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🩵 楽園は何処にある... 🏛 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第1部〖創世:ロマルニア帝国の聖典より〗 Ⅲ.天啓 [ロマルニア帝国 中央都市 キュレーネ大聖堂]  開け放たれた窓から、夜半の生温い風が吹き込んでいる。伸び始めた前髪をさらりと撫でる空気の流れに気がついたメギドは、筆を進める手を止めて窓の外を見やった。 「今夜は満月だったか」  ちょうど窓枠の上部にかかるようにして、白く光る月がこちらを見下ろしている。メギドは筆を置き、大きく伸びをして窓の傍に近寄った。ほんのりと光る月明かりが、山々の輪郭を緩やかに照らし出す。穏やかな夜だった。 「ホロンも寝てしまったし、私もそろそろ寝床に入る準備をするとしよう」  ぽつりと呟き、メギドは窓から離れようとした。と、その時。不意に視界の先に黒い影が映った。丘の先からこちらに向かって動いているそれは、どう見ても人間の姿であった。 「こんな夜中に外を出歩くとは……獣や盗賊にでも襲われたらどうするつもりだ」  土地勘の無い旅人だろうか。メギドは眉をひそめながら階下へ降りると、白い羽織を無造作に被って燭台を持ち、大聖堂の扉を開いた。影はゆっくりと、しかし確実に近づいてきている。メギドは大きく手を振ってその人物を招き入れようとした。 「おおい、夜半に出歩いては危険だぞ。早く中へ入りなさい」  しかし、メギドが声を張り上げても、影は一向に反応を示さなかった。ただ少しずつ、着実に、彼に向かって歩みを進めている。  はてさて、これは何だか妙だぞ。メギドの脳裏を嫌な予感が掠めた。咄嗟に助けようとしてしまったが、今目の前に対峙している者が善人である保証は何処にもない。 『獣や盗賊にでも襲われたら──』  先程自分が発した言葉が蘇る。もしや、今まさに危機が迫っているのは、他でもないメギド自身なのではないだろうか。  最悪の想像が浮かび、無意識に後退りを始めた次の瞬間、影がメギドに覆い被さるように伸びた。燭台で照らされている範囲に入り込んだ人物の様相を見て、メギドは言葉を失った。 「あ……」  それは、人ではなかった。否、鼻の下までは確かに人の姿をしているのだが、顔の上部はこの世の者とは思えぬ異形を象っていた。頭蓋の上半分がぱっくりと割れ、空洞になった場所には、両手で抱えられそうなほど大きな目玉がぎょろぎょろと動き回っている。その瞳孔が硬直したメギドを捉えた瞬間、異形がぱかりと口を開いた。 『こんばんは。今夜は冷えますね』  波打つ海原のように豊かな声色で、それは隣人のようににこやかな温度をもって話しかけてくる。 『人の姿になってゆけば良かったのですけれど、ワタシは弟たちとは違って変化が得意ではなくて。けれど、アナタならきっと気がついていただけると信じておりますわ』  異形はそこで言葉を区切ると、蒼白い右手を高く掲げた。すると、先程まで暗がりで見えなかった背後に、背丈をゆうに越す大きさの翼が現れた。 『ほら、この翼をご覧になって。アナタは、ワタシたちの存在を、よく知っているのではありませんか?』  翼を背負ったその姿は、まさに神秘という言葉に似つかわしい出で立ちであった。メギドの中に、恐怖とは別の確信めいた感情が湧き上がる。気がつけば、メギドは口走っていた。 「もしや貴方様は、天使様であらせられるのでしょうか?」 『ええ。アナタがたの言葉では、そう呼びます。ワタシはミカ。神に造られし1番目の天使です』  巨大な目玉をぱちぱちと瞬かせ、ミカと名乗った天使様はゆったりと微笑んだ。驚きと感動で息が詰まってしまったメギドの頬を、人によく似た形の指が撫でる。その感触はひんやりと冷たかった。 『ワタシたちの伝承を書き記しているのはアナタですね? 神の世と人の世が繋がることを、ワタシはとても嬉しく思います。今日は、そのお礼と、少しばかりの助言を与えに来たのです。アナタの書を、見せてくださいますか?』  天使様の指がメギドの頬を包み込むと、不思議なことに彼の緊張の糸は、一瞬にしてはらりと解けてしまった。湯船に浸かったあとのような心地良さとともに、メギドはふらふらと階段を上がっていく。やがて、彼は右手に、先程まで書き物をしていた紙の束を持って降りてきた。 「とても、天使様にご覧いただけるような代物ではございません。私と助手が私的に書き残している、噂話がほとんどの拙い記録です」 『いいえ。よくぞ残しました。……けれど確かに、度々事実とは異なる点があるようです』  天使様は頁を捲らずとも内容を理解できるようだった。しばらくぎょろぎょろと忙しなく眼球を動かしていたが、やがてメギドの顔にぴたりと視線を当てると、こう言った。 『神の子よ。アナタに役目を与えましょう。この記録に、これからワタシが話す真実を織り交ぜ、人の世に広く知らしめなさい』 「……! 本当ですか。私のような修行中の身で宜しければ、そのお役目、謹んでお受けいたします」 『ふふ、アナタは心からそう言ってくださるのですね。このような化け物を目にしても、未だ知りたいと。ならばお話しましょう。ワタシたちの物語と、辿ってきたその全てを』  天使様は一段と大きく翼を広げると、子守唄を歌うかのような音色で語り出したのだった。 ‧✧̣̥̇‧ 「それから毎晩、天使様はやってきた。他の人間はおろか、助手のホロンにすら存在を話してはならないと言われた私は、毎夜ただ一人、天使様と向き合って様々な話を聞いた」  メギドの像は、心無しか高揚しているようだった。少年のように煌めいた瞳で、メギドは歌うように零す。 「最初の日、天使様はこの世界が創造された日の話をしてくださった」 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── ★ 🌬️(大地と大空は 何故 別れたのだろう 世界は残酷でされど 美しい ) 🌬️石を投げる者と 投げられる者には 容易に越えられぬ 柵がある 立ち位置が変われば 正義は牙を剥く 檻の中で吼えているのは 果たしてどちらか? 心臓を捧げた 戻せない黄昏に 進み続けた夜の果て 楽園は何処にある... Requiem... この夜に散った 名も無き花よ どうか安らかに 暁に眠れ ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 🌬メギド cv.ラムネ https://nana-music.com/users/7020177 ★キュレーネ大聖堂 少年聖歌隊 唄見つきの https://nana-music.com/users/1235847 日向ひなの https://nana-music.com/users/2284271 はいねこ https://nana-music.com/users/7300293 オムライス https://nana-music.com/users/1618481 中条 瑠乃 https://nana-music.com/users/1791392 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 前節 Ⅱ.メギドによる福音書 (楽曲: ⛪️🪽🌬️忘れじの言の葉/未来古代楽団) https://nana-music.com/sounds/06cb340a 次章 第2部〖神様と1番目の天使〗 次節 Ⅰ.創造 (楽曲: ⛓Sis puella magica!/梶浦由記) https://nana-music.com/sounds/06cbde8f #暁の鎮魂歌 #LinkedHorizon #進撃の巨人 #ロマルニア帝国の聖典より

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