nana

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🎡 御褒美に手品処刑 🎠 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第18幕『試練という名の妨害』  華々しいパレードが行き交う大通りから建物ひとつ挟んだ向こう側。一寸先も目視が怪しいほどに闇が深まった通りを、ヤーナはスキップをしながら抜けていく。道の終わりに辿りつくと、その先は小さな円形の広場になっており、カミリア、サフィ、ウォルターの三人と、AMに在籍する複数の罪人たちがいた。 「遅いですよ、ヤーナ」 「ごめんって。案外アイツらと話すの楽しくってさぁ。結構いい暇つぶしかも」  ヤーナはキュッと目を細めると、脳裏に共にフロート車を作った彼らのことを思い描いた。小動物のように跳ね回る小柄な彼らは一癖も二癖もある連中ばかりで、接していると退屈する暇もなかった。その中でも、特にヤーナが目を引いたのは、あのミューという少女。能面のような顔の裏に途方もないほどの複雑な心を抱えているのが手に取るように分かった。もう少し遊んであげても良いかもしれないなと、ヤーナは満足気に嗤う。  そんな彼の様子を見て、カミリアはいつもの不敵な笑みを一層強めた。 「ほう、AMの皆さんと随分仲良くおなりで!」  その声音は、ヤーナを歓迎するようにも、非難するようにも、どちらとも取れる奇妙な空気を伴っていた。ヤーナは返事を誤魔化して肩を竦めると、広場の隅にどかっと座り込んだ。 「僕のことはこれくらいでいいでしょ。早く始めなよ」  暗がりの中に、ヤーナの白く鋭い歯がキラリと光る。にやりと口角を上げ、視線を転じた先には、集められた罪人たち。彼らは皆一様に赤い札を持っていた。ヤーナの視線に気がついた罪人の一人が、困惑を含んだ様子で口を開く。 「おい、これで全員揃ったのか? 俺たちに報酬をくれるって話だよな?」 「おチビちゃん達が頑張っているみたいだからね。何にもしてないアタシたちまでおこぼれ貰えるなんてラッキー」 「AMが消えるなんて言われた時はどうなることかと思ったが、あいつらに全部押し付けてれば万事解決だな」  一人の男が話し出したのをきっかけに、それまで幹部に囲まれ緊張した面持ちだった罪人たちが一瞬にして気を緩める。  全く愚かな連中だ。ざわめきだす彼らを横目に、ヤーナは唇の端を上げて嘲笑した。ここまで堕落してしまえば、自らが分かりやすい罠に嵌っていることすら気がつけないものなのだろうか。  カミリアもサフィもウォルターも、何も言わずにただ罪人たちを見つめていた。まるで、何かが起こるのを待っているかのように。  程なくして、ウォルターが柔く微笑んだまま空を見上げた。その表情が少しだけ切ない色を映し出していたことを、罪人たちは終ぞ悟ることが出来なかった。 「ああ、時間です」  それが終わりの合図と成った。突如広場の頭上に真っ白な渦が浮かび、その中から白髪に赤い花の飾りを身につけた美しい少女が姿を現した。 「何だ?」 「あれは……」  罪人たちもようやく顔を上げ、空中を凝視している。皆の視界に少女の姿がはっきりと映し出された瞬間、誰かがぽつりと呟いた。 「閻魔様」  そう聞こえた途端、罪人たちの身体が色を喪って、砂のようにボロボロと崩れ始めた。驚いた顔のまま、何が起こったのか分からぬままの表情で、前方にいた彼らが変形していく。 「ひっ……!?」 「やだ、な、なんで」  後方の罪人たちは、呆気なく頽れた仲間たちの残骸を見開いた目に映した後、喉から醜い雑音を捻り出しながら一目散に駆け出した。 「逃げられては困る」  顔色一つ変えぬまま、これまで口を閉ざしていたサフィが、小さく呟いた。彼がひとたび指を鳴らすと、罪人たちの身体はまるで石膏像のようにその場に静止した。 「か、身体が動かない」 「何するのよっ、殺してやる! 」 「話が違うじゃねえか! 報酬を寄越せよ!」  血走った無数の目が、錆びた憎悪の言葉が、サフィただ一人に注がれる。けれど彼は、その全てに目をくれることもなく、ただ上空の閻魔様だけを見つめていた。 「これ全部、おまえを脅かすものだよ」 「分かった。それじゃあ貰っていくね」  その時、閻魔様は初めて目を開き、水晶玉によく似た双眸でサフィに微笑みかけた。罵詈雑言が飛び交う罪人の群れに彼女が手を翳すと、彼らの身体もまた、先に朽ちた仲間のように脆く落ちていく。最期の言葉すら言い終わらないうちに、穢れた魂は影も形も無くなった。  閻魔様は、全ての罪人がひとつの灰に纏まったことを確認すると、ふわりと浮上して瞬く間に消えてしまった。後に残った灰の塊は、夜風に攫われあっという間に空気中に溶けていく。髪の先にざらついた風が吹き抜けた。 「……何度見ても惨いものですね」  誰も彼も無言でいる中、独り言のようにウォルターが呟いた。 「一年間、猶予を与えてくださるのではなかったのですか? 彼等は、仮にも私の仲間でしたよ」  溶けた金を垂らしたような瞳が、カミリアの口元を捉える。仮面の下の素顔は、実に愉悦と言わんばかりに笑っていた。 「ご冗談を。確かに、一年の間に顧客を増やせば魂を繋ぎとめて差し上げるとは申しましたとも。けれど、その間働かざるものにまで猶予を与えるとは一言も、ねえ?」  ウォルターの肩にカミリアの長い指がまとわりつく。表情は変わらずとも、彼が僅かに身動ぎしたのを、カミリアは見逃さなかった。 「無能は全てを自分の都合の良いように解釈するからいけない。……本当は、貴方も分かっていたのでしょう? だからシェスタに赤い札を渡さなかったのでしょう?」  仮面の向こうで、皮膚の擦れる音がした。カミリアは溢れる笑いを堪えているようだった。 「大切な友を守りたいのであれば、シェスタに仕事をさせなさい。でなければ今度は、一切の猶予もなく、私が彼を消しに参ります」  それではと呟いて、カミリアは煙になって姿を消した。ぼんやりと宙を見ていたサフィも、二人の対話が済んだと分かるとカミリアの後を追っていった。広場の中には、立ち尽くすウォルターと事の顛末を見守り続けたヤーナだけが残された。 「いっつもニコニコしててつまんない奴と思ってたけど、君にも感情ってあったんだね。友達にだけ、わざと札を渡さなかったんだ?」 「……ええ、愚かでしょう。どうぞ笑ってください」  疲弊した様子で、それでもウォルターはヤーナに微笑みかけた。ヤーナは膝を台にして頬杖をついたまま、マゼンタの両眼をゆっくりと細める。 「ねえ、これは僕からの忠告なんだけどさ」  心の底にこびりついた鬱憤を晴らすかのごとく、ヤーナは声に刃を詰め込んだ。カミリアに賛同するのは些か気が滅入るが、確かにこの男、気に入らない。 「君のソレは、優しさじゃなくて怠慢だよ。汚れた人間を救いたいなら、自分も汚れなきゃ。綺麗なところから投げかけられた善意なんて、ゴミ以下だ」  口にして初めて、ヤーナはウォルターに感じる嫌悪の正体を理解した。彼は綺麗すぎるのだ。地獄に縛り付けられてなお、聖域の中に揺蕩う天使のようで。綺麗すぎて、恐ろしい。 「君さ、なんでここに堕ちたの」  ヤーナの問いかけに、ウォルターは答えなかった。ただ少しだけ目を見張ったあと、いつものように微笑んだ。そして闇夜に同化して見えなくなった。  遠くからは未だパレードの音が響いてくる。ヤーナは広場の中央に寝そべると、砂の中に紛れていた灰の残りを摘みあげた。 「揃いも揃ってろくでもないな。でも、さっきのウォルターの顔、あれは結構面白かった。ふふっ、どこまで抗えるか見ものだな」  ふうっと軽い息を吐いて、ヤーナは灰を飛ばす。罪人の生きた証は今度こそ、慈悲もなく雲散霧消の一途を辿った。 SEASON2【凱旋パレード編】END ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 夢幻の世界は御伽の terrarium(星体飼育箱 ) 道化に溺れた棘の marionnettes(あやつり人形 ) お喋りポットに 隠してる 時の種 悪い子でもいい 『まだ眠りたいの』 謎々をあげる すべて解けなくちゃ 泣き兎と嗤い熊たち 御褒美に手品処刑 shala lu-lala 謡って お菓子が囁くように le fleur de coquelicot(雛芥子の香り ) 囚える collier des sombre(闇の首輪) 黒金の鎖 白銀の禁絲 想い出が輝く un manège 懺悔の涙に 恐怖が咲いたら 捕まえてあげるの tic-tac-tic 殺して刻むの le montre de la vie(命の懐中時計 ) 大人になったら et toi?(貴方? ) 裏切りは I will never forgive(許さない) ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖CAST〗 👗ヤーナ(cv:まぁる。) https://nana-music.com/users/2692190 〖ILLUSTRATOR〗 日向ひなの https://nana-music.com/users/2284271 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖BACK STAGE〗 ‣‣第17幕『叫』 https://nana-music.com/sounds/06b2ae05 〖NEXT STAGE〗 ‣‣第19幕『博打』 https://nana-music.com/sounds/06b40429 #AMUSEMENT_AM #コンパス #撥条少女時計

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