フォニイ
可不
フォニイ
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🎡 自らを見失なった絵画 🎠
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第3幕『黒煙都市』前編
かの「余命宣告」から数日が過ぎた頃。従業員全員に立て直しへの協力を仰ぎ、あえなく全敗したファニイとユナは、揃いの途方に暮れた表情でパークの隅のベンチに座っていた。
「駄目だな、こりゃ。どいつもこいつも危機感の無い粗大ゴミだ」
「う、うーん……そうかも……」
普段はユナの毒舌に怯えているファニイですら、今日ばかりは疲れきった様子で同調する他無かった。それ程までに、AMの現状は淀みきっている。暫くはファニイとユナの二人で客引きをするしか無さそうだった。
「あーん、せめてイリスがいてくれたら良かったのに。イリスならすぐ協力してくれただろうなぁ」
「サロンの方が繁忙期みたいだからな。ウォルターから話は聞いていると思うが、それでも中々顔を出せないんだろう」
そう言って、ユナは相も変わらず曇天の空を仰ぐ。脳裏には、美しくカールした桃色と紫の髪を思い浮かべていた。
先ほど名前のあがったイリスは、AMの中では珍しく、よく働く気立ての良い女性であった。この職以外にも、自身でブランドを立ち上げ系列のブティックやサロンを経営しているのだとか。
「よくやるよ」
「そういうユナさんだって、僕らの身体治してくれるところと掛け持ちしてるじゃん」
「まあ、生前外科医だったからな。罪人の修復は、何ならここの業務よりも容易い」
自嘲気味に零すと、ユナは横目でちらりとファニイを見た。そう言えば、彼の出自については聞いたことがなかった。ユナが知っているのは、彼は自分より二百年ほど前に亡くなったらしいということ、ただそれだけだ。
「今の様子を見るに、お前は働いたことなんて無さそうだよな。昔は金持ちのお坊ちゃんだったのか?」
鼻で笑うような口調でユナが言うと、ファニイは左右で色の異なる大きな目をぱちくりとさせた後、ふにゃっと気の抜けた顔になった。
「そうだったら良かったんだけど……」
太く編まれた三つ編みを手でいじりながら、ファニイは哀愁の色を帯びた声でこう続ける。
「真逆なんだ。僕は働きすぎて死んじゃったの」
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「おめでとうファビ。貴方の里親が決まったわよ」
孤児院の先生は、自分のことのように嬉しそうな笑顔でファビアンの頬を撫でた。周りの子どもたちも、先を越されて悔しそうな顔をしているものの、力強く鳴るその拍手の音は心から彼を祝福していた。
ファビアンは、生まれながらにして天涯孤独の孤児だった。生後間もない頃に孤児院の前に捨て置かれ、それから八年間、この場所で暮らしていた。ロンドンの郊外、森の近くにひっそりと建つ孤児院の暮らしは、毎日食べていくのがやっとなほど貧しかったが、ファビアンは気にも留めなかった。優しい先生と、歳は違うけど皆仲良しな子どもたち。例え明日のご飯が少なくても、壁の隙間から吹く風に凍えても、笑顔さえあれば、ファビアンはそれで十分だった。
(今の暮らしも幸せなんだから、きっと、里親のお父さんとお母さんの家に行けば、もっと幸せなんだろうなあ……)
期待に胸を膨らませ、ファビアンは意気揚々と孤児院を出る支度を始めたのだった。
ファビアンが孤児院で暮らす最後の夜、先生におやすみの挨拶をしようと今に向かうと、そこには打ちひしがれた様子で涙を流す先生の姿があった。
「せんせ……」
「ああ、ファビ、ごめんね。アンドリュー、セレス、エミリ、ああ……!本当にごめんなさい……」
先生は、ファビアンの名前の後に、数ヶ月前に孤児院を出ていった子どもたちの名前を呼んでいた。子どもたちを送り出してしまったことに罪悪感でもあるのだろうか? そう思ったファビアンは、後ろから先生にそっと抱きついた。
「ファビ……!? いつからそこに……」
「謝らないで先生。僕も、アンドリューたちも、皆幸せになるためにここを出ていくんだから。先生、今まで育ててくれてありがとう」
先生を安心させたくて、そうぎゅっと抱き締めたはずなのに、先生は何故か、ファビアンに向かって何度も何度も謝り続けていた。
だが翌日、先生は何事も無かったかのようにファビアンの部屋に現れると、にこやかな笑顔で彼の荷物を持った。
「昨日はごめんなさいね。貴方まで居なくなるかと思うと、あまりに寂しくて、気が動転してしまったの」
「大丈夫だよ、先生。僕、新しい家に行っても、手紙書くから。新しい家では、学校に行かせてもらえるんでしょ? 文字を覚えたら絶対一番に先生に書くからね!」
息を荒くしてそう声を上げたファビアンに、先生は微笑んで頷いてくれた。そして、彼の荷物と共に抱えていた、三つ編みの女の子の人形を差し出す。
「荷物と一緒に入れても良いかと思ったんだけど、ロンドンの真ん中までは、馬車で2時間以上かかるでしょう? 『ファニイちゃん』も一緒がいいわよね?」
「うん、ありがとう先生!」
大きく頷いて、ファビアンは『ファニイちゃん』を受け取った。この人形は、ファビアンが四歳の時に先生が作ってくれたもので、孤児院の子供たちとは別に、ファビアンにとっての大切な友達だった。人形は、不器用な先生のお手製ともあって少し風変わりな様相をしていた。先生は自分の腕を卑下して、人形に『ファニイ(可笑しい)』という名をつけたのだが、ファビアンが予想外に気に入ったのを見て、今では親しみを込めて『ファニイちゃん(愛嬌のある女の子)』と呼んでいた。
そんな経緯のある『ファニイちゃん』は、ファビアンと同じくらい孤児院を出ることを惜しまれた。
孤児院を出るその瞬間、ファビアンの目からは静かに涙が流れ落ちていた。例え小さな人形一つであっても、一人の人間のように扱ってくれる孤児院の皆が、ファビアンは大好きだった。
「先生、皆! 僕、絶対絶対、手紙書くからね!」
ファビアンは涙に負けぬよう大声で叫ぶと、迎えに来た馬車に乗って孤児院を後にした。子供たちは誰もが皆、ファビアンは立派な教育を受けて立派な青年になるのだと囁きあった。しかし、一ヶ月過ぎ二ヶ月過ぎ、まる一年が経っても、ファビアンからの手紙が来ることは無かった。
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時は、ファビアンが里親の元へ辿り着いた所まで遡る。工場の黒煙が漂うロンドンの街中を抜け、大きな屋敷の前で馬車が止まると、ファビアンの里親であるフォルトナ夫妻は、にこやかな笑顔で彼を家の中へ招き入れた。そして馬車が去ってしまうと、途端にその笑みを消した。
「お父さん、お母さん、これからよろしく──」
「お前に俺を父と呼ぶ資格はねえ」
「持ってきた荷物は全部捨てなさい。今着ている服は……そうね。孤児院の物にしては質が良いから、古着屋にでも売ろうかしら」
養父と養母は冷ややかな口調でそう言い放つ。そして、呆気に取られて固まっているファビアンを見ると、途端に意地の悪い笑みを作った。
「まさか、本当に教育が受けられるとでも思ったの?」
「可哀想になぁ。身寄りのない孤児にそんな上手い話があるわけないだろ。お前は汚れ仕事を請負う働き手として俺たちに売られた。つまり、騙されたんだよ」
ギャハハ、と下品な声で高笑いする養父の声が耳に痛い。昨晩の先生の泣き顔が脳裏を巡る中、ファビアンは待ち受ける絶望の前にただ立ち尽くすことしか出来なかった。
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〖LYRIC〗
この世で造花より綺麗な花は無いわ
何故ならば総ては嘘で出来ている
Antipathy world
絶望の雨はあたしの傘を突いて
湿らす前髪とこころの裏面
煩わしいわ
何時しか言の葉は疾うに枯れきって
事の実があたしに熟れている
鏡に映り嘘を描いて自らを見失なった絵画
パパッパラパッパララッパッパ
謎々かぞえて遊びましょう
タタッタラタッタララッタッタ
何故何故此処で踊っているでしょう
簡単なことも解らないわ あたしって何だっけ
それすら夜の手に絆されて 愛のように (消える 消える)
さようならも言えぬ儘 泣いたフォニイ (フォニイ フォニイ)
嘘に絡まっているあたしはフォニイ
Antipathy world
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〖CAST〗
🎢ファニイ(cv:中条瑠乃)
https://nana-music.com/users/1791392
〖ILLUSTRATOR〗
えりざ
https://nana-music.com/users/2137656
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〖BACK STAGE〗
‣‣第2幕『少年は曇天に願う』後編
https://nana-music.com/sounds/06a7a425
〖NEXT STAGE〗
‣‣第4幕『黒煙都市』後編
https://nana-music.com/sounds/06a90334
#AMUSEMENT_AM #すずじゅんサウンド #ツミキ #フォニイ
コメント
1件
- すずじゅん伴奏使っていただきありがとうございます☺️ 歌声とても雰囲気ある感じでよかったです👏👏👏 コラボありがとうございます🙏✨