nana

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🩵 真実の名を 教えておくれ 🏛 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第8部〖堕天:ロマルニア帝国の聖典より〗 Ⅱ. 遥か彼方へ馳せる思い  エクレシアがダイニングテーブルにつくと、湯気のたつクリームシチューの皿が出迎えてくれた。こんがり狐色の丸パンの籠を抱えたニネヴェが、まずは食べましょうとエクレシアに食事をすすめる。 「神の恵みに感謝を捧げ、この糧をいただきます」 「……いただきます」  ニネヴェの正式な食事の祈りに合わせ、エクレシアものろのろと匙を手に取った。柔らかくなった鶏肉とクリームソースを掬い、ゆっくりと口に運ぶ。まろやかでとろけるような口当たりを感じた途端、エクレシアの顔から険しさがぽろりと外れた。 「あったかくて、おいしい」 「かた~いお芋やお野菜が柔らかくなるまでコトコト煮込んでますからね。やっぱりシチューは熱々に限ります。冷めちゃったら美味しさ半減ですよ。さ、パンもふわふわのうちにどうぞ!」 「うん、いただこう」  その頃には、エクレシアの表情は柔く穏やかなものへと戻っていった。もしかすると、ニネヴェの作る食事には魔法でもかけられているのかもしれない。冗談混じりにそう思いながら、エクレシアは聖典についてぽつぽつと話し出した。とは言っても、先程までの思考の深みに嵌るような口調ではなく、至って落ちついた雰囲気だった。 「色々考えてみたんだけれど、やっぱり、可能性のあるものは全て試してみたいと思っている。単刀直入に言えば、このことはまだ外部に報告しない。明日、塗り潰された頁をAI機器に読み込ませてみるつもりだ」  エクレシアはパンを一口齧り、香る小麦に満足そうに唸ったあと、目を細めてニネヴェを見た。 「どうなるのかは私にも分からない。何も起こらないかもしれないし、研究はここで頓挫するかもしれない。けれど僅かでも可能性があるのなら、それを全身全霊で追い求め続けるのが研究者というものだ」  流れるような手つきで食事を続けながら、彼女は愛おしそうに目を伏せた。 「私は知りたい。遥か昔を生きた彼らが、何を考え何を信じたのか。……さてニネヴェ、私についてくる気はないか?」  頬杖をついて、エクレシアはニネヴェの答えを待っている。お行儀が悪いですよと口にするのも忘れ、ニネヴェは顔を輝かせ頷いた。 「はい! もちろんです、エクレシアさん。あたしももっと、色んなお話を知りたい!」 ‧✧̣̥̇‧  翌日、エクレシアとニネヴェは、塗り潰された頁をAI機器にセットし、固唾を飲んで見守っていた。程なくして、メギドやホロンが出てきた時と同じように、本の上に光のホログラムが浮かび上がる。そこに一人の人物が姿を現したが、それはホロンではなかった。 「少年……?」  エクレシアが怪訝そうに呟く。彼女の視線の先には、空色の髪で片目を隠し不気味な笑みを浮かべている15歳程の少年が映っていたのだ。 『やあ、人間』  少年は右手を上げ、快晴の下を吹き抜ける風のように澄んだ声を発した。 『おれの名はサフィ。聖典の続きを語るためにここにいる』  上げた手を胸の前に置き、少年はまっすぐエクレシアを見つめていた。AIが生み出した幻影であるはずなのに、彼の視線はまるで、エクレシアの心情を見透かしているかの如く嫌な現実味を帯びていた。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 空の 孤独な鷹よ 風に 杭いながら そこにあるのは 光と闇 一人だけの 空 空を 見上げて泣いた 一人 生きてる君よ 真実の名を 教えておくれ いつの日か 消えてしまう君よ ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 🪽ニネヴェ cv.灯 https://nana-music.com/users/10533672 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 前節 Ⅰ. 塗り潰された頁 (楽曲: ⛪️🪽誰ガ為ノ世界/志方あきこ) https://nana-music.com/sounds/06cfbec0 次章 第9部〖罪の果実と6番目の天使〗 次節 Ⅰ. 穢れを喰らう (楽曲: 🔔神っぽいな/ピノキオピー) https://nana-music.com/sounds/06d02831 #ロマルニア帝国の聖典より #時の歌 #ゲド戦記 #ジブリ #手嶌葵

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