愛で溢れている
🦢イヴ・リーンカイン
愛で溢れている
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第1節 音楽は魔法
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「≪想いを歌え(スワン·ソング)≫!」
その日イヴは北の国と西の国の境目に位置する集落に来ていた。村人たちが冬を越す準備を手伝うためだ。イヴが杖であるオルゴールを掲げるとボロボロだった家の屋根が直っていく。
「貴方にお願いされた通り屋根に魔法をかけておいたわ。これで今年の冬の雪は大丈夫だと思う」
「イヴ様、ありがとうございます……!」
「この辺りは北の国の方から吹き降りてくる風のせいで寒さが厳しくて……家がなければ凍え死んでしまうところです」
魔女は基本的に人間に恐れられて迫害されていることが多く、人間嫌いな者が大多数でイヴのように積極的に人間を手助けをしてやるような魔女は稀なのだ。
村の人々に感謝されるのに笑顔を返し、イヴは村外れで待っている少女の元へ急ぐ。
「……!!!うー!」
「ごめんね、待たせちゃって」
大きな木の下でちょこんと座って待っていた少女はイヴの姿を見るなり、駆け寄ってぎゅうぎゅうと抱きついてくる。イヴは少女のそんな様子に微笑みながら抱き上げ、後ろから抱きかかえるような形で箒にのせてやる。最初は怖がって暴れたが、今では慣れたもので少しスピードを出しても少女は平気な顔をしている。
「そういえば、そろそろあなたの名前も決めないとね。名前が無いと不便だし……」
「う?」
「そうね……ネージュ、なんてどうかしら?」
「ねじゅ?」
「そう、それがあなたの名前よ」
「ねじゅー!」
「うーん……分かってないわよね、これ……」
少女──ネージュはいつまでたっても言葉を覚えられなかった。覚えが悪いわけではない。むしろ最低限のマナーや生活習慣、そして特に魔法に関してはとても吸収が早かった。
例えばイヴが初めてネージュに教えた魔法は姿を変える魔法だった。ただ髪や瞳の色を変えるだけだが、髪や瞳の色で迫害されるであろうネージュには有用な魔法だと思ったからだ。
『髪や瞳の色を変える魔法は、こうやって魔力を体に溶け込ませるみたいに……』
『……う?あぅ!』
『嘘……1回で……!?』
言葉は分からないからと思い、目の前で魔法を実践してみせるとネージュはそれを一回見ただけで見事に魔法を使いこなしてみせた。自分と同じ色に変わっていくネージュの髪と瞳をイヴは呆気に取られて見返す。
恐らく獣のように自然の中で育ち、持っている魔力が強いため魔力の流れに敏感なのだろう。
「言葉を覚えるのも動物みたいに鳴き声じゃなくて、『単語』で意思疎通してるって気付けば早そうなんだけどねぇ……」
ため息をつくイヴをネージュは不思議そうに見上げていた。
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しかし転機は突然訪れた。
それはとある日の夜のこと。その日はいつにも増して星が綺麗だった。澄んだ夜空に星々が瞬くのを見てイヴは外に出てみたくなったのだ。
「星を見に行こうか?」
「うゅ?」
ネージュが凍えないようにたくさん服を着込ませると、家の外に出る。見渡せばきぃんと音がしそうなくらい澄み切った空気の中、一面の雪景色が広がっている。これでもまだ冬は本番ではなくこれからもっと雪は深くなるのだ。
「今日は特に星が綺麗ねぇ……」
きらきらきらめく小さな星よ
愛するあなたを空から見てる
きらきらきらめく小さな星よ
愛するあなたに全てを贈ろう
ネージュの手を引きながら歌を口ずさむ。愛する人をいつも見守り、その人のためなら何でも捧げたいのだと星に語りかける陳腐な、けれど純粋な愛の曲。
イヴは音楽が好きだ。こうして歌っていると人間も魔女も抱いている感情はさほど変わらないと、それならばいつか分かり合える日が来るのではないかと思えるから。
そんな風に物思いに耽っていると、ふと自分が口ずさんでいるのと同じメロディが別の場所から聞こえることに気付いた。驚いて振り向くともちろんそこには手を繋いだネージュがいる。
「……きらきら……ちいさな、ほしよ」
「……!貴女、いま言葉を!?」
「あいする、あなたを……」
「空から見てる!すごいわ!」
イヴは繰り返し歌いながら空を指さす。
「あの輝いているものが星。星よ。わかる?そしていま口ずさんでいるのが歌よ」
「ほし……うた」
するとネージュは何かに気付いたようにハッと目を見開いた。そして今度はイヴのことをじっと見つめる。
「イヴ?」
「そう、私はイヴ!そして貴女はネージュ!」
はっきりと意志を持った呼びかけに、イヴは喜びの声を上げてネージュを抱きしめた。そんな2人を星々はいつまでも優しく照らしていた。
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ラララ…Love 愛の歌 ラララ…Love
ふっと立ち止まる足元 咲いた小さな花
そっと繰り返される呼吸が ここにもある
わが子抱く母の瞳 大切につないだ手
数えきれない笑顔 愛しさが満ち溢れている
何度も刻んでく愛の記憶
メロディーになって響く
そう歌い続ける愛の歌を その手に取って
抱きしめられた温もりに 理由(わけ)はいらない
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🦢イヴ・リーンカイン(cv.IRYU)
青みがかった黒髪に、穏やかな緑色の瞳。いつも慈愛に満ちた表情を浮かべている。
西の国の魔女。ネージュの名付け親であり、育ての親であり、初めての魔法の師匠であり、初めての音楽の師匠。人間と魔女が共存できる世界を夢見ており、人間と仲良くなれるように人間を手助けしながら生活している。
困った人を放っておけない心優しい性格。またネージュに勉強を教えられる程の教養も持つ。
【好き】平和、音楽
【嫌い】争いごと
【特技】歌を歌うこと
【ステッキ】白鳥の細工のオルゴール
【固有魔法】
「想いを歌え(スワン·ソング)」
相手の抱く望みを実現する魔法
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◇第2章 プレイリスト◇
https://nana-music.com/playlists/3840346
◇素敵な伴奏ありがとうございました◇
もみ様
https://nana-music.com/sounds/03ee6e00
◇ 𝕋𝕒𝕘 ◇
#aikatsufriends
#魔女イヴ
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