もっと、ちゃんと言って
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雨が長く降り続いていた夜中のことだった。
「ふーちゃんちょっと出かけてくるけど、もしかしたら帰りが遅くなるかも。でもちゃんと帰ってくるから、心配しないで待っててね!」
どこに行くのか聞いても、その日はごまかされてしまった。少し不安だったけれど、口には出さずにいた。だってお姉ちゃんは、その言葉通りいつもちゃんと帰ってくるから。お姉ちゃんの言葉が嘘だったことはなかったから。「ただいま」って明るい声で言ってくれて、それに「おかえり」って返せるのが嬉しかったから。
遅いって、どのくらい遅いんだろう。ちょっと、と言ってたけれど、雨が止まないせいかなんだか長く感じた。でも、そのうち扉が開いて、いつものように明るい声で待ちわびている言葉を言ってくれる。もうすぐ帰ってくるってわかっているのに、そんな光景を何度も思い浮かべた。
コンコン、と、鈍い音が二度響いた。
「お姉ちゃん!」
張り詰めていた心の中の糸が急にほどけたような、そんな安堵を覚え、急いで扉の前までかけていった。
でも、扉を開けたのに、そこに思い描いていた姿はなかった。黒い服を身に纏った、ずっと背の高い見知らぬ人。
「え?」
咄嗟に喉の奥から出て行ってしまった言葉は、自分でもびっくりするほど低く、震えていた。
どうして、お姉ちゃんじゃないの。
「風茜さんのご家族でいらっしゃいますか?」
その姿には微かな見覚えがあった。だいぶ昔、一度だけその光景を見たことがあった。見知らぬ人のところに同じように訪れて、その人が何かを告げると、伝えられた人の顔はみるみるうちに歪んでいき、瞳から涙が零れ落ちた。その時は何を言ったのかわからなかったけれど、今ならわかってしまう気がする。
カレンダーはバツ印で埋め尽くされていた。こんな悪い予感なんて当たるはずない。嫌だ。なんで。どうして。私が待ってるのはずっとお姉ちゃんの言葉以外ないのに、勝手に来て、勝手に喋らないでよ。もうこれ以上何も、言わないで。
「先日、風茜さんは亡くなられました」
扉の閉じる音が聞こえた直後、心臓の脈打つ音が胸を締め付け出した。私は足りていない息を大きく吸い込もうとしたけれど、途中でむせてしまった。徐々にものを考えられる頭になってから湧いてきたのは、どうしようもないやるせなさと、ぶつけようのない怒りだった。黒い服の人は他にも何か喋ってた気がするけど、どうしてお姉ちゃんは死んでしまったのかとか、今お姉ちゃんはどこにいるのかとか、聞きたかったことは多分何も言ってくれなくて。でも、放心して何も考えられなかった私は聞くことすら忘れてしまっていた。その人はもうどこにも見当たらなかった。
もしかしたら悪い夢じゃないのかな、とも思った。あの人は本当は人を悲しませる悪い人で、悪い嘘を吐いただけなんじゃないかなって思った。けれどどんなに待ってもお姉ちゃんは帰ってこなくて、むしろあの人の言葉の方が現実になっていくみたいで、ただただ心が蝕まれていくだけだった。
どうして、何も言わずにいなくなるの。
一人で遠くに行かないでよ。
ただいまって、どこにも行かないよって、これからもずっと一緒にいるよって。
もっと、ちゃんと言って。
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lyrics
🌻あのね、私実はわかってるの
もう君が逝ったこと
あのね、わからず屋って言うんだろうね
忘れたいんだけど
もっとちゃんと言ってよ
忘れないようメモにしてよ
明日十時にホームで待ち合わせとかしよう
☀️牡丹は散っても花だ
夏が去っても追慕は切だ
口に出して 声に出して
君が言って
🌻そして人生最後の日、君が見えるのなら
☀️🌻きっと、人生最後の日も愛をうたうのだろう
全部、全部無駄じゃなかったって言うから
あぁ、いつか人生最後の日、君がいないことが
まだ信じられないけど
☀️もっと、🌻もっと、☀️もっと、🌻もっと
☀️もっと、🌻もっと、☀️もっと、🌻君が
☀️🌻もっと、もっと、もっと、もっと
☀️もっと、🌻ちゃんと☀️🌻言って
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Cast
🌻風鈴 -Furi- cv.ハナムラ
☀️風茜 -Fua- cv.まぁる。
Instrument
→ https://nana-music.com/sounds/053aed70
#WhiteYouzy伴奏
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