nana

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🩵 終わりなど見えない 仕組みなのだから 🏛 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第2部〖神様と1番目の天使〗 Ⅲ.はじまり  きょうだい達の元へ戻ったその日から、ミカは未だ目覚めぬ8番目のことを見守ることにした。光の玉は日に日に大きくなっていき、ついにはミカの両手のひらで抱え切るのがやっとになるほど膨らんだが、その中身に出会えるのはまだ随分と先のようだった。 「きっと焦ることは無いのでしょう。今日も世界は不変に美しく、鮮やかなのですから」  いつ生まれてきたとしても、8番目は同じ光を見るだろう。それならば急かす必要などどこにも無い。神様の辿ってきた時を思えば、ミカたちの生まれた順番など、ほんの誤差に過ぎないだろう。  けれど、ミカの心の奥底には、そんな真理とは別方向に進む感情が宿っていた。身体の中を冷たい風が吹き抜けていくような、焦燥感ともまた違う、けれど強く待ち望む気持ち。 「まあ、ワタシとしては、アナタに早く出会いたいのですけれどね」  光に頬を寄せて抱きしめる。そのまま耳を済ませてみたが、玉の中からは何の音もしなかった。ミカは笑顔のまま少しだけ俯くと、光の玉を木陰に置いて立ち上がる。どこか遠くで、神様が呼んでいる気配がした。  誘われるがままに神様の元へ移動すると、神様は乗っていた雲に穴を開け、その縁に手を添えて真下を覗き込んでいた。 「何をしていらっしゃるのですか?」 「新たな世界を見ています。人間が暮らす、下界です」 「人間?」 「はい。あの子と同じ形です」  神様はゆっくりと顔を上げると、ミカの後方を指さした。振り返れば、草原の遥か向こうから、小さな影が駆け寄ってくるのが見えた。 「もしかして……!」  気づけばミカは走り出していた。彼の姿形は他のきょうだいたちより随分とシンプルで、7番目のカーリから角を取ったような容貌だった。ミカの半分の半分程しかない小さな身体が、ぽふっと軽い音を立ててミカの翼に飛びついた。 「あいたかった!」  舌足らずな声がミカの耳に届く。翼をぎゅっと握りしめ、思い切り頬を擦りつける姿が、堪らなく愛おしい。 「ずっとこうして、ぎゅっとしてくれてたの、おれわかってたよ」  光に透かした雫のような双眸が、ミカの姿を捉えたまま離さない。ミカは大きな手で潰してしまわないように気をつけながら、翼でそっと彼──8番目の身体を包み込んだ。 「ワタシも、ワタシも会いたかったです。気づいてくれていたのですね」  小さな命はまあるく、やわらかく、あたたかく、陽の光の匂いがした。ミカと8番目の戯れを穏やかに見守っていた神様は、二人に気づかれぬように下界を覗くための穴を閉じた。 「下界には闇と苦しみが漂っています。何れ彼らも触れることになるでしょうが、今は、まだ……」  神様は小さく呟くと、二体の天使を抱きしめるために踵を返したのだった。 ‧✧̣̥̇‧ 『天使ミカ様の話によると、我々人間の世界は8番目の天使の誕生と共に生まれたのだそうだ。しかし、私はこれに大きな疑問を覚えた。記録にて伝わる天使の数は、全部で7体。8番目の存在は聞いたこともなかったのだ』  メギドの像が眉をひそめ、ばつが悪そうな表情を象った。エクレシアは、この後に何か重大な情報が飛び込んでくるのではないかと悟り、一層前のめりになて像へと近づいた。 『天使様の言葉を疑うなど、聖職者に有るまじきことだ。だが……8番目の天使様のお話をされる時、心なしかミカ様のお顔が寂しそうに曇られたように見えた。そして、8番目との思い出について語ったのち、ミカ様は一言、こう仰った』 『忘れてください』と。  低く唸るような声は、どこか後悔の念を孕んでいるように聞こえた。エクレシアはニネヴェを振り返り何かを言おうとしたが、すぐに首を振るとふいっと目を逸らした。 『それきり、ミカ様が8番目の天使の話をすることはなかった』  メギドのその言葉を聞いた途端、エクレシアはぷつりと機械の電源を落とした。突然のことにニネヴェが息を飲むと、エクレシアは口元だけを動かして微笑んでみせる。 「今日の解読はもう終わりにしよう。君の淹れる珈琲が飲みたくなった」 ‧✧̣̥̇‧  その日の夜。メギドと1番目の天使ミカの話をまとめながら、エクレシアは珈琲を運んできてくれたニネヴェにふと問いかけてみた。先程は飲み込んでしまった言葉だが、頭を整理した今なら躊躇なく言える。 「ニネヴェ、君はこの聖典には真実が記されていると思う? それとも、神を崇拝するあまり幻覚を見た聖職者の妄言だろうか」  翡翠色の瞳が、じっとニネヴェを注視している。まるで春先の雨に濡れた若草のようだと思いながら、ニネヴェは変に乾いた喉を鳴らして口を開いた。 「……あたしは、難しいことはよく分かりませんが、あたしの思うところを話しても良いでしょうか?」  エクレシアが頷いてくれたので、ニネヴェはほっとしたように口角を上げた。音を鳴らさないように気をつけながら、小さな木の椅子をエクレシアの隣に置き、すとんと腰掛ける。 「あたしは、メギド様の言葉を嘘だとは思えませんでした。それから、もっと、聖典を知りたいと思いました」 「……そう。知的好奇心が強いのは大いに結構だ」  ニネヴェの答えを聞いたエクレシアは、小さく息を飲むと、さっぱりとした晴れやかな表情を浮かべた。先程まで何やら思い悩んでいた様子だったのに、どういう風の吹き回しだろうか。不思議に思ったニネヴェが尋ねようとした途端、エクレシアが彼女の鼻の先にずいっとマグカップを突き出した。 「珈琲、美味しかったからおかわりをもらってもいいかな?」 「……! は、はい、もちろんです!」  並々に注いだはずのマグカップの中身は、小一時間ですっからかんになっていた。エクレシアはニネヴェの珈琲を随分と気に入ってくれたようだ。 「おかわりと一緒にお茶菓子もお持ちしますね。一晩寝かせておいたフルーツケーキがあります。あのクレオパトラも愛したという、アレキサンドリア地方のクランベリーがどっさり入ってますよ」 「ふふ、それは楽しみだ。女王になったつもりで待っているよ」  エクレシアの冗談めいた台詞を背中に受けながら、ニネヴェは満面の笑みで階下へと降りていった。明日は一体、どんな話が聞けるのだろうか。知を運んできた隣人のおかげで、染まりやすいニネヴェの興味はあっという間に聖典一色になってしまったらしい。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── ⛓静まり返り 眠る街を駆けゆく 吹き抜け踊る 風に乗り夜の淵へ 🪬輝く月が その横顔を捉える 冷たく光る 左手は何を掴む ⛓解れゆく世界の 欠片をひとひら 🪬意思の火を片手に 縢り歩く ⛓🪬終わりなど見えない 仕組みなのだから 問う事は諦め 一つ一つ ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── ⛓️神様 cv.海咲 https://nana-music.com/users/579307 🪬1番目の天使「ミカ」cv.Neumann https://nana-music.com/users/10462832 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 前節 Ⅱ.暁光 (楽曲:🪬フクロウ 〜フクロウが知らせる客が来たと〜/KOKIA) https://nana-music.com/sounds/06cbfdf4 次章 第3部〖知恵の蛇と2番目の天使〗 次節 Ⅰ.晴天の下 (楽曲: 🪩聖者の行進/キタニタツヤ) https://nana-music.com/sounds/06cc4ae6 #カガリビト #millstones #ロマルニア帝国の聖典より

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