nana

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🩵 幸せな時は過ぎていく 🏛 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第3部〖知恵の蛇と2番目の天使〗 Ⅱ.追放  晴天の下を、リエルとルシファーは何日も何日も歩いた。道中で出会う様々な動物たちは、天使と蛇が並んで歩いていることが大層珍しいらしく、どうして違う種族同士で旅をしているのかと尋ねた。その度に、二人は可笑しそうに顔を合わせ、同時に「その方が面白いからさ」と答えるのだった。リエルはルシファーの怖いもの知らずで飄々とした態度を、ルシファーはリエルの底抜けに明るく絶えることを知らない好奇心を、それぞれ好ましく思っていた。二人の間に結ばれた絆は、足跡が増えるのに比例してどんどん強まって行った。 「今、ちょうど神様のいる場所と正反対のところまで来てるみたいだよ」 「もうそんなに歩いたのか。でも確かに、それに足りるだけの面白い話と美味しい木の実は手に入れた」  そう言って、ルシファーは両手に抱えた大きな籠から、色とりどりの木の実と動物たちから聞いた物語を書き留めた紙束を取り出した。 「1番上の紙に書いたのは、昨日道中でペガサスの親子から聞いた話だよ。アンタはそこの木陰で眠りこけていたから知らないだろう。面白かったから読んで聞かせてあげるよ。人間世界で極東と呼ばれる国を治めている、花の女神と豊穣の神の馴れ初めさ」 「つまりは恋愛の話? それって面白い?」 「心を通わせる者同士の駆け引きは、見ていて愉快だろう?」  ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべて、ルシファーは紙束から一枚手に取った。俯いて文字をなぞる瞳の動きはくるくると小刻みで、まるで愛らしくダンスを踊っているかのようだった。リエルは本当は、話の内容はどうでも良かったのだけれど、物語を読むルシファーの姿があまりに綺麗だったから、時間が過ぎるのも忘れてぼうっと聞き入ってしまった。 「『自分の危険を顧みず花の女神を助け出した豊穣の神は、めでたく彼女の愛を勝ち取りました。こうして二人は末永く結ばれたのでした』。……在り来りなハッピーエンドだけど、アタシはこういうの、すごく好きだな。豊穣の神の真っ直ぐな愛情に触れて、彼を試してばかりいた花の女神が素直になるところが良い」 「花の女神はお茶目で可愛いよね~。色んなお題を出すとこ、面白かった」  うつ伏せに寝転んで頬杖をつきながら、リエルはカラカラと笑った。もしルシファーが花の女神と同じように無理難題を押し付けて来たとしたら、自分はどうしただろうと考える。 「きっと、期待に答えようとして必死になっちゃうだろうなぁ」 「ん? 何がだ?」 「んーん、こっちの話」  リエルは顔いっぱいの口を両手で隠すようにしてくすくすと笑うと、勢いよく立ち上がりルシファーの隣に腰かけた。そのまま彼女の美しい黒髪にそっと触れる。 「な、なんだ急に。距離が近いよ」 「いいじゃん。くっついてようよ」  尚もグイグイと身体を寄せてくるリエルのしつこさに堪らなくなったルシファーは、眉をひそめると途端に蛇の姿に戻ってしまった。この姿ならば、リエルが熱っぽい視線を送ってくることもないと思ったからだ。けれど、予想に反して、リエルはルシファーが蛇の姿になった後も態度を変えることは無かった。細長い胴体を優しく撫でる手つきに、ルシファーはどうしようもなく恥じらいを感じて、そそくさとその場を逃げ出したのだった。 ‧✧̣̥̇‧ 「何さアイツ。アタシに気があるようなフリなんてしちゃって。だけど、アタシは騙されないよ。どうせからかってるんだろう」  草むらをかき分け進みながら、ルシファーはリエルに対して悪態をつく。お調子者の彼は、きっとルシファーのことを美しいだのなんだの褒めそやして遊んでいるだけに違いない。神様の次に高貴な天使ともあろう存在が、数ある動物の一体であるルシファーに、愛情を向けているはずがないのだ。 「……でも、アイツは、一度だって嘘をついたことは、なかった」  無意識に漏れ出た声を皮切りに、ルシファーの心は彼の愛を期待する方へと揺れ動く。身分違いと分かっていても尚、一度気づいてしまった想いは止められないのだ。 「あぁ! こんな気持ちのままアイツの所に戻れるかっての! 何か気分を紛らすようなものは無いかぁ?」  身体の奥から沸きあがる羞恥心にやられ、ヘロヘロと這い出したルシファーは、ふと視界の先に濃い緑の葉が生い茂る大木を見つけた。何となしに寄ってみると、そこには紅く熟した大きな実が成っていた。その色合いは夕陽のように艶やかで、今までに見たどの木の実よりも大きく煌めいていた。 「こんな大きな木の実、初めて見た。よし、これをリエルの所へ持って帰ろう。そうすれば、アイツは木の実に夢中になって、アタシに変な気を起こすことも無くなるだろう」  人型に戻ったルシファーは、素早く木の実をもぎ取ると、来た道を駆け出した。やがて、リエルの後ろ姿を見つけたルシファーは、平静を装いながらリエルを呼んだ。 「おーいリエル、見てくれ! 向こうにこんな大きな木の実が成ってたんだよ。口いっぱいに齧り付いても無くならないくらい大きいぞ。凄いだろ!」 「へぇ、ボクにも見せ……わぁっ!」  ルシファーがリエルの眼前に木の実を差し出すと、彼は何故か酷く恐慄いたような叫び声を上げた。そのまま後退りするように逃げ出したリエルを見て、ルシファーは怪訝そうに目を細める。 「どうしたんだい? アンタ、ちょいと様子がおかしいよ」 「それは……それを食べたらダメだ、ルシファー。ああ、神様から聞いてはいたけど、本当にあったなんて……!」 「リエル?」  ブツブツと呟きながら湿っぽい空気を醸し出す姿は、まるで彼らしくない。ルシファーが何も言えずにいると、彼は目にも留まらぬ速さでルシファーの手から木の実を奪い取り、あっと声をあげる間もなく地面に叩きつけた。バラバラに割れた木の実から白い果肉が見えた途端、ルシファーの心の奥底がふつふつと煮え滾った。 「何するんだい! せっかくアタシが取ってきたのに! アンタに食べさせてやろうと、取ってきたのに!」 「ごめん。でも、これだけはダメなんだ。この『知恵の実』には、闇が詰まっている。天界中の負の力をここに閉じ込めているんだ。誘惑に負けて食べてしまったら最後、闇に呑まれ天界から追放される」  呆気にとられたルシファーの手を、リエルがそっと掴んだ。割れた果実から遠ざかるように、駆け出す足が徐々に速くなる。  いつもおどけている彼の、棘のような声を聞いたのはこれが初めてだった。思考が追いつかぬまま、振り返ることも出来ずに、ルシファーはリエルに連れられるがまま走り続けた。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 時を止める魔法忘れるくらいの 幸せな時は過ぎていく 十字架に抱かれ空仰ぐ Penitenziagite!(悔い改めよ) 祈りの声などかき消され Opus transit in otium(献身は虚無と化した) この愛さえ魔術と呼ぶのなら Nunc cuncta rerum debita(いまや総てが) 憎しみの炎を放つがいい Exorbitant a semita(道を外れて狂っている) この赤く燃ゆる火のような Penitenziagite!(悔い改めよ) 血の涙の理由(わけ)を忘れるな La mortz est super nos!(死が我等にのしかかる) ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 🐍ルシファー cv. RAKKO https://nana-music.com/users/5226056 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 前節 Ⅰ.晴天の下 (楽曲: 🪩聖者の行進/キタニタツヤ) https://nana-music.com/sounds/06cc4ae6 次節 Ⅲ.楽園に空いた穴 (楽曲: 🪩🐍青のすみか/キタニタツヤ) https://nana-music.com/sounds/06ccb8f2 #魔女 #すずきP #ロマルニア帝国の聖典より

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