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🩵 譲れない想い その胸に秘めたまま 🏛 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第8部〖堕天:ロマルニア帝国の聖典より〗 Ⅰ. 塗り潰された頁 「次は6番目の天使様のお話でしょうか? 楽しみですね」 「あぁ。次は一体どんな情報を得ることができるのだろう」  エクレシアとニネヴェは、その日も慣れた手つきで解読の準備を進めていた。いつも通りホロンの像が姿を現したので、ニネヴェは背筋を伸ばして、エクレシアはペンを片手に背を丸めて、彼女が話し出すのを待つ。  しかし、ホロンは微笑みを浮かべたまま、エクレシアたちに向かってこう告げた。 『未来の同胞たちよ。今までありがとうございました。メギド様から引き継いだ物語は、これにて終幕です。お別れは寂しいですが、あなた方の歩む未来が光に溢れていることを願っています。それでは、さようなら』  別れの言葉を口にした次の瞬間、ホロンの像はぷつりと姿を消してしまった。聖典にはまだ続きの頁が半分も残っているのに、一体どうしたことだろうか。 「故障でしょうか……?」 「それは困るな。調べてみよう」  エクレシアは一度機械の電源を落とし、もう一度付けた後、持参していた別の書物を読み込ませてみた。するとどうだろう、聖典以外の書物は全て問題なく動くではないか。 「となると、おかしいのはAI機器ではなく聖典ということになるね」  エクレシアは眉をひそめ次の頁を捲った。そしてそのまま何も喋らなくなってしまった。 「エクレシアさん? どうしたんですか?」  見兼ねたニネヴェが、エクレシアの後ろからそっと聖典を覗き込んだ。頁の中身を目にした途端、ニネヴェはぎょっと目を開いてエクレシアを見た。 「嘘でしょ……」 「最初にここへ来た時、一緒に最後の頁まで目を通したよね。その時は、こんなことにはなっていなかった」  エクレシアはニネヴェに同調を求めるように厳かな声を漏らすと、理解不能と言いたげに眉間を抑えた。 「一体誰の仕業だ? 頁が黒く塗りつぶされているなんて」  静かな地下室の中には、エクレシアの疲弊した声色だけが響いていた。 ‧✧̣̥̇‧  夕食の時間になってもエクレシアは部屋に閉じこもったまま降りてこなかった。ニネヴェが部屋まで行ってみると、彼女は昼間から変わらない姿勢でじっと聖典を睨みつけていた。 「あの、エクレシアさん。そろそろお夕食にしましょう? 聖典のことはまた明日にでも報告して……」 「これ、塗り潰されているんじゃない」 「え?」  エクレシアは勢いよく立ち上がると、ニネヴェの前に聖典の頁を突き出した。 「よく見てみなさい。この黒はインクでも墨でもない。紙そのものに印刷されている」 「え!? そ、そんなはず無いでしょう? あたしたち最初に確認しましたし、それに、聖典が書かれた時には、印刷の技術なんて……」 「そうだ。だからこれは恐らくレプリカ。或いは紛い物。だとしても、急に黒い染みが現れた理由は説明できないけれどね」  エクレシアは聖典を机の上に置くと、一度長い長い息を吐き出した。そして次に顔を上げた時には、いつもの平静な顔つきに戻っていた。 「このまま考え続けていても埒が明かない。君の言う通り、食事をいただくとしよう」 「は、はい! すぐに用意しますね……!」  ニネヴェは心配そうに眉を寄せてエクレシアを見つつも、急いだ足取りで階段を駆け下りていった。そのあとを追うようにして、エクレシアもゆっくりと階段を下っていく。 「人間の仕業なのか。それとも、人智を超えた何かの仕業なのか」  呟いて、エクレシアは静かに首を振る。宗教を研究してこそいるものの、エクレシア自身は深く神を信仰しているわけではない。ましてや天使の存在なんて、古代の人間が作り出したおとぎ話に過ぎないと思っている。 「……らしくないな。神も神話も天使の類も、あくまで伝承であり物語だ。実在しているはずがない」  エクレシアは無造作に前髪をかきあげると、今度は足早に階段を降りていったのだった。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── ⛪️森の海を 漂うのは 憂いたたえ 揺れる小舟 🪽彷徨える魂と 澄みわたる 刹那の静寂 ⛪️枝葉つたう 時の滴 震え落ちる 無垢な祈り 🪽水鏡に映るのが 潰えぬ哀しみの輪だとしても ⛪️🪽誰もが傷つき 痛みを背負って 誰かを傷つけ ひた走る 酷く残酷な風が 吹き荒れてもなお 譲れない想い その胸に秘めたまま ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── ⛪️エクレシア cv.唄見つきの https://nana-music.com/users/1235847 🪽ニネヴェ cv.灯 https://nana-music.com/users/10533672 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 前章 第7部〖蠱惑の売女と5番目の天使〗 前節 Ⅲ. 虹の雨 (楽曲: 🌕美しきもの/Sound Horizon) https://nana-music.com/sounds/06cfaf0a 次節 Ⅱ. 遥か彼方へ馳せる思い (楽曲: 🪽時の歌/手嶌葵) https://nana-music.com/sounds/06d0098a #ロマルニア帝国の聖典より

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