雨の中の私とわたし
keeno feat.初音ミク
雨の中の私とわたし
- 25
- 1
- 0
雨音がどこまでも響くのに、雨など一滴も降っていない…バケモノフキを抱えたフィーが羽の模様が広がる世界で1人浮いている。箱の届け先を探して気を失って以来だ…これはきっと夢…雨の降っていない空間にフキの傘を抱えて、呆然とする。傘をずらすと、頬に雨が滴る。
…雨はお好きかしら?
今度は、からの空に手をかざす。降っていないはずの雨が手にポタリ。
…貴女は何を望むの?
雨と共に流れ込む優しい声。なのに、傘を手放せない。ここから出るのが何となく怖い。傘の下という、自分が支える、自分を守る小さな世界。
「お話するには、この傘を捨てなければならないのでしょうね。でも…何となく怖い。なぜだか分からないけれど…雨は…苦手…」
フィーの目から涙が零れた。あれだけ煩かった雨音が今まで無かったかのように消え去り、羽の模様はうねりながらひとつに纏まる。はっとするフィー、目の前にはフィーが立っている…しかしその背中に羽はなく、彼女の周りには花が咲いては萎み、また咲き出す。気持ち悪い程の無音…なのにいつの間にか雨が降っていた。フキの傘から雨水が流れ出す。
「初めまして、お久しぶり…シルフの末裔、私のカミツキ…私は女夷」
フィーの姿のそれは語りかける。驚きのあまり絶句し答えられないフィー。女夷は言葉を続ける。
「雨は苦手…貴女らしい答え。私は知っているわ、私の片我。雨は自分でどうにも出来ないモノ、けれど大事なモノ、命を潤す尊いモノ…」
傘をさしているフィーに対して、女夷は傘をさしていない。雨に全身を濡らしながら微笑む。
「雨は貴女にとって『慈悲』の象徴。人の優しさ…それはとても尊く、時に煩わしい。けれど、それ無しに生きていけないのも貴女はよくよく知っている…」
何を言っているのか分からないが、何故か胸が痛い程鼓動が激しい。ギュッとフキを掴む。
「有難みを知って、尊ぶ心がある。けれど、人の慈悲は自分の力で生み出す事はできない。それを雨に象徴したのね。そして、貴女は傘をさしている。優しさに感謝しながらも、どこかで触れる事を恐れてる。水に濡れるのを避けるように…」
…酷く胸が痛い…。涙が止まらない…何故?何故…混乱する頭の中で、何とかフィーは口を開き、言葉を紡いでいく。
「純血のフェアリーとして、好奇の目に晒されている時は…乾いていたの…けれど、閉ざしていればそれで済んでいた。何も育たないけど、何も感じる必要のない世界…そこに、園長が来てくださった。ニフさんが来てくれた、ちぇりちゃんや商店街の仲間や、お客さんや…精霊や…大切な繋がり、失いたくない場所も沢山できた…。1人の時より、嬉しい事が増えた。楽しい事が、悲しい事が…怖い事が…私…」
雨に負けない程、ポタポタと涙を流すフィー。
「この雨が愛おしいのに、どうしていいか分からない自分を見たくなかったの!!」
雨を恐れずに全身に浴びる、自分と全く同じ姿の女夷に叫んだ。肩を揺らして泣くフィー。悲しい笑顔を浮かべて女夷がフィーを見つめた。
「私はゲヘナの神の一柱でもあり、貴女と魂を共有する縁あるもう1つの貴女でもある。それが憑神…ずっとお話したかった。今日やっと夢が叶ったの」
フィーをぎゅっと抱きしめ、女夷もまた涙を流した。雨が降り続いている…
「風の精霊の魂が大地と花の私を憑神に選んでくれた事、命を持って産まれるとみんな忘れてしまうけど、私たちは覚えてる。どれだけ嬉しかっただろう…そしてずっと魂と共に、同じ人生を私達も歩むの。フィー、私は貴女」
女夷の抱擁にうずくまって泣きじゃくるフィー。女夷は優しく傘を空に投げた。
「花を潤す雨を慈悲の象徴として、心に降らせてくれてありがとう。おかげで私はいつまでも咲き誇れるの。いつか一緒に、雨の下で踊りましょうね」
…愛してるわ、私のカミツキ…
「あら、フィーちゃん。おはよう…顔色がだいぶ良くなったわね」
ベッドの隣で読書をしていた園長が穏やかに声をかけた。窓の外から小鳥の鳴き声…
「まぁ、見てフィーちゃん。虹がかかってるわ…!お空まで貴女を祝福してるのね」
優しさとはどこまでも尊く、幸せで…ずっとあって欲しいと思ってしまう。次の瞬間に無くなってしまうかもしれないのに…しかし、もう傘は憑神に祓われてしまった。胸が弾けそうなほどいっぱいになりながら、小さく呟いた。
「優しさをありがとうございます、大好きです園長…」
‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
無事、体調が回復しました。
コメント
まだコメントがありません