来る晩秋の祭へ
nazna
来る晩秋の祭へ
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ここは世界樹の麓、世界樹をはじめとした多種多様の木々が生い茂り、よく晴れた日中も木陰で少し薄暗い…キリエの街。
「はぁ…風が少しずつ冷たくなりましたねぇ」
肌寒い風に煽られる髪を抑え、ニフは世界樹を仰ぐ。まだ夏に生い茂った緑はその色を留めてはいるが、穏やかにその勢いを失っていた。
ニフは出張所を応援に来ているシノに任せ、鞄を抱えて世界樹の森の高台へと向かう。そこはまるで別世界かと思う程に赤や黄色に彩られていた。秋の力がいち早く影響を及ぼしているのだろう。ニフは大きな切り株の前に立ち止まると、深々と頭を下げた。
その瞬間、木枯らしと共に一枚の輝く銀杏が舞い降りる。その葉は風に舞ってひらめくと同時に形を変え、小さな耳とフサフサの栗鼠の尾をたずさえた精霊に姿を変えた。その顔は凛と鋭く、長く揺らめく髪は赤から橙、そして黄色へと目まぐるしく色を変える。
「久しいな、ニフ」
「毎年お越しくださりありがとうございます」
「今年もまた主が寝床にお帰りになられる時期が近づいたな…お前達はハロウィンと言うのだったか…毎年盛大な祭りを行ってくれている事、我等秋の眷属は深く感謝をしている。…去年の祭りは感謝の印だ。素晴らしかったであろう?」
ニフは必死に微笑んだが、苦笑いを消す事は出来なかった。春の主を称える花祭にて、春風の儀式を披露した精霊に対抗し、生真面目でプライドの高い秋の精霊達は木枯らしの儀式を披露した。確かにそれは美しく神秘的であったが、後に街中が落ち葉まみれになって掃除に明け暮れた…とは流石に言えなかった。
「今年も祭りを楽しみにしておる。…菓子も、それはそれは期待しておるからな」
秋の精霊は勤勉で生真面目でプライドが高い。一見取っ付きにくく近寄り難いが、実は甘い物に目がない。ハロウィンは我々ヒューマノイドの楽しみでもあるが、秋の眷属も心待ちにしているイベントなのだ。
「はい、滞りなく。キリエで一番のパティシエ、スイーツ・ラボさんに話は通しております」
「…そうか、感謝する。…ふむ、菓子屋…か」
何かを考え込む精霊。ニフは気に触る事を言ったかと少し慌てるが、どう声をかけて良いか悩んで口を閉じた。暫くの沈黙…
「我々はゲヘナとアッシャーの中津者、ゲヘナの神々より命をうけ、アッシャーの歯車を回す存在…両の世界の存在であり、どちらにも属さぬ輩。…故に出来ることもあるやも…」
1人でブツブツと訳の分からぬ事を呟く精霊。ニフはただ目を点にして聞いていた。
「…今年は木枯らしの儀式は取り止めて、ひとつ頼まれて欲しい…また後日この場所で…良いか?」
…え?話が見えない!?ニフはこんがらがる頭で必死に言葉の意味を追う。あの落ち葉大洪水の儀式披露が中止になったのは歓迎すべき変更だが、頼まれ事とはなんだろうか?まさか更に厄介事が大きくなるのだろうか…必死に何事か聞き出そうと言葉を探したが、真剣に見詰める精霊の眼差しの圧に負けてしまい、コクリと頷くことしか出来なかった。
ハロウィンでのキリエ側の企画書と精霊の意志を交換し終え、この日はお開きとなった。一体、今日の精霊の思いつきは何だったのか…
「はぅ!もうこんな時間!!協会の皆さんとミーティングに行かなきゃ!」
考えを巡らせたいが、そんな時間は理事会員には残されていない。ガサガサと落ち葉を舞い散らしながらニフはキリエへと走り去った。
…to continue
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