初めまして「ウタウと空蝉」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「ウタウと空蝉」
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「よーし、いっちょやりますかぁ!」
「やりますかぁ!」
本当のことを言うと、実は少しだけ、どうやってお友達になればいいか分からなくて、初めましての前日は眠れなかった。だけどいざその時を迎えたら、初めましてと同時に、私は名前だけ名乗って第一声、ウタちゃんをお菓子作りに誘った。ただのお菓子作りじゃない、二人で力を合わせないと、絶対に完成なんか望めない大作だ。仲良くなるには、一緒に困難を乗り越えること、これはニチアサが教えてくれたこの世の理である。
私は、古代書庫から見つけて来た、製本のノリがばらけてしまったお菓子のレシピを、いつか誰かと作る日のために一生懸命解読しておいた。所々訳が怪しいところもあるけれど、古語に明るい文化財の面々が概ね意味は通ってるって太鼓判を推してくれた出来だ。問題なく使用可能。
臼でお米を粉にして、お菓子の国で買って来たサトウきびを絞り、お砂糖を煮詰める作業も全部全部、一切合切楽を放棄して手作業でやると約束してはや2日。私とウタちゃんは、特に何か合図を出さずして、道具を差し出しあえるくらいの意思疎通が図れて来た。なんかあの、お父さんとお母さんが、お醤油をとって欲しい時に自然とはいって手渡しできるような、あの感覚だねって言ったら、ウタちゃんが私のことを“あなた”って呼んでくれたので、私はちょっと嬉しくなって“おまえ”って返しておいた。
私はお抹茶を立てるのが好きで、あんこを練るのが得意。ウタちゃんは、洋菓子の素材を自分でなんでも精製するし、そのための勉強を熱心に積んできた。目の色も、文化も全然違うけど、お菓子が大好きな気持ちと、まだ見ぬ美味しいものに出会いたい好奇心はぴったりお揃い。それはきっと、このレシピを残した、遠い昔の見知らぬ誰かも。
「......あのさ」
「うん?」
「今度、図書館の整理一緒にしない?時々ね、見たこともない古いお菓子作りの本が埋まってるの。ウタちゃんが、もしよかったらなんだけど、仕事の合間にでも...」
「わあ、宝探しみたい!!やるやる!!」
ふと、不思議な感覚に陥る。
今度は何を作ろうか、大喜びのもとにお鍋の横でめくった例の古いレシピが、なんだか自然とページを導いて、自分から開いたような気がしたのだ。まるで、私たちがお友達になれたことを喜んでくれるかのように、そして、この本もまた、私たちのお喋りに加わりたがっているかのように。
ウタちゃんと遊ぶ約束に夢中になっていた私は、特にそれ以上気にすることはなかったけれど。まさか、この本がのちに私たちをとんでもないひと騒動に巻き込みにくるだなんて、この時は、思いもしなかった...。
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ウタちゃんとせみちゃんが出会って、運命の歯車が回り出した..!?
不思議な力のフラグが立ちました。
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