nana

38
7
コメント数0
0

🩵 聖なる歌声が聞こえてる 🏛 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第6部〖白銀聖歌隊と4番目の天使〗 Ⅲ. 厄災  次の日の日暮れ、ナザレたちを乗せた馬は無事にルステラ女子修道院へと辿り着いた。出迎えに来てくれたナザレとウリの顔を見た途端、リダは精一杯堪えていたものが溢れ、服が濡れるのも構わず声を上げて泣き出してしまった。  一同がどうしたことかと駆け寄る中、リダは必死で涙を拭いながら昨晩聞いた噴火の話を途切れ途切れに漏らした。人々はリダの話を黙って聞いていたが、やがてガリラヤが厳かに口を開いた。 「火山の噴火……数百年前の記録に、そんな厄災の話がありましたね。その時は、ここら一体は火砕流に飲み込まれ、死の街と化したと伝えられています」 「でも、それから一度も噴火はしていないのですよね? 今の私たちがこの地で暮らせているのが何よりの証拠です」  震えるリダの肩を支えながら、ナザレは希望論を語る。ガリラヤが頷いてくれることを願いながら。しかし、ガリラヤは険しい顔のまま静かに首を横に振った。 「何百年と平穏が続いたからといって、明日も同じ日々が待っているとは限りません。厄災とは、そういうものです」 「では、どうしたら……」 「残念ですが、現時点ですぐに出来ることはありません。これから少しずつ備えてゆきましょう。日頃から、山や森の動植物の変化を見逃さないこと。生活に必要なものは、まめに蓄えておくこと。村と連携を取り、定期的に避難訓練を行うこと。これらを徹底し、あとは神のみこころに委ねましょう。さすればきっと、救いはもたらされるはずです」  ガリラヤの言葉は確かな芯を持って響いた。不安そうに目を伏せていた人々は、徐々に元通りの活気を取り戻し、リダもいつの間にか泣き止んでいた。 「そうね。修道院長の言う通りだわ。不確かな未来を嘆くよりも、今できることを精一杯する方が絶対に良いわ」  話を聞いてから、ずっと一人で怖かっただろうに、リダはちゃんと前を向こうとしている。そんな彼女を見て、ナザレも何かしなくてはと、はやる気持ちが胸の内で渦巻いた。その時、ひらめきといっても良い程唐突にナザレの中に一つの思いつきが浮かび上がった。それは、ナザレが提案するにしては意外なことかもしれなかった。けれど、彼女は臆することなく次の言葉を紡ぎだす。 「訓練の時、安全な場所に導くために歌を歌ったらどうでしょうか。歌の独特な音程なら、もしかすると大声を張り上げるよりも人々の耳に届きやすいかもしれません」  ナザレはそう言うと、皆の視線が集まる中で胸に手を当てて息を吸い込んだ。次の瞬間、まっすぐなひとつの旋律が、夕闇の空に凛と鳴った。歌声は風に乗せられて、はるか山の向こうまでこだましてゆく。けして大きな声では無いはずなのに、誰の耳にもしっかりと響いた音色は、ナザレの主張を後押しするには十分だった。  歌声が消えて一瞬の沈黙が訪れる。しかしすぐに、リダの大きな拍手の音が静けさを打ち破った。 「ナザレ、また皆の前で歌えるようになったのね! ああ、すごいわ、美しいわ。この歌声なら、どんな時でも届くに違いないわ」  リダは大きく飛び跳ねると、腕をいっぱいに広げてナザレを抱きしめた。ナザレは束の間目を白黒とさせたが、やがて僅かに潤んだ瞳で愛おしそうに微笑んだ。二人の少女の様子を見ていた人々は、顔を見合せ頷きあうと、口々にナザレの歌声と提案を褒めだした。 「歌で伝達する方法ね。確かに一理あるわ」 「ナザレの歌声、久しぶりに聞いたけれど、やっぱりすごく綺麗ね!」 「考えたなぁ、嬢ちゃん。よし、村の衆にも協力してもらって、合図にする歌を決めよう」  男衆の一人が声を上げると、それがきっかけとなり、人々は自分には何が出来るかを考え始めた。引っ込み思案な自分でも、歌声ひとつで周囲を変えることができたのだ。ナザレは歓びを噛みしめて、リダの頬にそっと顔を寄せた。ウリに誓った二つの約束のうち、ひとつが叶ったのだ。 (あとは、リダに想いを伝えなきゃ。厄災が起こっても、起こらなくても、私のこの気持ちは絶対に変わらないんだもの)  ナザレは心に固い決意を秘めながら、そっとウリの顔を伺った。ただ一人ナザレの想いを知る彼は今何を思っているのだろう。気になって彼の表情を覗いたナザレは、そこで息を呑んだ。  ウリは、人々の話など聞こえていないかのような険しい表情で地面を睨みつけていたのだ。 「ウリさん……? どうしたのですか?」 「ん、ああ、すまない。予想外の話を聞いたもので、少し動揺してしまったんだ。今日はもう、休むとするよ」  ウリはひらひらと片手を振ると、心配そうに眉を寄せるナザレに踵を返し修道院の中へと戻って行った。 ‧✧̣̥̇‧  皆が寝静まった深夜。ウリはゆっくりと起き上がると、大きな翼を震わせ窓辺から軽やかに羽ばたいた。森を抜け、山頂まで辿り着いた彼は、山が脈打つ音を全身に感じた。恐らく、今日リダが持ち帰ってきた噴火の話は、近いうちに真実になるのだろう。 「これもまた運命。けれどぼくは……ぼくは知ってしまった。心優しいあの人たち、慎ましくも豊かなこの日々を。見殺しにできない理由を知ってしまった」  ウリはガラス玉によく似た透き通る瞳で、星のちらつく闇夜を凝視した。彼の身体は勢いよく上昇し、空を突破ってその先へ──天界へと戻っていく。  身を割くような強風が止み、ウリが目を開けると、そこは既に天界だった。彼の目の前には、まるで彼が来ることを待っていたかのように、悠々とした笑みをたたえる神様が佇んでいた。 「神よ、ご覧になっていたのなら、ぼくが何を言い出すのかお分かりでしょう。……火山の噴火を止めるべきだ。どうかあの者たちを、お救いください」  神様は、ウリの訴えを聞いても眉ひとつ動かさなかった。代わりに、長い指で彼の髪をさらりと撫でる。瞬間ウリは悟ってしまった。言葉を交わさずとも、それが否定を意味する行動であると。神様はいつだって、必要以上の言葉は与えてくださらない。 「何故。善良な人間たちをも、残酷な天の裁きにかけようと仰るのですか?」 「それがさだめというものです。噴火は止められませんが、その後であなたがどうするのかは、全てあなた次第ですよ、ウリ」  神が言葉を編み終わると、途端にウリの視界が揺らぎ、気がつけばウリは修道院の自室の中に帰っていた。 「ぼく次第、か……」  頭に残る優しい指の感触を思い出し、ウリは神様の言葉を反芻する。神様はけっして、ウリや人々を見放したわけでは無かった。救えぬとも、言わなかった。ならば、ウリがすることはたった一つ。 「ナザレ、リダ、修道院の仲間に、村人たち。……良いだろう。まとめてこのぼくが守り抜いてみせる」  静かに息を漏らす天使の横顔を、窓を突きぬけたまっしろな光が照らしだす。夜明けとともに、また新たな一日が始まる。ナザレの声がして、ノックの音が聞こえた。ウリはいつも通り短く返事をしたが、その声は昨日とは一線を画し、強い決意の色を孕んでいた。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 🪺HELLO 私の居場所はどこに スポットライトの光が届かないところ 🪼さあお嬢さん こっちへおいで 苦しい鎖を壊してあげましょう 🪻「ああ、ナザレ。行ってはいけないわ。奈落に向かい、歩みを進める小さな足」 🪼瞬間の美しさを その命とひきかえに 瞬間の美しさを その命とひきかえに 🪺舞台に閉じ込められたら 命が尽きるまで踊らされる 煌き 🪼🪻🪺聖なる歌声が聞こえてる 🪺それは呪いなのか🪻救済なのか 🪺本当にゴーストは🪻ゴーストは 🪻🪺いたのでしょうか 🪼誰も知らないの 🪻美しさ故に愛されてしまう この世のものでない何かにすら 🪺本当にゴーストは🪻ゴーストは 🪻🪺いたのでしょうか 🪼誰も分からぬまま 🪺You are a ghost, I am a ghost 🪻ゴースト ゴースト ゴースト 🪼舞台の神それは あなたと私 舞台の闇それは 🪻🪺あなたは私 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 🪼4番目の天使「ウリ」cv.はいねこ https://nana-music.com/users/7300293 🪺ナザレ cv.海咲 https://nana-music.com/users/579307 🪻リダ cv.なる https://nana-music.com/users/10288599 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 前節 Ⅱ.宵の歌 (楽曲: 🪻歌よ/Belle) https://nana-music.com/sounds/06ce99cb 次節 Ⅳ. 二つの音色 (楽曲: 🪺哀の隙間/MIMI) https://nana-music.com/sounds/06cee639 #ロマルニア帝国の聖典より #少女歌劇レヴュースタァライト #スタァライト #スタァライト九九組 #ゆんコラ

partnerパートナー広告
music academy cue
0コメント
ロード中