君の好きなところ
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君の好きなところ
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「大好きだよ…その真面目なところ、勤勉なところ、優しいところ、でも少し冷たい態度で翻弄してくるところ、明るい茶色の髪…もうサラサラの!整った顔、丸くて大きな眼鏡、その奥のキラキラした瞳…後ねー、えっとねー」
言葉に合わせてブンブンと左右に振れる三股の悪魔の尾はまるでメトロノームだ。アルマの両手で自分の両手を包まれているニフは恥ずかしさと混乱の中、白い目でアルマを見つめている。…今日は静かに過ごしたいとお祈りしたのになぁ…。よ!ご両人!だの、え!ニフさん恋人いたの!?と出張所に来た客が口々にはやし立て、その都度アルマが嬉しそうに手を振った。
「えっと…なんですか?これは。書類を書きたいので、手を離して欲しいのですが…」
「だめ!だって…だぁってぇ!!ニフ、私に内緒でデートしたんだろ!酷いよニフ!!しかもドレスなんか着て、凄く綺麗にしてたんだろ!?あああ!!見たかった!その隣に居たかったァァ」
大の大人が泣きながら訴える。一瞬首を傾げたが、ニフの顔はさらに真っ赤に変わった。
「あ!あ!あれは!!アグルさんのお父様の誕生パーティーにお呼ばれしただけで!あ、アグルさんっていうのは、半神仲間でして、その…」
「私とだって、亜人仲間じゃないか!!今から半神に代われる薬を作ればもっと仲良くしてくれるのぉ!?」
うわぁーん!と泣きながら叫ぶアルマ。流石に種族を変更する薬なんて作れないが…この状況を変化させる薬が欲しい!ニフは心から思った。出張所のカウンターを挟んで白衣のダンピールと理事会員が手を取り合っていて、一方は大泣きしている…さっき出張所に来た客は二人を見て直ぐに出て行く始末。ニフもアルマに負けない泣き顔で叫びたした。
「そんなこと言われましてもぉお!あれは急だったんでずぅー!どーしたら泣き止んでくれますかー!あー」
「キリエで、世界で一番ニフが大好きなのにー!私もニフとデートしたい!もっと仲良くしたいよぉー!」
「分かりましたよぉぉお!!」
会話中終始泣きっぱなし。大人が二人手を取り合って泣きながらデートのお約束。何故こうなったのか?出張所に来た客も、そして本人達もさっぱり分からなかった。
「うう、勢いに任せてOKしてしまいましたが…何故?最近お誘い多いのは何故!?…は!これがモテ期!!」
約束の日、前夜の寝室。化粧台の前にうつる自分を見つめながら独り言。モテ期と浮かれてみるものの、鏡の中の髪が跳ねて疲れ目の自分が鼻で笑う。…好きな人は確かに居たけれど、恋人なんていたことは無い。元はいいんだけどねぇ…以前言われたヤミィの呆れた目がまざまざと脳裏を過ぎる。あうう!これでお化粧大丈夫ですか!?この服は変じゃないですか!?明日の準備を済ませても安心出来ずになかなか寝付けなかった。
朝。質素な白のワンピースと手編みのショールを羽織りドキドキしつつ約束の場所へたどり着くニフ。…いや、なぜドキドキしている?「二フー!構ってよぉ!」「ニフだぁ!わーい」…普段のアルマの姿を思い出す。爆破で顔が汚れてる姿や自分に向かって猛ダッシュする姿…さっきまでの緊張はあっという間に不安に変わった。大騒ぎしながらここに来たらどうしよう…
「ニフ!」「はひゃ!」
え?なんで叫ばれた?キョトンとした顔のアルマが立っていた。いつものボサボサの髪でも煤で汚れた顔でも、薬剤の変な匂いを纏わせてもいない。白の髪色に合わせて、ライトブルーの爽やかなシャツに青が混ざった淡いグレーのズボン。そして品のいい革靴を履いている。うっかり誰!?と口走りかけた。ドギマギするニフの手を取ると、さあ!今日は楽しもうね!とスキップしそうな足取りで進んでいく。
二人は飛竜便へ向かったが、彼が進む先は駅ではない…二人を待っていたライダーがワイバーンを従えている。ライダーに向かって進むアルマは笑顔で振り返った。
「私はニフの真面目なところ大好き!でも、ストレスも溜まるでしょ?今日は貸切!空からキリエを見よう」
そう言うと三人乗り込んだワイバーンは空へと舞い上がる。ニフは髪を抑えながら、わぁ!と目を見開いた。
「私ね、ニフの忍耐強いところも好き!ほら!世界を支えてる、世界樹だよ!優しくて厳しくて…私、この景色二人で見たかったんだ!」
キリエをグルリ飛び回り、ついでにブレイザブリクも見えるところまで飛んでいく。ニフを生み出してくれてありがとう!と真剣に拝んでいる姿に苦笑しつつ、なんだか温かい気持ちに溢れるのをニフは感じた。
飛竜便はキリエへと戻ると、レストランの前へと降り立った。少し高級そうなお店…ニフは緊張のあまり転びかける。すると少し冷たいダンピールの手が体を支えた。
「その少しドジっ子なところも堪らなく可愛い!…大丈夫、ニフ?」
「あ、ありがとうございます。それにしても…先程から凄く褒めてもらいっぱなしで、なんと言いますか…恥ずかしいというか…」
ニフは照れ隠しに眼鏡を動かす。その言葉にアルマはキョトンとした顔で首を傾げた。
「褒めすぎ?…まさか!まだ半分も好きなところを言えてないよ!このデートはニフの好きなところを伝えるために選んだプランなんだ!さ!行こう」
手を繋いでズンズン歩いていく。あややや…と情けない声を上げつつ、ニフは引きずられて席に着く。緊張で嫌な汗が手から吹きでる。テーブルマナーちゃんと覚えておけばよかった…どのタイミングで手を洗うんだっけ…!?
「お待たせしました…」
届いたスープにニフは驚いた。思考が凝らされているが、高級な料理ではなく、よく見る一般的なキリエの家庭の味である。
「ニフのね、お嬢さんみたいな凛とした品も好きだし、だけれど取っ付きやすいその性格も大好き…えへへ」
頬杖ついてニコリと笑うアルマとスープの湯気…あぁ、私、デートをしてるんだ…。ニフの鼓動はドクンと脈打つ。その後も味は良いが片意地張らない素朴な料理が続いた。お腹もいっぱいになり店を後にする。外に出ると空もそろそろ幕引きだと促すような薄暗さだった。アルマは最後にとニフを案内したのは…
「出張所!?」
出張所の前のベンチにニフを座らせるとアルマはニフの前で跪き、ニフの手を取る。え!これは…ついにプロポーズ!?!?ニフは顔を赤白赤白と目まぐるしく変えた。
「ニフ…」「は、はひぃ!!」
「私は、そんなか弱い体全てでこの街を支えてる、そんな頑張り屋さんなニフが大好き…なんだけどさ、心配になるんだよね!全く…」
ムニムニムニ…アルマに取られた手が揉まれている…。
「ほら、ここ、凝ってるよ!」「ぎゃー痛い!!」
「…ふふ、大好きなんだけど、程々にね!これは私からのとっておき!ちゃんと販売してるものだから安心して」
手渡されたのは栄養ドリンク。アルマの店では1番高いものだ。ニフはそれを見つめつつボソリと呟いた。
「…う、うっかり告白されるのかと…勘違いしました」
あはは!と大笑いした後、アルマはニフの頬に軽くキスをする。
「ニフの事、本当に大好きだからさ、分かるんだ。私に恋をしたら、その時は迷わず迎えに行くから。それまで頑張るよ、私…」
そう言って帰っていくダンピールの背中はとてもかっこよく見えた。
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ニフとデートしました。
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