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🩵 あなたのいない未来は 想像したくはない 🏛 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第6部〖白銀聖歌隊と4番目の天使〗 Ⅱ. 宵の歌  ルステラ修道院の朝は早い。日も昇らぬうちから、幼少の者たちを除く全ての人間が起き上がり活動を始めるのだ。それはウリも例外ではなく、リダとナザレの班に加えられた彼は、毎朝二人とともに修道院の傍の井戸まで水を組みに行くこととなった。 「今日はまた一段と冷えるな」 「そうですねぇ。鼻や頬が冷たいです」 「二人とも、あと少しの辛抱よ。もう一往復したら朝ごはんの時間だから。働いたあとのご飯は、そうでない時の何倍も美味しいわ」  リダの言う通り、一仕事終えたあとの食事はウリの心と腹をどちらも満たしてくれた。朝食を終えると、午前中はお祈りと修道院内の掃除。昼食を挟んだ後、太陽が出ている午後の時間帯は外へ出る。今日は森の傍で茸や木の実、若い山菜を摘むことになっていた。 「まだ冬場だから春や秋ほどたくさんは取れないけれど、日が照っているところには食べられそうなものがありますよ……ほら!」  ナザレが枯葉を掻き分けると、そこには若草色のもっちりとした新芽が顔を覗かせていた。茹でて塩と香辛料で和えると美味しいのだと笑うナザレに、リダとウリは揃って感嘆の声を上げる。 「ナザレは植物に詳しいんだな」 「あたしは全然見つけられなかったのに! すごいわ、ナザレ」 「そんな……私は全然」  相も変わらず、ナザレの自己評価は低い。彼女と過ごすようになって早いもので一ヶ月が過ぎたが、ウリはどうにも、彼女のそういう性分だけは我慢ならなかった。  やがて陽が沈む頃になり、三人はめいめいに帰り支度を始めた。ガリラヤと一緒にチーズを作るからと、一足先に修道院に向かって駆けだすリダを見送ったあと、ウリはナザレと二人きりの空間で彼女に向き直る。 「ところで、きみの歌はいつ聞かせてくれるんだ?」 「えっ? ああ、ごめんなさい。すっかり忘れていました。ええと、また今度……」 「今、聞かせてくれないか? リダはもう行ってしまったし、ここにはぼくたちしか居ない。恥ずかしがる必要も、臆する必要も無い」 「……分かりました。少しだけ」  ナザレは山菜の入った籠を足元に置くと、そっと息を吸い込んで、森の方角に向かって息を吐き出した。その途端、ウリの耳は涼やかに吹き抜ける風と小鳥の鳴き声、雪解け水の流れる音を聞いた。そのどれもが、ナザレの口から奏でられる音色が想像させたものだ。リダのように明るくあたためるような歌声ではないけれど、ナザレの歌声は彼女のものとはまた違った魅力が詰まっている。 「素晴らしいじゃないか、ナザレ」 「ありがとうございます。でも、リダに比べたら……」 「比べる必要なんてない。太陽と月とはどちらも美しいが、その性質は異なるだろう? それと同じように、きみとリダの歌声は正反対の良さを持っている」  ウリは、ナザレに語りかけながら、自分はどうしてこんなにも熱意を持って口を開いているのだろうと疑問に思った。けれど直ぐに、納得出来る答えを自身の中に見出した。ウリは感動したのだ。リダの歌声とナザレの歌声、二つの異なる音色は、ウリの心に色鮮やかな価値観を落としていった。  いつも冷静なウリが別人のように熱弁する様を見て、ナザレは圧倒され目を見開いた。けれど次の瞬間、彼女の顔は少しずつ綻んでいった。 「嬉しい、私、嬉しいです、ウリさん。私本当は、歌を歌うことが好きなんです。でも昔一度だけ、村の男の子にナザレの歌は冷たいと言われたことがありました。その時から、リダのお日様のような歌声に劣等感を抱くようになりました」  でも、とナザレは潤んだ瞳でウリを見つめた。 「ウリさんは、リダとは違う私の声を、素晴らしいと言ってくれました。私……私、もう一度リダの隣で歌いたい」  眼鏡越しに生き生きとした瞳が光っている。ウリは満足そうに頷くと、もうひとつ気がかりだったことをナザレに尋ねた。 「それならば、歌と一緒にきみの本当の気持ちを伝えてはどうだろう」 「本当の、気持ち?」 「あぁ。以前君はリダを大切な人と言ったが、ぼくの勘違いでなければ、それは恋慕の心なのではないか?」 「……!」  ウリがそう述べた瞬間、ナザレの白い顔が一瞬にして桃色に染まった。あわあわと口を震わせる彼女を見て、ウリは図星かと目を細める。 「別に隠すようなことでもないだろう。きみはその気持ちを異端と言ったが、かの聖書には、天使と蛇が恋をする物語だってあるだろう? どんな形であれ、愛情を抱くこと自体は神の御前では罪になり得ない。安心したまえ」  自身の兄の事例を思い出しながら、ウリは出来る限り歩み寄った口調でナザレを励ました。笑顔を作るのは苦手だが、言葉でなら寄り添える。その思いはナザレにも伝わったようで、彼女は色づいた頬に手をやって恥ずかしそうに頷いた。 「ウリさんは、優しい人ですね。二回も背中を押してもらっちゃいました」  ナザレは山菜の籠を持ち上げると、吹っ切れたような晴れやかな表情で声を張り上げた。 「私、もう一度リダと一緒に歌います。そして、そして春が来る前に、リダに想いを伝えたいと思います。……少しの間、練習に付き合ってくれませんか?」  そこには、臆病だと自負していた儚げな様子の少女はもう居なかった。代わりに、地に根を張りじっと春を待つ山菜のように美しく逞しい少女が立っていたのだ。 ‧✧̣̥̇‧  ウリがルステラ修道院へやってきて四ヶ月が経った頃、季節は厳しい冬から歓びの春へと移り変わり始めていた。その日は月に一度の街へ出る日で、近隣の村の男衆が馬で迎えに来てくれた。 「じゃあ行ってくるわね。頼み忘れたものはない?」 「ないよ! ちゃんと木札に書いておいたから!」 「リダ、ラマ、サリム! 皆気をつけてね!」  街へ行く役目は、年上の修道女三人が毎月持ち回りで担っていた。今日はリダと、彼女より一つ年上のラマ・サリムという少女たちの番だった。  馬に乗ったリダの傍に、ナザレとウリがやってきた。二人とも表情の乏しい顔つきだが、リダは二人がとても寂しがっていることを知っていた。 「明日の晩には帰るわ。お土産も持って帰るから」 「ええ。いってらっしゃい」 「くれぐれも道中の水場には気をつけるんだよ。溺れないようにね」 「ふふ、ウリじゃあるまいし溺れないわよ。じゃあ、いってきます!」  リダがひらひらと手を振ると、同時に馬も駆け出した。この馬は、十年ほど前に今は亡き東の村から逃げてきたわけありの馬らしく、心配性な人々の中には悪魔の遣いなのではないかと恐れる者もいたが、リダたちにとっては毎回街までおともをしてくれる大切な仲間だった。 「ファエル、いきましょ」  名前を呼ぶと、馬は軽快な足取りで加速した。この名は、保護された当時彼の首にかけられた麻袋に綴られていたらしい。天使様の一人と同じ名前だ。信仰深いリダは、もう一度愛おしそうにその名を呼ぶのだった。 ‧✧̣̥̇‧  チーズや工芸品を売って得たお金で布や食料を買い込んだリダたちは、そのまま街の中央にある宿へと足を運んだ。村の男衆が会計を済ませてくれる間、リダたちは宿の受付前にある椅子に腰掛けて、往来を行き交う人々の会話を何となしに聞いていた。すると、ある青年たちの会話がリダの耳に引っかかった。 「おい、それは本当か?」 「斜向かいの旦那に聞いたから間違いねえよ。あの人は山に詳しいから」 「俺はこの街に来て長くなるけどよ、火山の噴火の話なんて聞いたことがねえぜ?」 「まあ用心するに越したことはないだろう。もし本当に大噴火が起こったら、この街もただでは済まない」 「特に、麓の村やルステラ修道院は一溜りもないだろうな」 「何事もないといいんだが……」  青年たちはその後もぶつぶつと不安そうに議論を重ねていたが、やがて彼らの雇い主らしき大柄の男性がやってきて意気揚々と飲みの席に誘うと、先程の案ずるような顔はどこへやら、彼らも明るい表情になって宿を出ていってしまった。  残されたリダは、一人汗の滲む手をぎゅっと組んで、ゆっくりと目を閉じた。 「ああ神様、今の話が本当なら、どうかあたしたちをお守りください」  長旅で疲れているはずなのに、リダはその日一睡も出来なかった。青年たちの話からは、火山の噴火がいつ起こるのか、肝心の時期についての情報はひとつも得られなかった。もし今この瞬間大噴火が起こったら、ナザレやウリ、ガリラヤや修道院の皆はどうなるのだろう。  リダはきつく目を瞑り、無事に明日が来ますようにと願わずにはいられなかった。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── こんな小さなメロディが 貫いてく世界が見たいの 毎朝 起きて探してる あなたのいない未来は 想像したくはない 嫌なの でも もういない 正解が分かんない 私以外 うまくいってるみたい それでも明日は来るのでしょう 歌よ 導いて 嫌になる みんな幸せなの 愛している 人がいるの こうして 一人でいると 不安になる 歌よ 導いて どんなことが起きてもいい ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 🪻リダ cv.なる https://nana-music.com/users/10288599 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 前節 Ⅰ. 流れ着いた者 (楽曲: 🪼Utopiosphere/Mili) https://nana-music.com/sounds/06ce7ce4 次節 Ⅲ. 厄災 (楽曲: 🪼🪻🪺You are a ghost, I am a ghost 〜劇場のゴースト〜/スタァライト九九組) https://nana-music.com/sounds/06ceb83d #ロマルニア帝国の聖典より #竜とそばかすの姫 #細田守 #スタジオ地図 #歌よ #中村佳穂 #Belle #ナツ蜜柑の伴奏

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