§幻想舞踏会§ 第二十七話~天空への侵犯と共鳴~
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§幻想舞踏会§ 第二十七話~天空への侵犯と共鳴~
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第二十七話~天空への侵犯と共鳴~
黒ノ国の情報と光姫の本当の冠名と煉獄に眠る【悪ノ王】に関する情報は瞬く間に島中の隊士の耳へと入った。
様々な憶測が飛びかう。
悪ノ王とは何なのか、加護とは一体なんなのか…
そしてこの島は一体なんの為に存在するのか…
誰もが頭を悩ませるがどう考えても情報が足りない。
そして今日も広場で様々な隊士が話し合いをしていた。
~~~
「さて、どこを調べるか…。」
公園の片隅でボブが独り言のようにつぶやく。
「ジェイドさんとも話し合ったけど…
調べてない場所の、一つ目が雲上中央広場、
二つ目が五隊長会合室、三つ目が七色ノ宝石
調べてないけど調べられるか分からない場所が、闘技場だね。」
夜蝶はペラペラとメモ帳をめくりながら、淡々と応えた。
後ろからメモを覗きながら腕を組むボブは。
「なるほどな。
五隊長会合室はそれぞれの隊長に任せるとして、広場はみんなで手分けして探すか。
水…噴水…はどうなんだろうな?さきにでも頼むか?」
「さきちゃんに頼むのが一番ベストだと思う。
水質調査とかもできるならしたいね。」
「試合会場はその時その時で作られているから、今は調べられない。
で、残るはあの七色ノ宝石か…」
「…え、アレどうやって調べるの…?」
2人して空を見上げる。
七色ノ宝石は今日も変わらず空の上で静かに存在していた。
「…ボブ、逝ってきてよ。」
「お前、今絶対[行ってきて]の漢字違うだろ…!」
「でも七色ノ宝石を調べられそうな人って…」
「まぁ、おそらく姫様だろうな。
先日、6人の魔力があることを探知していらしたそうだし…。
あと、俺達の能力ではあの魔石に関して何が出来るとも思えん。」
「だよね~」
夜蝶とボブは広場を見渡し、光姫の姿を探す。
すると、光姫は相も変わらず爽の頭を撫でては、夢羽を可愛がっていたり、いつもと変わらぬ笑顔で広場にいた。
2人は昨夜の[呪い]を思い出す。
しかし彼女はそんな雰囲気を少しも出しておらず、むしろ自身たちの記憶こそ夢だったのではないかと思わせた。
「…姫様の時間…あとどの位なんだろう…。」
「……わからん。」
いつもと変わらないはずのその光景が、この先無くなるかもしれない。
そんな事を考えると、呪われていないはずの2人の胸が、なぜか見えない鎖で締め付けられるかのようだった。
2人の視線に気が付いたのか、光姫は他の隊士をそのままに向かってきた。
「あら、何をされてるんですか?」
先ほどまでの雰囲気を誤魔化すかのように、ボブは明るく応える。
「こんにちは、光姫様。
実は我々でもこの島を調査できないかと考えておりまして、
先程夜蝶と話し合っていたのですが、七色の宝石についてまだ調査が出来ていないなと。」
光姫も先刻の2人のように空を見上げる。
「なるほど、七色ノ宝石ですか…。
確かに天高く鎮座するアレを至近距離で調べたことはありませんね…
…調べてみますか?」
どうやら光姫も至近距離で調べることに興味を持ったようだ。
「よろしいのですか?
あれはこの島を統括するものです。
下手に刺激するとまた何かペナルティを食らう可能性もございます…」
ボブは心配そうに問いかけるが、光姫はニヤリと悪戯な笑顔を見せた。
「あらぁ?私を誰だと思ってるのかしら?任せなさい。」
こうして、七色ノ宝石の調査が始まった。
~~~
夜蝶が万が一の事を考えて他の隊士が近づかないよう区画整備を行い、
ボブと光姫は2人で空を見上げていた。
「さて…と。
どうやって調べようかしら。
自力で飛んでくのも可能ですけど…
できれば感知にのみ専念したいですね…」
「では、代わりに俺が足場を作ってもよろしいでしょうか?
そうまには及ばないかも知れませんが、これでも青隊の副隊長です。御身の安全を全力で守ります。」
ボブが凛々しく応えるのを見て夜蝶が舌打ちを打つ。
(あの野郎またイケメン発揮してやがる…)
そしてそれを何とも思ってないのも光姫である。
「仕方ありません。ではお願いしようかしら?
かなり高いけど…大丈夫ですか?」
「ええ、あの高さなら十分届きます。
少し離れてください。ジャックツリー!」
種を地面へ撒き、ボブは歌を奏でる。
すると種は青く光り、出し、硬く茶色い殻から双子葉がひょっこりと顔を出した。
そのまま見る見ると葉は分裂し、蔦は太く長く空へと伸びて行った。
蔦同士が絡まり一本の支柱となると、肉厚の葉が螺旋を描くように1枚1枚上へと生えていく。
ものの数分で植物の螺旋階段が出来上がった。
「お待たせしました。
これで階段のように登って行くことができるかと思います。
。調査が始まると俺は何もできませんし、邪魔にならぬよう、したから見守っておきます。
あと、帰ったらよく効く湿布や薬草は作っておきますので。」
「ふう…中々しんどそうだけど行きますか。」
光姫がそびえ立つ植物を遠い目で見つめる。
「…少し歩いて上がるには姫様には厳しいですか?
よろしければおぶってあがりましょうか。」
「結構です」
即答だった。
ゆっくりと足を踏み出すと、葉は葉脈がしっかりと何重にも層になって張り巡らされているようで、
光姫の体重を支えるには十分な強度と安定性を誇っていた。
夜蝶は見物している隊士が近づかないよう警備しつつ見守り、ボブは下から植物に魔力を注ぎ続けている。
一方拠点にいた様々な隊士も、突如高く生えた植物に気が付いた者は、広場に出てこようとしていた。
小さく息を整えながら登って行く光姫に、七色ノ宝石からまたもや光が飛んでくる。
そして、以前のように周囲に円を描くように文字を映し出した。
< 接近 危険 >
< 危険 危険 >
光姫はその文字を一瞥すると、右手で蚊をはたくかのような仕草で払いのけた。
「お黙りなさい。」
下でその様子を見ていた隊士の中にいたていなんはつぶやく。
「光姫こえ~…。」
その声に同意するうなずきが周囲でチラホラうかがえた。
~~~
光姫が蔦を登り終えると、そこには広場から見るよりも何倍にも大きな七色ノ宝石が静かに浮いていた。
光姫は片手を添え、意識を集中させる。
「…ここの隊士全員の魔力が混沌としている…。
けど…、やはりこの中に一人だけ私の知らない魔力がありますね…。」
(少し本気で調べる必要がありそう。)
光姫は頭部にある装飾の内、側圧珠をひとつ引き抜いた。
しかし前回の様に無差別に当たり散らすのではなく、魔力の放出先を七色ノ宝石にのみ集中させる。
七色ノ宝石は前回と同様、不規則に点滅し出した。
(やはり…私の魔力と<共鳴>して誤作動を起こしている…。
そして、今回<は>島の防衛システムが起動しない。つまり…。)
考察をしながら意識をさらに深く潜らせる。
魔力という渦潮の中を手の動きだけでまさぐる様に。
すると、手の先に何かを感じ取った。
まるで、水の中でそれだけ異質に存在しているソレは、一度存在を認識するとその姿が露わになった。
「夜蝶さん、記録を!
全員の魔力の中心…いえ、七色ノ宝石の中心に何かがあります。
丸い…形をした…、そう、これは…鏡です!」
光姫の周囲には閃光が弾け魔力の風がはしる。
ボブは必死に植物の空間固定化を行っていたが、それでも弾き飛ばされそうなエネルギーが交差していた。
光姫はさらに両手を宝石へと添え、放出量をあげる。
すると、突然胸に鈍い痛みが走った。
(くっ…、ちょっと…<コレ>は聞いてないわよ…!
まさか……いえ、今は調査が先決…。)
七色ノ宝石に[自分の意志]をわざと飲み込ませ、鏡へと手を伸ばす。
すでに広場には、宝石の以上発光を見たほとんどの隊士が駆けつけていた。
「鏡…には、何かが映っています。
…そして、それは…別の世界…いえ、次元…?
…!
あぁ…これはどういうことかしら…」
光姫の顔は驚愕の表情へと変わって行く。
「どうして…
どうして鏡の中から…
【煉獄の魔石】と同じ気配がするの!?」
「な!?」
光姫の言葉を聞いたすべての隊士が固まる。
そしてボブも、その言葉にほんの刹那、魔力が乱れた。
(これ以上誤作動を継続させたら島の浮遊システムに支障が…
これ以上は無理そうね…。
それに…こちらに何かが浸食されそう…)
光姫は自身の意識を引き戻し、七色ノ宝石から切り離す。
いや、切り離そうとした。
しかしその手を…
…誰かが掴んだ。
「…!?」
その刹那の時、掴まれたその手はとても優しく、
光姫を包んだ手からさらに伸ばすように、その手は静かに光姫の中へと入っていく。
抗う事のできないその感覚に、彼女の本能は警告をならすことなく、受け入れていった。
「…。」
光姫は天をそのまま仰ぐと動かずにいた。
次の瞬間、植物が魔力の波に押され大きく揺れる。
その揺れは上へ行くほど振り子のように大きくしなり、光姫は唯一の足場である葉から投げ出された。
「姫様!?」
(あの位置は…まずい!落下地点が離れてる!)
隊士達の悲鳴が上がる中、ボブは誰よりも速く走り出した。
歌を奏でながら種を前方へ投げ飛ばす。
種はみるみる育ち、伸縮性の高い大きな花を咲かせる。
そのまま走り込み花に足をかけると、花はバネのように反発し、ボブの身体を宙へと投げ出した。
勢いそのままに光姫へと手を伸ばす。
落ちていく光姫をそのまま抱き止めると、ボブは自身の腕の中にしまい込み、共に植林の中へと落ちて行った。
~~~
枝の折れる音と茂みに落ちていく音が響く。
自分が感じていた落下の感覚が無くなり、身体の節々が鈍く痛む。
(…どうやら大きな怪我は無くてすんだみたいだな…。)
ボブは自身の身体が無事な事を確認しつつ半身を起こし、自分の腕の中にいる光姫に気づく。
「姫様!何か御身に怪我はありませんか?」
光姫は見た目には怪我はなさそうだが、気を失っているようだ。
ボブは懸命に肩をゆする。
「姫様?姫様?!」
「………ん。」
光姫は気が付いたのかゆっくりと顔を起こすと、不思議そうにボブを見つめる。
その瞳は、いつか見たことのある黄金色の瞳をしていた。
「どうか致しました!?」
「……坊や…見ない顔ね?」
光姫はゆっくりとボブの頬に手をあてると、まじまじとその顔を覗き込む。
「は……え?
光姫様、俺ですよ?青風八咫烏隊副隊長、ボブです!」
突然の言葉に動揺を隠せず、声を荒げるが光姫は構わず見つめ続ける。
「わたくしを知ってるの?
八咫烏…そう、坊や
青国の民ね?
ただ人の名前を間違えるのはいただけないわ。」
光姫は怪しく笑うと、首に手を回し顔を引き寄せる。
「わたくしはミツヒメではない。
ミヅキヒメ【満月姫】。
満月と陽光を統べ、光の民を束ねる者。
学術しか興味のない国とはいえ、国の象徴であるわたくしの名前くらいしっかりと覚えなさい。」
ボブは混乱していた。
様々な疑問が浮かぶが目の前の人物はいつもの彼女とは思えない。
しかし彼女は、その姿はまぎれもない光姫なのだ。
「は…み、みつ…?
いえ、ミヅキヒメ様?
これは一体...
その……俺のことは…
いえ、この島に来た皆様のことは…覚えていらっしゃいますか?
貴方様が親しくしていらっしゃった、皆様の記憶はございますか!?」
肩を掴んで揺さぶるが、光姫はボブの言葉を理解しあぐねるかのように首を傾げる。
「何を言ってるの?
坊や知らないの?
島だなんて…ここは大陸よ?
そしてこの自然の環境、ここは青国でしょう?
なぜここにいるかわからないけど、私は自国に帰るわ。
もうすぐ国は<王子>によって一つとなる…。
そしたら坊や…
遠慮なくわたくしの国にいらっしゃい。」
ボブの焦燥など意に介さず、光姫は淡々と言葉を紡ぐ。
そして何かに気が付いたのか、じっとボブの顔を見つめだした。
そして両手で頬を包み込む。
「…よく見たら
なんだか夫に似てるわ」
(どういうことだ!?今話してるのはいつの事だ!?王子?大陸?何の話を…
どういう…つか、それよりも…!)
「ち、ちょっと…顔が近いです!
ミツ...いえ、ミヅキヒメ様!?
俺は夫ではございませんって!!!」
ボブは顔を真っ赤にしてわめくが、光姫は一向に離そうとしない。
黄金色の瞳が哀愁を含み静かに揺れた。
「ええ知ってるわ…。
夫はもう十何年も昔に先に旅立ったのだから…。
坊や、おかしなことを言うのね?」
それはまるで1枚の絵の様な描写のように、光姫の顔だけがボブの視界を包み込まんとしていた。
鼓動が喉へと響くほど大きく波打ち、身体の痛みなど、とうにどこかへと意識が追いやっていた。
(……綺麗だ。)
そしてどの位見つめ合っていただろうか。
ボブの顔を包む光姫の手が、ピクリと動いた。
「……?…ひ、姫様?」
「………。
……………。
…………………?」
光姫の瞳が徐々にいつもの水色へと変わって行く。
そして白い肌がそれと同時に紅潮していった。
「なっ?!
なっ///な、な…!/////
なんでこんな近くにいるんですか!!!
離れて!!!!!」
広場に響くのではないかという程の、頬を叩く音が沈黙を破った。
「グハッ!?!?
はい!?!?!?!?!?
何が!?え!?何で!?」
突然の暴力と豹変っぷりに完全に思考が停止するボブ。
顔を真っ赤にした光姫も事態が把握できずにパニックになっていた。
「何よ何なのよ何なんですか?!?!
なんで私を抱いてるの?!
なんでこんな近くに顔があるのよ!!!」
なおもボブの胸ぐらをつかみあげ、ボコボコにする光姫。
不思議な光景が広がっていた。
「痛い!痛い!!
ちょ!?あれ!?光姫様!?
ミヅキヒメ様ではなく!?
あと叩くのやめて下さい!!
ミツヒメ様ですか!?いつもの!?」
光姫は顔を火照らせ肩で息をしながら、手を止める。
呼吸を整えると指先に光を集中させそのままボブの頬にグリグリと押し当てた。
「何よミヅキヒメって。
私は光姫、ミツヒメよ!
人の名前を間違えるだなんて何て失礼な人なの!?
それにいつものって何ですか?
私以外に光姫などいなくってよ!
何をふざけたことをおっしゃってるんですか???」
「痛い痛い痛い!!」
ボブは光姫の両手を握りしめ、攻撃を制止させる。
そして、目の前にいる光姫がいつもの光姫だと再確認すると、胸が暖かい感覚で包まれた。
(これが…安堵という気持ちか…)
「それは…本当に…。
良かった…!!」
ボブは光姫を力いっぱいい抱き締める。
その人がここにいるという証を確かめるかのように。
…ただ、光姫は違った。
「な…なっなっな!
なぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「いやもう…さっきはどうしようかと…
ほんとにミツヒメ様がいなくなってしまったかと…思って…」
「はっ…はっ…!
はなっ…!!
離!はなしっ!!?」
「姫様!!!」
後ろから叫び声がする。
光姫とボブを追って、隊士達が続々と探しにやってきたのだ。
「姫様!ご無事でしたか!」
赤炎鳳凰隊の爽が光姫の手を握り、涙目で問いかける。
「僕、姫様が飛んでった時本当心配で…!」
「そ、爽さん…ご、ごめ…」
光姫は爽の元へ行きたいのだが、ボブが一向に腕の力を緩めない。
光姫の体温がどんどん熱くなっていく。
「…ま、ま…まっ!
まりーさん!まりーさん!!」
「えっ」
光姫は涙目で到着したまりーへと両手を伸ばす。
まりーは瞬時に状況を察知、光姫を抱き上げた。
「姫様ご無事でなによりです…!」
「…大丈夫…じゃない!なんか変!
みーさんに治してもらう!!」
光姫は胸を押さえながら顔を真っ赤にさせている。
(何…なんなのコレ!胸が苦しい…)
そんな光姫の様子を見てまりーのオーラが変化する。
殺気を纏いながら、ボブを見下ろした。
「…ボブ、姫様に何したの?」
「…はい?」
ボブがきょとんとしている間にいつの間にか現れた夜蝶がまりー及び他の隊士へと写真をばらまく。
撒きこぼれの写真をボブも拾い確認する。
そこには…ボブが光姫を抱擁しているシーンがしっかりと写されていた。
「このアホ記者ああああ!!」
ボブが立ち上がろうとしたその時…。
「ボブ先輩!み…光姫様になんてことを…!
私の…私の姫様にー…!!」
夢羽が涙目になりつつ氷で作った釘バットを片手にやってきて…
「この天然タラシ……」
暁月が片手剣を携え現れ…
「ボブさん…いくら貴方でも僕それは許せないです」
爽は真っ赤に燃えあがえるトマホークを手に…
「ひめしゃまになんて不埒な…!」
レインはライターと薪(小)を装備し…
「ボブさんどうもー!さあ制裁の時間ですよ」
キャンは笑顔で雷を足へと帯電させ…
「ボブ君…君はやっぱり学習しないね…」
ジェイドは大剣を引き抜き切っ先を向けた。
「姫様…よくも…ボブ覚悟…」
まりーも薙刀片手に詰め寄る。
「…え?皆さん?
姫様はほらこの通りご無事で…え?」
「「「「「「 問答無用! 」」」」」」
この後、広場に大きな衝撃音が響き渡り、島に巨大な穴が開いた事は言うまでもない。
…
……
………
~~~
……そして、まやかしの物語を動かす歯車は音を立てて動き出す。
そこは光の届かない暗闇。
そんな闇の中で一つのナニかが鼓動を刻む。
< ………ヒメ… >
黒紫の気配が、暗黒しかないその空間に充満し始めた。
…つづく。
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