nana

27
6
コメント数0
0

🩵 いつか愛は毒となった 🏛 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第10部〖正義の天秤と7番目の天使〗 Ⅲ. 選択  光の矢を放つ。その後は早かった。落ちていくその瞬間、ほんの瞬きの間、サフィがこちらを見たような気がした。彼の目は失望と哀しみに濡れていて、けれども助けを乞うことはせず、真っ暗闇に真っ逆さまに消えていった。  視界からサフィの姿が消えた瞬間、カーリはまるで糸が切れた操り人形のようにくたりとその場にくずおれた。熱を持った頭が一気に冷えていく体感を覚える。次いで、自分は何てことをしてしまったんだと、氷のような罪悪感が身体中を蝕んだ。しかし、カーリの隣で共同戦線を張っていたオリは、ニヤリと目の端を細めてカーリの肩を叩いた。 「おまえがそんなに怒り狂うとはねぇ。おれ、びっくりしちゃった」 「……オリ兄さん、ぼ、僕は……」  震えながら顔を上げるカーリの唇に、オリの白く細い指が添えられた。彼は不気味な笑顔のまま、ゆるゆると首を横に振る。 「カーリ、おれたちは英雄だよ。穢れきった失敗作を追放したんだからね。神様もおれたちを褒めてくださってる」  オリの視線がカーリの後ろへ移動する。恍惚としたその表情を見て、カーリは自分の背後に誰が立っているのか直ぐに理解した。 「神様、いらっしゃっていたのですか」  カーリの頭に、大きな手のひらの温もりが伝わる。振り向かずとも、神様が微笑んでいる空気を全身に感じた。途端、カーリの心がふわりと軽くなり、自責の念は少しずつ霞みがかっていく。 「あなたにとっても、辛い決断だったでしょう。苦労をかけましたね、カーリ」  一瞬、最後の良心がそれを否定しようと口を開きかけた。正義なんて都合の良い言い訳に過ぎない。全ては僕の嫉妬が引き起こした醜い惨劇だったのです、と。けれど同時に、カーリは気づいてしまった。神様が、創造主たる神様が、カーリの心を知らないはずがない。この方は初めから全てをお見通しで、けれどその上で、天界の平穏のためにサフィを切り捨てようとしているのだ。 「……いえ、神の眷属として、当然のことをした迄です。ありがたきお言葉、感謝します」  カーリは糊をつけたような冷静な声で応える。神様が認めたのだから、これは正しい選択だったのだ。カーリは神様に創られた存在。神様の判断が全て。例え本心が呵責に苛まれようとも、神がそれを望まぬのならば、その心は無かったことにしてしまえばいい。  天界に御座す天使は七人。七人だった。カーリは一番年下の天使で、弟の存在など、初めから、何処にもいなかったのだ。 ‧✧̣̥̇‧  オリの前に、数千年ぶりに姿を現したサフィ。その話を聞きつけたカーリは、頭で理解するより先に風を切って走り出していた。彼のことを思う内、手にはいつの間にか光る弓矢が握られていた。 「どうしてここへ来た」 「……久しぶり、カーリ。おれの仲間を、オリ兄さんが喰らっているという噂があってね。止めに来たんだ」 「仲間? 地獄へ落ちた罪人たちのことか? そんなもの、消えた方が世界の為だろう」  まだ人間と関わりを持っていたのか。最早怒りなのかすらも分からなくなった粘度の高い感情を表に出さぬよう、カーリは平静を装って弓に手をかける。 「忘れたのか? あの日ぼくの手を取らなかったおまえに、天界の扉は開かれない。再びぼくの前に現れたからには、今度こそ永遠の地獄をみせてやる」  ぎりりと弓を引いて、サフィの眼前に掲げる。いつの間にかオリは静かになっていて、二人がどう動くのかを面白そうに見守っているようだった。そしてサフィはというと、目の前に鋭い矛先があるにも関わらず静かに微笑んでいた。余裕綽々な顔つきが、余計にカーリの心を掻き乱す。結局カーリは、矢を放つことが出来ずにだらりと腕を下ろしてしまった。 「何で……何でそんなに冷静なんだ。射抜かれるのが怖くないのか? 痛みを恐れないのか? なあ、どうしてなんだよ、サフィ。昔のおまえは少し転んだくらいで盛大に泣いて、その度にぼくに縋って……」 「カーリ、もう止めよう。この兄弟喧嘩は二千年以上も前の話だ。カーリが心配しなくても、おれはもう天界の住人じゃない」  サフィは長い前髪の下の瞳をきらりと瞬かせ、昔のように無邪気な声色で語り出す。 「おれは今、奈落の底に出来た地獄の街で、サーカスの座長をしているんだ。毎日音楽が鳴り止まなくて、騒がしいけれど楽しいんだ。それに、面白い仲間がたくさんいる。天界の皆には信じられないかもしれないけれど、おれは幸せなんだ」 「……ぼくが居なくても、泣かずに生きていけるのか? ぼくの歌がなくても、もう平気か?」  弓を落とした手で、カーリはサフィの頬をなぞる。触れた肌の柔らかさは、昔から何一つ変わっていなかった。頬から頭へ、確かめるように手を動かしている間、サフィはされるがままに静止しながら、時折擽ったそうに少し笑った。 「おれは大丈夫。ここじゃないところでも生きていける。だけどね、カーリ。この歌だけは、一度も忘れたことはないよ。忘れたくても、忘れられなかった」  僅かに唇を震わせて、サフィの口から紡がれた優しい旋律。それは二人で初めて作った曲の一節だった。忘れたくても忘れられない。カーリ自身もそう思っていた。移りゆく時の中、たった一人過去の旋律にしがみついている己は、まるで呪いのようだと思っていた。  けれどたった今、彼も同じ思いだったのだと知った。それだけで、カーリはいとも容易く掬いあげられてしまった。硬化した心を再び柔く解すのに必要なものは、たったそれだけだった。 「ちょっとカーリ、まさか止めるつもり? せっかく面白くなりそうだったのに」  頬をふくらませ、見るからに不機嫌といった様子で足を踏み鳴らすオリ。その音は次第に大きくなり威圧感を増していた。しかし、カーリはただ一言、きっぱりとこう言って足音を制止した。 「ああ。兄弟喧嘩はもう終いだよ、兄さん。天使は七人、そうだろう?」  有無を言わさぬ声音に、オリはぎぃっと歯ぎしりをする。 「ふん、つまんないなっ。毎回失敗作に出てこられても迷惑だし、罪人食べんのやーめたっ!」  拗ねたのか、刺々しい台詞を放ったあと、オリは翼を広げて何処かへ行ってしまった。自由奔放なその姿を見送ったあと、カーリは奈落へ降りていこうとするサフィを呼び止めた。 「どうしたの、カーリ」  きょとんと首をかしげる姿は、驚くほど昔の表情そのものだった。  今ならば分かる。きっと変わってしまったのはカーリの方で、サフィは初めから、良くも悪くも青くいたいけなまま、変わってなどいなかったのだ。 「いや、何でもない。仲間とやらによろしく伝えてくれ。おまえが泣くようなことがあれば、地獄などぼくが滅ぼしてやるとな」 「ああ、伝えておくよ」  笑いをかみ殺すような表情で頷いて、サフィは漆黒の中へと消えていった。天界には再び、穏やかな静寂が訪れた。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── ️⛓️‍💥形には決して残らない 酷く脆い確かな傷が 🧊今も心の隅で嗤う 馬鹿らしく見えますか 🧊あの日はいつか記憶になる 笑い話に変わってしまう ⛓️‍💥在るべき姿に戻るだけ 寂しさは止まないね ️🧊今この悲しみが ️⛓️‍💥茶番にも見えてしまう 🧊確かな物があるのを ️⛓️‍💥探している ️⛓️‍💥🧊あなたの優しさが 後ろめたくなって いつか愛は毒となった ️🧊息が止まるほど ⛓️‍💥心を見透かして ️⛓️‍💥🧊そしてこんな夜を終わらせて ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── ⛓️‍💥7番目の天使「カーリ」cv.北斗七星 https://nana-music.com/users/5151832 🧊8番目の天使「サフィ」cv.オムライス https://nana-music.com/users/1618481 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 前節 Ⅱ. ぼくには見せなかった笑顔 (楽曲: ⛪️🪬🔔⛓️‍💥🧊You didn't know〖2〗/Hazbin Hotel) https://nana-music.com/sounds/06d0f83d 次節 Ⅳ. 遠き調べ (楽曲:⛓️‍💥Tamaki/RADWIMPS) https://nana-music.com/sounds/06d1be4b #ロマルニア帝国の聖典より #ミザン #バルーン #ぬゆり

partnerパートナー広告
music academy cue
0コメント
ロード中