絆に賭けて
sana / HoneyWorks
絆に賭けて
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「!!…やっぱり…そうだったんだ…」
そこは危ないと助言したみりんの言葉に、シノは目を見開いて俯きながらブツブツと独り言を言い出した。思いもよらない反応に、みりんは目を丸くしてシノを見つめる。
「…は!ああ!!すいません!実は…」
新たな髪飾りとスティックペンのお陰で、魔法の精度は格段に上がった。それがシノには面白いらしく、休み時間に地図を広げては周囲の魔力探索をしていたそうだ。しかし、ある日…
「この近くの比較的安全な森に、最近妙な魔力の塊を感知するようになって…でも、理事会からも軍からも報告は無いのです。ニフ先輩からも何も言われないし…ちょうど近くの集落に理事会からのお使いを頼まれたので、よってみようと思いまして」
…たしかにあの森には最近妙な事がある…肌が酷く爛れて帰ってくる者が時折いたのだ。その森には漆の木が密集している地帯があるため、被れてしまったのだろうと軽視されていたのだが…
「なら、尚の事一人では危険です。護衛します」
シノは丁寧に礼をすると、二人は並んでキリエを旅立った。
雨の晴れ間、小鳥が歌い蝶が舞い、草はキラキラと輝く。出会うのは小動物ばかり…世界樹の森より遥かに安全なフィールド。疑うわけではないが、本当に魔力の塊などあるのだろうか?やはり漆に被れただけ…?シノもスティックを四方八方に振り回すが、収穫はないようだ。
「…シノ殿、やはり漆の仕業なのかもしれませんね。場所は把握しています。避けて通れば安全です。ご案内しましょう!」
「いや…確かにそうなのかもしれないのですが…」
シノが困惑しながら答えた。
「さっきからごく微量の魔導の流れが…魔導の流れはどこにでもあるんですが…不自然なんです。私たちの後を追うような…纏わりつくような…」
辺りを警戒するが、やはり日の当たる長閑な森の風景が広がるばかり。花が咲き、虫が蜜を啜っている。
「たまたまなのかもしれないですよ?これでも殺気は直ぐに感じ取る訓練をしています。…けれど、そんな気配もないですし…」
「そ、そんな!嘘なんて言ってません!」
「いや、嘘だなんて言っていません!」
ハッとする2人…そんなつもりはなかったのに、自分の意見を通そうと躍起になり、口論になりかけていた。各々が反省して黙り込む。気まずい空気を最初に壊したのはみりんだった。
「私とした事が…!兵が依頼主の意向に楯突くなど以ての外!シノ殿…どうか許してください!」
「私の方こそ…!昔から頑固なところがあって…治そうって思っていたのに…ごめんなさい!」
みりんは力強く微笑んでシノに手を差し伸べた。
「私はシノさんを信じます!どうかご指示を!!」
目の前の忠実なナイトに励まされ、シノはその手を取った。そして、ある指示をみりんに告げた。
「原子の乳海、始まりの龍よ!命芽吹く前の世界をここに示せ!リヴァイアサン!」
強く自我を保ちながら、注意深く憑神と心を通わせる。すると、みりんの角はバキバキと凍り出した。凍てつく空気が渦を巻いて周囲の熱を殺していく。様々な生き物が逃げ出す中…
「なんだ!此奴らは…!??やめ…!魔力が…吸われ…ああああ!」
どこからとも無く大量の蝶が黒雲となってみりんに群がった。
「これは…吸魔蝶!!?」
この森に繁殖した蝶こそがシノが掴んだ魔力の塊の正体だった。突如現れて消える塊は、獲物を見つけて群がったそれであった。しかし、常人の魔力では、当人が襲われた事に気づかない程度の群れしか出来なかった。故に報告がなされなかったのだ。みりんが殺気を感じられなかったのも無理はない。
「やめ…ぬぅ!」
剣を振り回し魔法を放つが、体にピタリとまとわりつく虫の群れ、流石のみりんも危険な状態だ。戦闘に全く慣れていないシノはオドオドとするばかり。そんな彼女にみりんの指示が飛んだ。
「シノ…!攻撃を!私を…水没させて…!!」
一瞬何を言っているのか分からなかった。みりんはシノに、自分を攻撃しろと言ってきている。
「そんな事…わ、わ、わた…し…でき…ない」
「出来る!シノ殿は強い!私を信じろ!!」
ついさっきまで力強い微笑みを向けてくれたみりん。私も、その思いに向き合いたい…!
「泉は溢れ、溢れ、揺蕩う。無から有を生み出す知恵のように。トート!包め、沈め、塞げ!!」
シノが向けたスティックから大量の水がみりんを包み、大きな水滴の中に閉じ込めた。苦しそうに泡を吐くみりん。…しかし…
「リ…リヴァイアサァァァン!!!」
水滴は瞬く間に巨大な氷山と化した。それをとてつもない力で砕く。蝶を取り込んだ氷は、内包物諸共、粉々に消し飛んだ。
「みりんさん!!」
シノは泣きながらみりんに飛びついた。よろけながらも、シノの頭を撫でるみりん。
「まさかこんな驚異を見過ごすとは…本当に感謝します。お怪我はありませんか?」
シノは潤んだ目で、何度も何度も頷いた。
その後、シノの本来の目的地である集落にて治療をうけ、2人は無事に帰った。今後、あの森で肌が爛れて帰るものは居なくなった。
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力を合わせて、隠れた驚異を打ち破りました。
(みりんの傭兵 売上1)
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