依存の烙印者 ロゼ
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依存の烙印者 ロゼ
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『むかしむかし…ある次元、ある世界に大きな大きなお花が咲いていました。そこでは強い強い力を持ったお花の女王様がおりました。女王様に愛されたお花の妖精や精霊たちは大きな大きなお花の国で幸せに生きていました』
ゴトッ…花瓶を置く音が部屋に響く。ベッドに座っていた部屋の主は少し顔を顰める。
「…オーナー、庭の花なの?土が付いてたり虫がいたら困るな。やめてくれない?」
白髪の亡霊は穏やかな笑顔で主の方を向く。
「ふふ、イザベラさんが中庭の池から摘んで来てくれたんですよ。お裾分けに参りました」
気だるそうに亡霊の方を見やる。…なんでよりによってその花なんだ…
『女王様はお花の様に美しく、お花の様にお優しい方でした。精霊たちは世界中のお花を集めては女王様に献上しました。女王様はお花を受け取っては新たな精霊や妖精をお花から生み出し、国は栄えていきました。
ある時、一人の精霊が珍しい世界の珍しいお花をやっとの思いで摘んできて、女王様に献上しました。
―まぁ、なんて美しいのでしょう!きっと素敵な精霊が生まれるわ!―
女王様はお花を撫でた後でとびきりの魔法をかけると、お花は光の中で形を変え一人の男の子になりました。
女王様も民達も、その男の子の美しさに大喜び。朝焼け前の淡い藍の髪と、薔薇のような幸せ色の瞳。きっとこの子は女王様にとって大事な子になるぞ!皆は手を取り合い喜びました』
「水仙はお嫌いですか?純白の花に黄色が可愛らしいじゃあないですか。…愛らしく、それでいて気品もあって…」
「…単なる自惚れだよ。ナルシスト…語源は流石に知ってるでしょ?」
「…あぁ、水仙になった美青年の話ですね。あまりの美しさに川に写る自分を見続けたという。水に落ちて死んだとか、顔が見たいあまりに川から離れず衰弱したとか…諸説ありますね」
「ニンフの愛を断って花にされたとかね。…バカバカしい。どうせ、恋なんて一時の感情だし、愛した花だっていつかは枯れる。生きる物は衰えるのに」
薔薇色の目が酷く冷たく水仙を睨みつけた。
『女王様はその男の子を自分の傍にずっと置いて、大事に大事に可愛がりました。
―貴方は私の大事な息子、そして大事な花婿さんよ。この国でずっとずっと二人、幸せになりましょうね―
国の民達は両手を広げて二人を祝福しましたとさ』
一頻り話終わり、亡霊オーナーは部屋を出ていった。水仙が嘲笑うかのようにこちらに向いている。あれだけ腐る程見続けた花…。鏡を見ればその瞳すら花の色…。故郷で聞いたあの声が記憶から蘇る。
『至高の瞳…ふふ、貴方の名前はロゼにしましょうね』
ロゼは自分の顔を両手で覆う。目の前は手で作られた闇に落ちる。
『…なんで?なんで!??ねぇロゼ、何が気に入らないの?貴方は素晴らしい精霊、私の大事な存在…何故出ていこうとするの?直して欲しい事ならなんでも言って?貴方に私以外の存在を近寄らせないから?貴方が見る物全て、先に私の謁見を済ませないといけないから?…それは、貴方を守る為なのよ?ロゼ。ねぇ、分かって?
…なによ、その目…やめて!私のロゼはそんな顔なんてしない!!私から離れるなんて言わないわ!私はこの国の主よ!私にただの精霊風情が逆らえるとでも…?考え直しなさい』
「…断る」
部屋で一人、ロゼは記憶に呑まれ不意に答えが口を滑る。
『…認めない、認めない、認めない!!そんな言葉も、それを吐き出すその口も!!絶対に許さない!!!』
女王は憎しみを込めてロゼの口を塞いだ。…まずい、このままでは殺される!ロゼはこの日のためにこっそり用意した次元越えの鍵を握り締めた。空間の歪みがロゼを包み込むその瞬間…ドクン!体が急に脈打つと口から猛烈に何かが込み上げ、堪らず吐き出した。…目の前に広がったのは色とりどりの花弁の絨毯。口を覆う為にと手を動かすと、その掌からも花吹雪が舞い飛ぶ。
『…ふふ、ロゼ。残念ね…一人になれたつもり?もう貴方は私の烙印者よ…ずっとずっと私を想って苦しめばいい』
…はぁ…部屋にロゼの深いため息が漏れる。手をゆっくり離すと間からヒラヒラと花弁が落ちる…。ロゼは静かに立ち上がり、鏡の前に立つと舌をベロりと出す。そこには花のような烙印がされている。
「…エゴだよ。花はただ咲いていただけだ。僕だって…。生きてるだけなのに、みんな勝手でバカバカしいんだ」
親でもある女王は偉大で恐ろしく強大な存在だった。この烙印が付くまでは…。苦しめと言うあの魔女には依存の茨が悲しい程張り巡らされていた。彼女も…所詮感情に勝てなかったエゴイストなんだ…。
「…明日はフロントの飾り付けを手伝わなきゃいけないんだっけ…はぁ、面倒くさいな…」
今は、寄り場のない自分を拾った物好きな亡霊の元でホテルスタッフとして生きる…今はただそれでいいのだ。ロゼはベッドの花弁を掴むと窓の外に捨てた。
✎___
ようこそ、ロゼ
De:froNのスタッフとして歓迎致します…
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