nana

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🩵 この世界で私だけ知ってるあなたがいることが 誇りだった 🏛 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第10部〖正義の天秤と7番目の天使〗 Ⅳ. 遠き調べ  サフィの記憶と同調したエクレシアが、夢の断片の中で最後に見たのは、カーリの柔和な笑顔だった。その笑顔を見て、冷静な自分の意識とは裏腹に思わず頬が緩んでしまったエクレシアは、サフィの心が満たされていたことを悟った。 「そうか……君はこの時、嬉しかったんだね」 『あぁ。逃げるように飛び出してきてしまったから、ずっと気になっていたんだ。でも、あの人もおれと同じように、二人で旋律を奏でていた頃の思い出を宝物として持ってくれていた』  サフィの柔らかな声が聞こえた瞬間、ふっとエクレシアの身体が軽くなった。同調が途切れたことを察した彼女は、真っ白な空間の中でサフィの姿を探した。けれど、もう何処にも彼を見つけることは出来なかった。 「サフィ、どこにいるんだ?……あれ、何だか、眠い……」  突如襲ってきた眠気に抗いながら、エクレシアは視線を動かし続けた。しかし、彼女の身体は深い海に沈んでいくかのように重たくなっていき、やがて意識は完全に途絶えてしまった。 ‧✧̣̥̇‧ 「エクレシアさん、起きてくださいよ~!」  溌剌とした声が耳元で鳴り、エクレシアは勢いよく飛び起きた。反射的に当たりを見渡すと、そこは何の変哲もないいつもの地下室だった。エクレシアの右隣で、春の陽射しに似たあたたかい表情のニネヴェが口を開く。 「おはようございます、エクレシアさん。ちょっと席を外して戻ってきたら、机に突っ伏していたので驚きましたよ。きっと、毎日の研究でお疲れなんですよね」 「ニネヴェ……。そうだ、サフィはどこにいる? 君はあの白い空間には行かなかったのか?」 「え? サフィさん……って、どなたですか? 今日は来客はありませんし、あたしもエクレシアさんも、今朝からずっとこの部屋にいたじゃないですか」  ニネヴェは訳が分からないと言いたげに口をすぼめて首を傾げた。その仕草に、彼女は本当に分からないのだと理解したエクレシアは、不可解そうに眉を寄せた。 「覚えていないのか? 塗り潰した頁を読み込んだら、少年のホログラムが姿を現しただろう」 「……? 塗り潰されたページ、ですか?」  ニネヴェは尚もきょとんとした表情で、AI機器にセットされていた聖典を取り出しエクレシアに見せた。 「5番目の天使様のお話の後、ホロン様のあとがきがあって、その後は白紙の頁が続いていましたよ。読み込んでも何も起こらなかったので、物語はこれでおしまいなんだと思います」 「そんな、はずは……」  眼前に示された真っ白な頁を前に、エクレシアは激しく動揺した。それは、研究を深堀していく時に感じる驚きの連続とは全く毛色の異なった感情で、どちらかと言えば畏怖に近かった。白い空間、天使との対話、記憶の齟齬、白紙にされた頁……どれも論理的に説明のつかない事象ばかりだ。  一先ず、エクレシアはニネヴェを心配させまいと深呼吸をし、つとめて冷静さを保とうとした。一連の記憶がニネヴェから抜け落ちている以上、現状不可思議な出来事を記憶しているのはエクレシアのみということになる。下手なことを言って、余計ニネヴェを心配させる訳にはいかない。こんな気味の悪い体験は、自分の中だけに留めておいた方が良さそうだ。 「あの、エクレシアさん、今日はお休みにしませんか? すごくお疲れのように見えます」 「……ああ、そうだね。たまには休息の日も必要か。ニネヴェ、気分転換に外に出てみたい。この町を案内してもらってもいいかな?」 「もちろんです、エクレシアさん! せっかくなのでお昼ご飯も兼ねてピクニックでもしましょうか。パニーニとお菓子を用意してきますね!」  曇り空から陽の光が差し込むかのごとく、ニネヴェの顔がパッと明るみを帯びた。うきうきと部屋を出ていく彼女の後ろ姿を見つめながら、エクレシアは大きく伸びをする。静かな部屋の中、ゆるゆるとした時間に身を浸す間に、エクレシアは先程までの体験をようやく飲み込むことが出来た。そしてその時にはもう、不思議なことに恐れの感情は湧いてこなかった。  代わりに彼女の心を満たしたのは、想像を超える知識を得たことによる心地よい倦怠感だった。二体の天使が紡いだあの歌の旋律を唇に乗せながら、エクレシアは椅子にもたれそっと目を閉じる。 「知ることが生涯の喜びである私に、神様がもたらしてくださった褒美なのだろうか」  階下からニネヴェの呼び声が聞こえてくるまでの間、頭に渦巻いていた遠き調べは、エクレシアの考えを優しく肯定してくれているかのように響き続けていた。 ‧✧̣̥̇‧  キュレーネ女子修道院を出てすぐ、エクレシアの視界を大きなコロッセウムの跡地が占領した。ここへやってきた時も思ったが、何千年も昔に建てられたとは思えない程、つくづく立派な建物だ。 「やはり凄いな。世界遺産でもあるのだから、もっと多くの人が訪れていてもおかしくはないだろうに」 「百年前までは、毎日観光客で賑わっていたそうですよ。でも、戦争の影響で、今ではこの国に外国籍の方が出入りすることすら難しくなってしまいました」 「やはり大戦の影響なのか……惜しいものだな」  エクレシアが生まれる十数年前に終結した第三次世界大戦。エクレシアもニネヴェも、その恐ろしさを経験したことは無いが、三十年にも渡る争いが齎した負の遺産は、未だこうして彼女達の生活の中に紛れ込んでいる。  何食わぬ顔でそびえ立つコロッセウムの外壁を険しい顔で見つめるエクレシア。自分から気分転換と言ったのに、深い思考の湖に足を伸ばしかけている彼女を、ニネヴェは必死で引き止めた。 「せっかくお外に出たんですから、暗い話はストップですよ! さ、あちらの野原でお昼ご飯にしましょう!」  エクレシアの頼りなく細い腕に、ニネヴェのふっくらとした手が触れる。 「ほらほら、行きますよ!」 「あっ、ちょっと! 忘れているようだけど、私は君より1ダース以上も年上で、咄嗟に走れるような年齢じゃな……速い、速いよ!」  悲鳴にも近い情けないエクレシアの声音を聞いて、ニネヴェはこんなエクレシアさん初めて見ましたとけたけた笑い出す。見た目も相まって、これではいよいよどちらが年上か分からない。そんな二人の仲睦まじい様子を、コロッセウムの上階から見つめている影があった。その影──サフィは、石造りの外壁にそっと頬杖をつきながら、にこりと微笑んだ。彼のもう片方の手には、贋作とすり替えたばかりの聖典が抱えられていたのだった。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── あなたを知りたかった あなたを知りたかった 憎まれ口ばっか叩いて変に背伸びして大人ぶるあなたが あなたが悔しかった あなたが悔しかった 私の努力などどこ吹く風で愛されるそんなあなたが 目の前のあなたの空は いつも違う色で この世界で私だけ知ってるあなたがいることが 誇りだった ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── ⛓️‍💥7番目の天使「カーリ」cv.北斗七星 https://nana-music.com/users/5151832 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 前節 Ⅲ. 選択 (楽曲:⛓️‍💥🧊ミザン/バルーン ぬゆり) https://nana-music.com/sounds/06d15b00 次章 第11部〖喪われた聖典の一節より〗 次節 Ⅰ. 誰も知り得ぬこと (楽曲: ⛪️🧊世界秩序と六等星/Guiano) https://nana-music.com/sounds/06d2241d #ロマルニア帝国の聖典より #RADWIMPS

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