュースに入ってた、赤い果実を探してるんだ…キリエには出回ってない甘い果実で…」
へぇー大変だねぇ…と言いながら、アラタは美味しそうにまた齧り付く…
「って!お前いつからそれ食べてたんだよ!?」
「えー?割と最初から?ちゃんとおやつ食べてていいか、僕聞いたんだけどー?」
この男のノリですっかり見落としていたが、香りや色からして、きっとこのおやつの果物に違いない。まさかこんな店にあったとは…ジーグはお金を払い、目的の果物を買い込んだ。
「まだこの街には居るのか?また銃の事で話したいんだが…このフルーツもまた買いたいしな」
「ちょーどよかった!実は僕、本当は理事会員さんに会いに来たんだよ。観光ツアーの売り込みでね。夏には海水浴に森林浴…とってもいーとこだよ。是非遊びに来てねー」
ニターっと満面の笑みでパンフレットを手渡してきた…バドン島…か。ジーグは大事にパンフレットをしまい込んだ。
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半神アラタと知り合いになりました。
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