初めまして「ハスタと空蝉」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「ハスタと空蝉」
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私は、今とてつもなく困っている。
聞いてない...私の推しが、この次元に存在していただなんて。
用事を思い出したと無理やり部屋に駆け込んで、一人深呼吸をし、大事なコレクションの中からブロマイドを取り出した。動悸は治るどころか、酷くなる一方。
「ああ、バン・ブラック様...!!」
説明しよう、バン・ブラック様とは!
数あるニチアサ燃え系番組の中でも歴代3位の人気を誇り、今もなお根強いファンを抱え続ける、“ガクギョー戦隊、バンカランジャー”の追加戦士である。
一匹狼属性、クールでありながらも時に熱く義理堅く、ヒーロー達に“本当の正義とは!?学ぶ心の大切さとは何か!?“と、物語の芯ともいえるテーマを突きつける、謎多きお方なのだが。実は最終回で、その正体が学園の生徒である主人公達を日々見守る担任の先生であり、男装の麗人であったことが明かされる。
ひと目見て私は、言葉を失ってしまった。あのスパナ捌き、額の汗を指先でさっと弾くように拭う仕草、ハスタと名乗って現れたこの人は、全てがあまりにも似ていたのだ、彼女、いえ、バン・ブラック様に。もはや生写しの域であり、とてもじゃないが目を合わせることが困難だ。
そもそも、ブラック様は変装がお得意であるからして、もしこの世に実在したのなら、ワンチャン何かの間違いで秘密結社に組した可能性だって捨てきれない。だって秘密結社と任侠が空を飛んでカフェなんかやっているんだから、秘密の戦隊組織が実在したってなんの意外性もない。
私は、いよいよブロマイドにも落とせなくなった、やり場のない視線を壁に彷徨わせ、はっと息を飲んだ。どうしよう、カレンダーによれば、明日は早速お掃除当番が私と彼女である。正体を確かめなければ。さりげなく、変身アイテムを見せてみようか。いや、会話の中にしれっと名台詞を紛れ込ませるか?考えただけで呼吸が忙しい。
「......せみみん、戦う乙女は逃げてはだめ、覚悟を決めるのだ......!!」
ベッドから見る天井が、やけに高く見える。この胸の高鳴りは、絶対に誰にもバレてはならないと、私は枕を抱きしめて、もう一度だけ大きく深呼吸した。
「絶対、確かめてみせるんだから...!!」
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果たして彼女は本当にバン・ブラック様!?きゅんが止まらない、疑惑の目線がハスちゃんに刺さる...!!
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