夜明けと蛍
エリオット&ルピナス
夜明けと蛍
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「お夕食のスープよ。熱いから気を付けて」
「まぁルピナスさんありがとう」
ルピナスがそっとスープ皿を手渡すと
母親はベッドから身を起こし、微笑んだ。
エリオットはその様子を
部屋の隅に所在なげに佇みながら見ていた。
「エリオットはもう夕飯は食べたの?」
「うん。だから母さんは気にせずに食べて」
「そう………」
何か言いたげに母親は顔を曇らせたが、
そのまま無言でスープに口をつけた。
ルピナスの作るスープは
野菜が沢山入っていてとても栄養がある。
口に運ばれていくそのスープが
少しでも母親の体を丈夫にしてくれればと
エリオットは念じるように見つめた。
ルピナスはそんな二人を交互に眺めたあと
そっとエリオットに声をかけた。
「ねぇ、エリオ少しお散歩しましょう?」
エリオットの家は時計塔のある都市の
少し郊外に位置している。
森に囲まれたこの辺りは星も綺麗に見える。
「とても星空が綺麗。
前の時計塔も素敵だったけれど
エリオの家も家族の皆もあたたかくて…
とても気に入ったわ」
「うん……」
「…ねぇ、エリオ、お母様はもう大丈夫って
お医者様も仰ってたわ。
美味しいものを食べれば
また前みたいに元気になるはずよ」
「うん……」
「エリオ……」
ルピナスはエリオットの手を引いて、
手頃な倒木を見つけると並んで腰掛けた。
「ごめん、ルピィ」
「いいのよ謝らないで」
「時々とても不安になるんだ…
また前にみたいに母さんが倒れて
家族がバラバラになるんじゃないかって」
エリオットは不安そうに呟くと
足をぶらぶらと揺らす。
「どうしてこんな気持ちになるんだろう?
全て良くなってるはずなのに…
こんな風に俯いてるのは良くないよね、
母さんたちにも心配をかけてる…」
「まぁ、エリオ…そうだったのね」
ルピナスがそっと抱きしめた肩はまだ細く。
13歳の少年相応のものだった。
その肩にどんな重い物を背負ってきたのか。
そう思うだけでルピナスの胸は
言葉にできない気持ちでいっぱいになった。
「エリオはとても頑張り屋さんよね。
でも貴方はまだ子供なんだから
たまには誰かを頼ってもいいのよ。
もしエリオが辛くなってしまったら、
俯いても、立ち止ってもいいの。
私がエリオの手を引くから大丈夫!」
そっとエリオットの目を覗き込む
「……きっとその為に私は
エリオの歌乙女になったんだわ!」
ハッとエリオットが息を飲む音が聞こえた。
「きっとエリオは素敵なおじいさんになるわ。
その時までずっとずっとエリオには
幸せでいてほしい…その為にそばに居るわ」
「うん、うん、ありがとう。
僕もルピナスと一緒に居たいよ…
僕だけじゃなくて、ルピナスも!
ルピナスもきっと幸せになれるように!」
その瞬間、空がさぁっと白く輝いた。
オーロラのように光のカーテンが空を満たす。
「な、何だろう?見たことない光だ…」
「まさか、『輝く星の夜』…?」
『輝く星の夜』
どんな願い事も叶えてくれる魔法の夜。
美しい心を持った者だけに降り注ぐ願いの星。
しかしそれがどんな夜か誰も知らない。
「本当に存在したのね!なんて綺麗な光……」
そうルピナスがうっとりと呟くと。
光の帯は空を銀色に美しく染め上げて──
ルピナスは目が覚ました。
窓の外からは登りだした薄い朝日が
隣のベッドで健やかに眠るエリオットの
顔を照らし出していた。
「……夢、だったのかしら?」
ベッドから抜け出し辺りを見回すと
枕元のサイドテーブルに微かな違和感を感じた。
そこに置かれていたのは、
目覚める時にエリオットに貰った
宝物の銀色のティースプーン。
そこに飾られたオパール飾りに寄り添うように
柔らかな白い光がもう一つ輝いていた。
「夢、じゃないのね…!あぁ…どうしましょう
朝早いし起こすのは可哀想かしら…?
こんなに素敵なことがあったのに、
今すぐエリオと話せないなんて…!」
いつしか夜は明けて。
光が眠る幼子の顔を優しく照らし出す。
むずがりながら目を覚ます気配に
ルピナスは愛おしそうに微笑むと
待ち遠しそうにその頭をそっと撫でたのだった。
#EQCENTRIEQUE #エリオット #ルピナス
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淡い月に見とれてしまうから
暗い足元も見えずに
転んだことに気がつけないまま
遠い夜の星がにじむ
したいことが見つけられないから
急いだ振り うつむくまま
転んだ後に笑われてるのも
気づかない振りをするのだ
形のない歌で朝を描いたまま
浅い浅い夏の向こうに
冷たくない君の手のひらが見えた
淡い空 明けの蛍
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