それぞれの聖地
sumika
それぞれの聖地
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大きな体に小さな体。その2人をフラつかせる大きなカバンともっと大きな大きなリュック。ジリジリ照らす陽射しにやられながら用意された宿に着く。流石は生真面目な二人だ、疲れた体を休めることなく黙々と荷解きをし、互いの荷物の置き場を話し合いながらセッティング。…以前からここは2人の部屋だったのだろうか?と思わせるほど、宿の部屋は2人の色で飾られていた。
「ふぅ…もう夕方…ですね」
「…は!!今日は働かずに南国を楽しみましょうと言ったのに!!」
キラキラとオレンジに揺れる海を窓からにこやかに見つめるみりんと、約束を果たせない!と頭を抱えるフィー。悩んでいる間にも夜は近づく、こうしてはいられない!フィーはみりんの目の前に躍り出て、手をバタバタしながら必死に訴えた。
「あの、その…え、エスコート!エスコートです。覚えてますか?船から降りた時にお約束した!何をしましょう!何が楽しいこと…!?どんな事もお付き合いします!!」
程よい疲れと心洗われる風景にのほほんとするみりん。んーー…と考えた後、驚く程小さな声でもじもじと話し出した。こんな姿は初めて見る。
「…ほ、本当に何でもですね?ちょうど日も傾いて…見る人もいないですよね…今しかない…!」
心地いい海風、まばらな人影、漣の音、オレンジの海に…ビキニ姿のみりんと自分。嘘でしょ?は、恥ずかし!…人が疎らでよかった…フィーは思った。楽しいお出かけを約束したら、荷解きで時間を潰してしまい、残った時間で楽しい事を!といったら海に居る…脈絡も何も無い。
「あはは!フィー殿!!暑いですが海は気持ちいいですよ!!わ!波が足に!!…やぁ!」
打ち寄せる波をジャンプで避けるみりん。少し離れた浜辺に浮遊し、ぽかんとした顔で見つめるフィー。夕焼けの下、不思議とシュールな風景。
「1度海で泳いでみたかったのですよ!私は青龍のドラコン族、先祖は海から来たのだそうです!!わ!冷たい!!あははは!」
喋りながらもバシャバシャと海へと走っていく。腿まで海につけ、嬉しそうにはしゃぐ。いつもの軍人みりんとは思えない。開放的なビキニ姿、引き締まった肉体が見事に着こなしている。夕方の海の風景に幸せそうなビキニの美人…。わ、私ここに一緒に居ていいのかな。フィーは布を纏うようなふわっとしたビキニ姿。鍛えてる素敵な人の横でビキニ姿なんて…拷問だ…。ブツブツとこのフィクションの様な現実にふらついていると、バシャバシャと海から上がってきたみりんに腕を掴まれた。早くしないと夜になってしまいますよ!と半ば強引に海へと連れ込まれてしまった。
羽はビリビリと硬直し、生まれて初めての海を体験するフィー。みりんの腕に必死にしがみついてキョロキョロ辺りを見渡している。
「どうですか?フィー殿!気持ちいいでしょ!?」
「あああ!足が着いてないです!絶対に離さないでくださいね!本当に!お願い!!」
笑うみりんと半泣きのフィー。みりんはフィーを背中におんぶして、首にしっかり捕まるように声をかけた。息を吸い込んで!と叫ぶと、ドボン!!海の中へと潜っていった。
頬っぺたを膨らませ、混乱しながらみりんにしがみつくフィー、みりんはトントンとフィーを突く。フィーは恐る恐る目を開くと…
(…わぁ!)
まるで空を飛んでいるようだった。美しい珊瑚や海藻の周りを色とりどりの魚が泳いでいる。まるで植物の周りを蝶が飛んでいて、それを上空から眺めるかのよう…。みりんはまるでアーマーンやマーメイドの如く力強く泳ぎ進める。冷たい水が肌を撫でる。本当に鳥になったかの様な感覚…大きな水龍に乗って海の探索。南国の温かな海、まるで異世界…まさにおとぎ話の中だ!幸せな時間…しかし、泳ぎに来た時間が遅かった。次第に暗く見にくくなる視界。漆黒の海底を見つめ、不意に無歌とマーメイドを思い出した。キュッと首に巻き付く腕に力が入る。
みりんはフィーの背中をぽんぽんと叩くと、闇から逃げるように陸へと泳ぎ出した。
「…ぷはっ!!はぁ…ふぅ…はぁーー!なんと素晴らしいのだろうか!海!!水泳の訓練も受けていますが、やはり海は格別でしたな!私の憧れ…初めての海に付き合ってくださって感謝します」
「…ぱっ!はぁはぁ…ひぃ…い、いえいえ。私だったら絶対に泳ぐなんて選択はしなかったので…むしろありがとうございました。…そっか、みりんさんの種族は海から来たんですね」
フィーは髪をきゅっと絞りながら海を見つめる。
「フェアリー族の聖地と同じですね…!世界に広がる海全てが、みりんさんの聖地なんですね」
その言葉がなんだか凄く嬉しかった。月が輝き出した海辺の二人、静かにみりんはフィーを抱きしめた。真っ赤なフィーに微笑むみりん。
「普段の我々を知っていたら、水着姿で遊んでるなんて驚かれるでしょうな!フィー殿の誘い通り、普段の自分を忘れて楽しめました。さ、体を洗って宿に戻りましょう」
水場に向かい歩き出すみりんの背中。フィーは自分で意識するより早く声を発した。
「待って!みりん!…さん…あ、あれ?」
「ん?なんです?」
「へ?あ!いや!あの!そのぉ!!」
『食事が終わったら夜の散歩でもどうですか?』
「…へ??」
「あはは!フィー殿も同じ事を考えてたなんて嬉しいですな!じゃあ、約束ですよ」
綺麗にハモった2人の誘い。真っ青な月の海辺に、真っ赤なフェアリーが1人浮かんでいた。
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夕食後、2人で出かけてください。
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