いつも見ている君だから
清浦夏実
いつも見ている君だから
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やれやれ、やっと仕事が終わった。オレンジ色の帰り道、傾いた太陽が背の高いみりんの影をもっともっと伸ばしていく…その先には丸まった背中が揺れている。…それはよく見なれた制服を纏っている。はぁぁぁあ~…遠くからでも聞こえてしまう、落胆のため息。またさとら殿にでも怒られたのだろうか?それともトラブルか…みりんは早足で、トボトボ歩く背中を捕まえた。
「お疲れ様、ニフさん。奇遇ですね、良ければ御一緒に…ど、どうしました…?」
泣き腫らしたのか目は赤く、鼻はそれに輪をかけて赤々としていた。想像以上の落ち込みようだ。
「あぅ…、お、おづかれさまでず…うぅ…」
こんな顔で家まで帰らせられないな…みりんは、軍内の事で相談を聞いて欲しい…と理由をつけて、すっかり夕日が沈み、焼けた空と星空の溶ける穏やかな闇に佇むベンチへとニフを誘った。
「…ずっずずーーっ…すいません…。はい!御相談とは?何かありましたか?」
赤く腫れた顔と心を何とか正して、手帳を取り出してみりんの相談に乗ろうとするニフ。やはり理事会員、仕事にはまっすぐ向き合うのだな…ニフのひたむきさに、感心しながらも笑みが零れた。
「いや…非常に申し訳ありません!実は、ニフさんに虚偽の報告を致しました!」
みりんは立ち上がり、ピシッと敬礼をした。そして、心配そうに笑った。
「…あまりに気を落としておられるご様子…見てられなくなってしまって。アヴァロンから移住して以来、何かと親身になって頂いております。もし良かったら、私にお話して貰えませんか?」
みりんの後ろに白い月が輝いた。みりんの顔に影が差す…ニフは初めて門で出会ったあの日を思い出していた。あの時はまだ軍師の気質が抜けていなかったが、今となっては街の守り手であり、皆に愛される後輩門番であり、子供たちの剣術の先生であり、そして…
「みりんさん…最初にお会いした時はこんな風に2人でベンチで座ってお話できるなんて思っていませんでした。いつも友人のように寄り添って下さる…どんな日も凛々しく元気に報告書を届けてくださって、私何度も励まされたんです…ミスしたり、落ち込んだり…そんな日でも、みりんさんはずっと変わらない態度で接してくれるから…」
みりんは、すっとニフの隣に座り直し、ニフと目を合わせるとニッと笑顔を見せた。ニフもニッと笑う。そしてまたボロボロと涙を流した。
「実は…私の作ったドリンクで、フィーさんが寝込んじゃったんです!私…なんて事を…」
もう何も喋れなかった。嗚咽を上げて泣き出すニフ。鎧を外し、胸を貸すみりん。頭を撫でながら子供をあやす様に、ニフを宥める。
「…ニフさん、そのドリンクはまだありますか?」
「…ずびっ!うぅぅ…いいえ…でぼ…ほがのドリングなら…でぼ…まだ何かあっだら…ぐずっ!」
ニフのカバンに水筒が二つあった。1つは空なのか軽い。フィーが飲んだものだろう。もうひとつをカップに注ぐと、シーラーが輝く白濁色の月を溶かしたかのような液体が入っていた。仄かに甘い蜜の香り、トロリとしていて美しい。
「これ、頂きますね」
「…!!だだだ、ダメでず!!みりんざんまで体をこわじだらぁ!」
止めようとするニフを素早く避け、一気に飲み干した。腹からじわりと温かさが広がる…何と心地よいのだろう。
「ほら、ニフさん!私大丈夫でしたよ。…皆の疲れを心配して、元気づけたかっただけなのだって、街の誰しもがわかってますよ。それに、おかげで今とても元気です、もう一杯飲んだって!」
トロリと甘く、とても美味しい。じわじわと広がる温かさが全身を包んだ。
「…それは…多喜黄金の稲に、秋の主からの祝福を授けた特別なお米で作った甘酒と呼ばれるものです。梅とお米をアグルさんから頂いて、図書館で調べて作りました。…良かった…ちゃんと作れたんだ…私…」
また泣き出したが、今度は安堵の静かな涙だった。あまりの味の良さに、みりんはニフに頼んでドリンクを全て貰い受けた。自分の自信を取り戻すために向き合ってくれた優しさに、ニフはしつこいくらい感謝をし続けた。
「…ここまではいい話なのに…まさかみりんまで」
「…お、お恥ずかしい限りです…いててて…」
ドリンク自身は成功していたのだが、その味をいたく気に入ってしまったのがいけなかった。聖なる米で作られたドリンクは、非常に高い栄養価とエネルギーを与える効果があった。一杯飲むだけでも、一食抜いていられる腹持ちなのだが、みりんは短期間に何杯も飲んでしまったのだ。
「食べ過ぎによる腹痛ね。これ、アカツキさんの残した薬…しっかり飲んで、安静にしなさいね」
「そんな!門番の仕事が…!!」
ギロりと睨むさとらの剣幕に押され、トホホ…の肩を落として、みりんは薬を持って帰っていった。
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リザルト
クリティカル 2
確率 2/3
オーバーキルワード 無し
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