楽しみは旅となって
きただにひろし ・アニメ・ONE PIECE
楽しみは旅となって
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「はぁー!あっついわぁ…そもそも海を超えてまで遠くに出るなんて初めてだわ。何がどこにあるなんて知らないからプランの立てようもないわね…」
ヤミィはジーグとの相部屋に着くと、早々に自分のベッドを決め、いそいそと日焼け止めを塗りたくってスキップしながら、いつまでもブツブツと独り言を言いながら荷解きをするジーグを置いて部屋を出た。約束の場所でジーグを待っていたヤミィはポツリと呟いた。知った土地ならまだ動きようがあるが、下手に動いたら街を離れてしまいそうだ。店もどこにあるのやら…。
「相変わらず文句の多いやつだなぁ…。これ…」
ヒヤリとした感触がヤミィの肌に触れる。驚いて振り向くと冷たく冷えた飲み物を差し出すジーグが立っていた。
「椰子の実の酒がここの名産なんだと。バドンに来たら呑まないと勿体ない…そうだ。ああ、ここはフルーツの名産地なんだぞ。アラタが好きなフルーツは花祭で振舞ったジュースにも入ってたんだ。あれはなかなか美味い」
ポカンとした顔でジーグを見つめるヤミィ。ジーグは続ける。
「この島は魔道システムを特有のリズムとステップで体現して起動させる独自の技術を持ってるんだ。だから、楽器や踊り子の服は世界樹じゃまだ未開発のテクノロジーが詰まってる…それもしっかり勉強しないとな!武器屋は平和な島国だから1軒しかないらしいが、後で行ってみようと思う…ああ、そうだ!島民がよく利用するビーチが近くにあるんだと。そこも行ってみようぜ」
「…え?詳し…」
「船員や宿の従業員に聞き回ったからな…!」
無表情だがどことなく自慢げな雰囲気と、気だるげな目の奥のワクワクした光。…なによ、誰よりもはしゃいでる癖に、カッコつけなんだから。ふふっとヤミィが笑った。
「えー!うっそー!!面白そうなところ盛り沢山じゃない!?時間が惜しいわぁ!私、我儘なの!旅行で悔いを残すのは、アイライン失敗した時以上に気分が悪くなるのよね。さ!私を楽しませなさい!?エスコートよろしく!」
偉そうに…!と顔を顰めたが、早く見て回りたい気持ちは抑えられない。ふんぞり返って差し出されたヤミィの手を引いた。
ジーグの大本命アラタと姉の家に行く前に、きゃあきゃあとあちらこちらに興味を示してはフラフラする相方に引っ張られ、バドン島観光へ。ヤミィの目測は当たっていたようだ。以前のジーグならば眉間にシワを寄せて首根っこを掴んででも目的地に行っただろう。しかし、小さなため息を漏らすが楽しそうに後をつけては、得た知識を披露する。ここの店は島で人気なんだ…この先にお前が好きそうな店がある…。感情で動くヤミィは船の帆、2人の旅の動力に。理論で動くジーグは船の地図、楽しい道筋の案内役に。最初は真逆の相手を疎ましく思っていたが、今となってはパズルのピースのようにピタリと互いを補っている。ジーグが手に入れた島の情報、宝の地図はヤミィの好奇心で紐解かれる。ああ!これが見たかったんだよ!ジーグの今日の口癖となっていた。ハズレもあったが楽しい観光。
「どうよ!私が相棒で正解でしょー?素直に認めて褒め讃えなさぁい!?」
いつものノリでおちょくるヤミィ。片目を開けて怒るジーグの顔を見てやろうと思ったが…。
「ああ…本当だな…楽しい。武器作り以外でここまで心踊ったのはいつぶりだろう」
ぽっかり浮かぶ白い雲を見上げ呟く様に答えた。
「アイツが居た時みたいに…いや、それ以上に…」
陽気な太陽に照らされ銃が笑うような、泣くような光を反射したのをヤミィは見た。
「…さ、次はジーグ、貴方の番よ。目的を果たしましょ?夢を叶えに来たのよね?」
街から少し離れた海辺の家。家と言うより祠のような趣の建物が見えた。常に笛や太鼓の音が鳴り響く。どうやらここがアラタの家のようだ。
「ハーウェ…あーー!!あん時のお客さん!!ねーちゃん!話してたあの…そうそう!来たよ!こっち来てくんないかなぁ!?」
返事がないが、会話は不思議と成り立っていた。暫くすると背が高くヘラヘラと笑うアラタと対象的に小柄で無表情な美女が出てきた。アラタと同じ褐色の肌。紫の目に黒の長髪は闇そのものだ。
「そそ、この人…え?うんうん。あー、ようこそおいでくださいましたー!ってねーちゃんが」
2人を出迎えた姉弟。姉は一言も発していないが、アラタがニコニコと話しだす。目の前で談笑までしだしたが、姉は笑うどころか無表情で一言も発することなくアラタを見つめているだけだ。傍から見てると人形と話している様だ…ジーグ達は暫く二人を見ていると、アラタは向き返った。
「あはは!そうだね、ねーちゃん。無視してごめんよぉお客さん!ねーちゃんこう見てえ凄く面白い人なんだ!…さぁて、トカゲのお客さん!ねーちゃんに用事なんだろ?見せてあげて」
依代銃を渡すと、紫の目が舐め回すように見つめ、アラタに目線を送る。アラタは即座に太鼓を叩き、姉は銃をトントンとリズムをつけて突く。そのままヤミィへと手渡した。打て、とジェスチャーする。戸惑いながらも憑神の名を唱えて引き金を引くと…
「きゃっ!」「嘘だろ!1発で!?」
火球が銃口から吹き出した。驚く3人、無表情の姉。ジーグは姉の肩を掴むと叫んだ。
「ど、どうやったんだ!?頼む、何でもする!その技術を教えて欲しい!!」
無反応の姉。暫くしてアラタに目を向けた。
「え?でもねーちゃん、それは…うーん、わかったよぉ。お二人さん、ねーちゃんはこの島の長、踊り子ランダなんだ…本来はランダ神に祈る為の存在なんだよね。その力を勝手に使うのは許されないんさ…」
その言葉に肩を落とすジーグとヤミィ。しかし、アラタは言葉を続けた。
「だから、自分の為に力を借りるならその持ち主であるランダ神にお伺いを立てなきゃなんさね。その為のお供え物、取りに行ってくんないかなぁ?」
アラタは二人に地図を手渡した。
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ランダへのお供え物を取りに行ってください。
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