踊り明かそう
🥀スカーレット・ハイデローゼ
踊り明かそう
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第1節「西の国 ハイデローゼ城」
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「……やっと陸に上がれた」
「やっと陸に上がれたわね!」
海を渡りきった船からオホツチはよろよろと、ワダツミはぴょんと軽い足取りで下りる。そしてワダツミはそのまま辺りをぐるりと見回した。
「見てオホツチ。山の上に石でできた大きな建物があるわ」
「石でできた大きな建物があるね。多分お城じゃないかな」
「へぇあれはお城なのね。石で作った建物なんて新鮮ね。少し休んだら見に行きましょうよ」
「うん、見に行こうか」
しばらく海風に当たってオホツチの調子が戻ってくると、2人は愛用の漆器の椀を魔法で大きくしてそこに乗りこんで山へとひとっ飛びした。
「大陸の魔女は箒に乗って飛ぶらしいよ」
「へぇ、箒に乗って飛ぶなんて面白いわ。オホツチは本当に物知りね」
近づいてみるとその城は大きいが、装飾のない質素な見た目をしていた。ツルの巻きついた門には家紋らしい花をくわえた鷹が掘られている。
「今はもう誰も住んでいないのね」
「今はもう誰も住んでいないみたいだ。ここに案内板があるよ」
「案内板があるわね………オホツチが読んで」
「自分で読みなよ。あ、まさか……」
「うぅ……オホツチみたいに大陸の文字をちゃんと勉強しておけば良かったわ」
「勉強しておけば良かったね……。仕方ないな。ええと……ここには200年ほど前まで領主が住んだたらしい。ハイデローゼ家は質素倹約を家訓とした一族で、長くこの地を収めていたんだって」
オホツチが案内板の内容をかいつまんで説明するとワダツミが興味深げに辺りを見回した。人家はちらほらとあるものの、ブドウ畑の緑色が美しい穏やかな風景が広がっている。
「200年前……その頃はここも賑やかだったのね」
「賑やかだっただろうね」
「僕、このお城の昔の様子を見てみたいわ!」
「……うーん、出来るかな?」
「出来るんじゃないかしら?だって何だかこの場所に強い想いが残ってるみたいだし」
ワダツミが目を閉じて魔力を辿ってみせると、オホツチも同じように魔力を辿って頷いた。
「たしかに。それじゃあ私たちの固有魔法を使ってみようか」
早速、二人は手を繋ぎ呪文を唱えた。
「≪動かざる山を見よ(ヌムカラ·トァ·フシ·ヌンリ)≫」
「≪波立つ海を見よ(ヌムカラ·トァ·シン·アトゥイ)≫」
2人の固有魔法は場所や物の過去や未来を見ることが出来る。そこに誰かしらの強い想いがあればさらに見やすくなる。
2人は空気や地面に葉の葉脈のように広がる魔力を辿っていき、寄せては返すさざ波のような魔力の中からより強い力で引き寄せられる場所を感じ取る。そっと握り込むように焦点を合わせる。まぶたの裏に強い光が瞬き、そっと目を開けばそこには先程と全く異なった光景が広がっていた。
「とっても賑やかね」
「確かに賑やかだ。これは……」
そこは先程と同じお城の前。
しかし、そのお城はツル一つなく磨きあげられ赤い旗が飾られている。そして何より異なるのはお城の前の広場には、2人を取り巻くように大勢の人間たちがいる事だ。質素ではあるが恐らく普段よりも着飾った姿の民衆たちは、楽器片手に突然現れた2人をギョッとした顔で見つめている。地面には鮮やかな花々の花弁が散っている。
ついさっきまでこの土地の住民たちが何かお祝いをしていたことは明白だった。
「ねぇ、今日は何か特別な日なのかしら?」
「えっ、ああ……はい。今日は大奥様が催してらっしゃる薔薇冠の祭りの日です」
「薔薇冠の祭り?って何だろう」
「みんなで一日中踊って、一番素敵な踊りを見せた人は薔薇の冠と褒美が貰える祭りなんです」
「ローゼンタール様はいつも質素倹約を心がけていらっしゃるけど、今日だけは美味しいものを食べて一日中楽しく踊る日なんですよ」
オホツチの問いかけに、住民たちは戸惑いながらもどこか嬉しそうに答える。その表情から住民たちが1年の中でこの祭りをとても楽しみにしていることが伝わってきた。
「わぁ!お祭りですって!ねぇオホツチ、僕らも参加しましょうよ!」
「参加したくないよ。ワダツミだって知ってるだろう?あまり踊りは得意ではないし……」
「踊りが得意じゃないわけじゃないわ。オホツチが恥ずかしがってるせいよ」
そんな風に2人が揉めていると、民衆の中の1人がおずおずと声をかけてきた。
「突然姿を現すなんて……もしかしておふたりは魔女様ですか?」
「ええ、そうよ」
「うん、そうだけど」
2人が素直に頷くと、人間達はわあっと歓声をあげて喜色をあらわにした。
「魔女様だ!」
「大奥様の所へつれていこう!」
「え?え?一体何なのかしら?」
「大奥様って誰のことだい」
「前当主の奥様、スカーレット様だよ!」
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民衆たちにいざなわれ、ハイデローゼ城に案内された2人は大きな部屋に案内された。ちなみにワダツミは興味深そうに目を輝かせて、辺りをキョロキョロと見回している。
「わざわざご足労頂いてしまって申し訳ございません。わたくしが皆に祭りに来た魔女様は、この城までご招待するようにと言っておりまして」
その部屋で2人を出迎えたのは老婦人だった。
髪はすっかり白くなってしまっているが、穏やかな紫色の瞳と上品な立ち振る舞いから彼女が身分の高い人物であることがすぐにわかった。おそらく彼女が先代当主の奥方のスカーレットだろう。
「ここにいらっしゃった魔女様には同じ質問させて頂いておりますの。おふたりは義足をつけた踊りが好きな魔女をご存知ですか?」
「知らないわ。僕たちは故郷を出て旅を始めたばかりだもの」
「知らないな。私たち以外の魔女に会ったことがないんだ」
「そうですか……」
貴族の身分であるにも関わらず、彼女は2人に丁寧に接してくれたが、その瞳には客人に失礼にならない程度のかすかな落胆が浮かんでいた。
「でも、私達はこれから四つの国を巡る旅をすることになってるんだ」
「ええ、旅をするのよ。だから事情を教えてくれたら僕たちも何か手伝えるかもしれないわ」
「……それなら、お言葉に甘えて年寄りの昔話に付き合っていただけるかしら」
スカーレットは少し微笑んでこう続けた。
「お話しするわ。あの方に出会った夜のこと……一晩中踊り続けたあの夢のようなお祭りの思い出を……」
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🥀スカーレット・ハイデローゼ(cv.言乃麻衣)
もう眠れないわ! 心がとっても軽い
あぁ羽のように 夜空を舞う想い
I could have danced all night
(一晩中だって踊れたわ)
I could have danced all night
(一晩中だって踊れたのよ)
And still have begged for more
(もっと踊りたいってお願いするくらいに)
I could have spread my wings
(わたくしは羽を広げて)
And done a thousand things
(どんなことだってできたの)
I’ve never done before
(今までやったことがない事だって)
I’ll never know what made it so exciting
(何がわたくしをどきどきさせているか分からない)
Why all at once my heart took flight
(どうして突然心は飛んで行ってしまったのかしら)
I only know when he began to dance with me
(唯一わかるのはあの人と踊り始めると)
I could have danced,danced, danced,
(わたくしは踊ることができた)
All night!
(一晩中ね!)
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🥀スカーレット・ハイデローゼ(cv.言乃麻衣)
西の国の貴族の老婦人。
ハイデローゼ領の前領主の妻であり、上品で落ち着いた雰囲気の淑女。貴族でありながら民達にも対等に接し、質素倹約を心がける人物で多くの人々に慕われている。毎年領地で踊りが1番上手い人には薔薇の冠と褒美を与える祭りを行っている。その祭りには彼女の若い頃の思い出が関係しているらしいが……
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𓆙第4章 プレイリスト𓆙
https://nana-music.com/playlists/4096351
𓆙 素敵な伴奏ありがとうございました𓆙
よっち様
https://nana-music.com/sounds/036f659e
𓆙 𝕋𝕒𝕘 𓆙
#スカーレットハイデローゼ
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