忘れじの言の葉
エリオット&ルピナス
忘れじの言の葉
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細雪のちらつく冬のある日。
広い内部を持つ時計塔は
骨まで染み入るような寒さが忍び込む。
「あぁ、そのまま行っては駄目よエリオ。
ほらマフラーと手袋をちゃんとつけてね」
「だ、大丈夫だよルピィ。自分でやれる」
エリオットの栗色の癖毛によく似合う
深緑のマフラーと手袋は
もちろんルピナスの手編みの品だ。
マフラーを巻くルピナスの優しい手つきに
エリオットは居心地が悪そうに
手袋の指先を組んだりほどいたりした。
「うふふ、冷たい空気が入らないように
しっかり巻くのはコツがいるのよ。
あら、頬が霜焼けで真っ赤になっているわ。
いま薬を塗ってあげるわね。 」
「…ううん、も、もう大丈夫!行ってきます」
居たたまれなくなって、部屋を飛び出す。
そうしてしばらく階段をかけあがると、
そっと足を止め、首もとのマフラーに触れた。
思い出すのは先程の、或いはかつての、
優しく頬に触れる暖かい指先。
「…母さん…姉さん……今、どうしてるかな」
そして、
細雪はいつの間にかふわりと綿雪に姿を変え、
街並みが雪化粧で白く染まる頃。
時計塔は6回鳴り響き夜の訪れを告げた。
「エリオ、今日も1日お疲れ様。
寝る前に飲むホットミルクを持ってきたわ」
「うん、ありがとう……」
けれどホットミルクに手をつけず、
ベッドに腰掛けたまま俯くエリオットに
ルピナスは不思議そうに目を瞬かせた。
「どうしたの?
悩みがあるならお姉さんに話してみて」
「ううん、悩み事じゃなくて…
あの…今夜は一緒にいて欲しいな。
その…さ、今日はほんの少しだけ…寒いから」
ルピナスはそっと微笑んだ。
「……もちろん、ずっと側にいるわ」
その夜、時計塔は優しい子守唄で満たされた。
それがどんな歌だったのか──
知る者は二人しかいない。
#EQCENTRIEQUE #エリオット #ルピナス
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言の葉を紡いで 微睡んだ泡沫
旅人迷い込む お伽の深い霧
面影虚ろって 微笑んだ幻
想いの果てる場所 まだ遥か遠くて
求め探して 彷徨って やがて詠われて
幾千、幾万、幾億の旋律となる
いつか失い奪われて 消える運命でも
それは忘れられる事無き 物語
【1/22 追記】
10拍手 誠にありがとうございます。
寂しさを抱えた少年エリオットと
彼に愛情を注ぐ慈愛深いルピナスの物語を
引き続きお楽しみにお待ち下さい。
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