嵐のように突然に
Ado
嵐のように突然に
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「あぁーーーー!みぃぃいっけぇーーーー!!」
背後から怒号なのか歓喜なのか…絶対に関わらない方がいい声がジーグの背中を掴んだ。…いや、ワンチャン私ではないかも。きっとそうだ…
「おい蜥蜴!工房に居ないとはどーゆー事っすか?あん?お前のせいでキリエ3週したっすよ!足痛て!!」
おー元気なこって。頼む…一生キリエを周回しててくれ…誰だか検討がつかないが、知って関わるリスクがきっと高い。ジーグは振り返らず駆け出した。
「あ”あ”!!逃すかぁぁあ!」
ザザザ!独特のリズムで地面を踏む音が聞こえる。途端にジーグの足が固まる…ああ…私はこれを知ってるぞ…あの時の露店…情けない顔の男が居た…。振り返りざまに鞭を思いっきりしならせる。ソイツはステップを踏み切れずに回避する。
「…?踊り子?誰だお前は」
「はぁ?え?はぁぁあ??会ったことあるのに酷くない!?頭きたぁ!」
「いやいや、それは謝るが私は全く覚えがない!…お前の足止めはアラタの術と同じだから、バドンの者なのは分かるが…」
「おぉまぁえぇぇえ!!そこまで分かるなら、うちの事も分かれし!!儀式の!ランダ神婚姻の儀式の時に踊ってただろーが!!」
…ああ!って、居たのは何となく知っているが、あの時の踊り子は何人かいたし、そもそも自分がそれどころではなかった。それを会っていると言われても横暴だ。
「お前が私のねぇ様に力を借りた蜥蜴っすね!?ねぇ様にお力をお借りするなんて、なかなかできないっす。それが余所者のお前にあっさり貸した…お前なんなんすか!?」
「なんなんだって!?なんだその雑な質問は!!」
「きっと強いに違いない!ねぇ様とアラタ兄が認めたお人!是非手合わせ願いもーーーす!!」
はぁ?まるで話が見えない…しかし、もう開演準備は済んでいるようだ。一方的過ぎる…ため息とともにジーグは銃を初めとしたあらゆる武器を構える。ショータイムだ!
「あー!それがねぇ様の作品…はぁん!見れてめちゃ幸せ!なんと美しいぃ!」
「ちげー!これは私の…そして皆の作品だ!」
「ねぇ様!ここでも御手合わせお願いしまぁす!」
派手に体を翻すと、なんと動きに合わせて業火が吹きでる。何故だ!?詠唱をしていない…この力は呪詛のレベルを超えている。確実に魔法だ!!
「行くよ!火山の金髪姫、ペレ!息を合わせ!はぁあ!」
激しいダンス。わかった!このダンスが詠唱なのだ!この依代銃と同じ…リズムが言葉になっている。恐ろしいシンクロ…まるで彼女がペレそのもののように魔法を繰り出してくる…!詠唱のモーションがないから、どの動きで魔法が繰り出されるか全く見えない!
「ほれほれ、もっと頑張ってぇ?考え事なんてよゆーっすね?そんなんじゃ、案外サクッと逝っちゃうよ?」
魔法にかまけすぎた。踊り子の回し蹴りがモロに脇腹を捉えた。…強い…!!ダンスの切れ目がない、次から次へ動きが流れる。休みなく魔法と直接攻撃が飛んでくる…この流れを切らねば!先程のように鞭を振るが、踊りながら回避される。
「なーんだぁ…ワンパターンなんすねぇ…オラオラ!殺しちゃうぞ!?」
両足をダン!と踏み締めて手を翻すと真空刃が無数にジーグへと飛び出す。
「くそっ!オラァァァ!!」
ジーグは重厚に作られた両手剣を振り回して全てを受け流した。
「ほほーう!そう来なくちゃあ!やるじゃん」
「はぁ…はぁ…こん…の野郎…!今度は私の番だ!武器屋舐めるなよ!!?」
銃を構えて弾を詰め込む。ダダダダ!!属性弾が炸裂する。カレンは踊りながら回避するが…
「なんすか!岩が!岩がぁ!ぎゃー!水!!」
ノームとウィンディーネが着弾に呼応して呪詛を展開する。何とかノーダメージで済んだが、すっかり泥水で汚れるカレン。
「へん!こんなん痛くも痒くもないっすよ!ふぁ!」
ジーグを挑発している間にもカレンめがけクナイが飛んでくる。しかし全てはカレンに当たらず過ぎていく。
「うわ、まさか運動音痴っすか?ダンスで良かったら教えよーか?蜥蜴クン」
カレンの言葉を無視して、今度は地面に向けて依代銃を構える。
「地走れ!トール!」
恐ろしい電流が大地を走ったかと思うと、それは水に触れ、泥まみれのカレンを襲った。
「ぁあぁあ!!」
カレンは堪らず岩を伝って飛び上がる。するとジーグは何かを引っ張った…糸?カレンは咄嗟にその糸を追う。その先には岩に深く刺さったクナイ…!?ガゴッ!!クナイは引き抜かれ、岩が割れて崩れる。成程、クナイはこれを狙っていたのか!
「ぎゃっ!あぁあ!!」
岩に体をとられ、地面へと倒れるとまた電流が体を走った。ジーグはゆっくりカレンに近寄る。
「まだ岩に刺さったクナイは残っている…これを全て引き抜いてもいい…どうなるだろうなぁ?お前目掛け落ちる様は…それとも、大好きなおねぇ様とやらに撃ち抜かれるか?選んでいいぞ?」
銃口からは今か今かと轟をあげるトールの息吹…カレンはガクッと項垂れた。
「頭いいっすね…狡いよぉ…力押しじゃだめ?…ああ…」
「いや、いいと思うぞ?体一つでここまで追い込めるって相当な事だ…それに私の戦術じゃ、お前のダンスを止めることになる。お前はお前のスタイルで戦えばいい」
「優しいじゃん…でも、うちは最強になりたい…今のままじゃだめだ…今のままじゃ…ありがとう、蜥蜴のジーグ」
「お前は?」
「バドンの踊り子、ランダ様の一番弟子カレン…」
二人は固く握手をして別れた。共に戦った者だけが感じる友情を胸に……
「で…私はなんで襲われたんだ…!?」
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武器屋の戦術に触れました。
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