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少女が転がり込んだのは、森の奥に静かに佇む洋館の庭だった。
蔦が這う古びた洋館は、ざっと見渡す限り片手では足りないくらいの部屋数がありそうな大きさがある。
(こんなところに建物があるなんて聞いたことない!)
少女が呆然と座り込んでいると、ふと、足音と共に人の気配が近づいてくるのに気づいた。
「あらあら、大胆なお客様。一応、門があちらにございますので次からはご利用ください」
声のする方に視線を向けると、そこには少女が二人身を寄せ合って怯えた目でこちらを見つめている。その前には少女たちを守るように成人女性が一人立ちはだかっていた。
女性は人の良さそうな笑顔で少女を見ていたが、古びたラウンドメガネの奥の青い瞳は少女を見定めるように鋭く光っている。
「あっ!えっと!ごごごごめんなさいっ!こんなところに人が住んでるなんて知らなくて!あのっ私っ森の中で迷っちゃって!」
少女が立ち上がって深々と頭を下げると、女性は少し表情を緩めて目を開いた。
「あら?Dream Pillow のお客様じゃないのですか?」
「ど……りーむ、ぴろー?」
「あらら、本当に迷子のようですね」
女性は少し驚いたような表情をして身を寄せ合う二人の少女を振り返る。
二人の少女も警戒はしながらも、先程までのように恐怖で身を固くして震えることはなかった。
「うちのお客様じゃないなら何故この森へ?あまり良い噂は聞かないでしょう?」
「あ、はい……えっと、その……」
何か言いづらそうに顔を伏せた少女に、女性は「ふむ」と一つ息を吐くと身を寄せ合う少女二人に声をかける。
「飴村さん、あいみんさん、予定通りティータイムにしましょう。お茶とお菓子の準備をお願いできますか?」
「えっ!」
「でも……」
飴村とあいみんと呼ばれた二人の少女は、女性と招かれざる客の少女を交互に見て困惑したように眉を下げる。
「ああ、もちろん、お客様の分もご用意してあげてください」
「「えっ!」」
飴村とあいみんは同時に声をあげて、ますます困ったような表情でお互い顔を見合わせた。
それもそのはずで、飴村は基本人見知りで初めての人と話すのが苦手だったし、あいみんも自分の興味のあること以外人と話すことが苦手だった。
ましてや、突然自分たちのテリトリーに無作法に飛び込んできた相手など、とてもじゃないけれど一緒にお茶をする気にはなれないのは当然だ。
女性もそれを察して、一つ頷くと森の方をぐるりと見回す。
そして徐に自分のベルトから下げているアームカバーのようなものを利き手につけると、上空を見上げて高い声で叫んだ。
「森の賢者ノーティカよ!あなたの意見が聞きたい!」
そう言って女性が利き手を伸ばして動きを止めると、どこからともなく何かが羽ばたく音が聞こえてくる。
そして次の瞬間、キョトンとしている少女の前を茶色の塊が横切ると、それは女性の腕へと止まった。
「急なお呼びたて申し訳ない。森の賢者ノーティカ」
そう言って彼女が顔を寄せた先には、一匹の美しいフクロウが女性の腕の上で優雅に佇んでいた。
女性はそのフクロウを少女の顔の前に差し出すと、その森の賢者に問いかける。
「この者を森は受け入れるか?」
その言葉を聞き入れるようにフクロウは少女を見つめると、二、三度首を傾げた。
そうしてしばらく二人はにらめっこをすると、フクロウの方が先に視線を外す。そしてフクロウは女性の方へと顔を向けると、目を細めて一つ「ホゥ」と優しく鳴いた。
「そう……。ありがとう、森の賢者ノーティカ」
女性がそう言うと、フクロウはすぐに翼を広げ森の奥へと姿を消してしまった。
それと同時に、飴村とあいみんはまた顔を見合わせる。
「ノーティカ様が許した」
「うん、ノーティカ様が許すなら」
森の葉擦れのような囁き声で彼女たちは会話を交わすと、一つ小さく頷きあった。
「案内人さん、お茶の準備をしてきます」
「他の皆さんも広間にお呼びします」
「ありがとうございます。そうしてください」
二人の少女は庭で摘んだであろうハーブの入ったカゴを手に持つと、勝手口らしき扉から屋敷の中に姿を消した。
「あ、あの……」
完全に置いてけぼりの少女がおずおずと声を上げると、案内人と呼ばれた女性が彼女の方を振り向く。
「Dream Pillow のお客様じゃないにしても、ここに来たという事は何かの縁があってのことです。お茶くらいどうでしょう?
その後は私がちゃんと森の出口までご案内します。いかがですか?」
「そっそういうことなら」
森の出口まで案内するという言葉につられ、少女は思わず条件をのんだ。
またあの薄暗い森を一人で戻るのは、あまりにも辛い。
「決まりですね。
ご挨拶が後になってしまいました。私はココの屋敷の主人兼、Dream pillowの夢先案内人のみおぎと申します」
「あ、私は音凪歌撫(おとなぎかなで)って言います!」
「歌撫さん。良い名前ですね。さあ、どうぞ」
案内人は洋館の入り口に当たる方へと手を差し出すと、歌撫をその中へと導いた。
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コメント
4件
- 𝓓𝓻𝓮𝓪𝓶 𝓟𝓲𝓵𝓵𝓸𝔀 ✭closed✭
- 橙🍊 総勢10名の吹奏楽🔥『プロヴァンスの風』 ぜひ聴いてね❣️キャプション読ませて貰いました。情景が浮かぶ、素敵なお話ですね。フクロウが、こういう形で登場したり、歌と連動しながらも素敵なオリジナルになってドキドキしました🍀。 りいちゃさんのコメントを、あとから見て🤗、まっくら森🌳🌳🌳も遊びに行ってきました。 力作長編、楽しかったです🍀。ありがとうございます🍀。
- 𝓓𝓻𝓮𝓪𝓶 𝓟𝓲𝓵𝓵𝓸𝔀 ✭closed✭
- のんママ(りいちゃ)@コラボ作品もなかなか聴きに行けず🙇🏻♀️💦ゆっくり伺います。まっくら森の歌も聴い(読んで)来ました。 その第2弾ですかね。 素晴らしいですね✨✨✨ ワクワクゾクゾクしながら文字を辿りました❣️ この後どうなるのかな、ワクワクです。 こんな素敵な物語のBGMにしていただき感謝です✨✨✨