最愛の御元よりの使者
Superfly
最愛の御元よりの使者
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正直知らない、このやり取りは何であるかを。さとらの小さな小さな手紙を大切にしまい込んだ肩掛け鞄を撫でながらキリエを出ていったみりん。
「とは言え、あのご様子…察しはつくのだけれどな…ああ、いかん。無駄な詮索は野暮だ!みりんよ、この重要任務命にかえても遂行するのだ!」
自分に対する叱咤が駄々漏れであった。これほど大きな独り言、キリエの中だったら何人の通行人に振り向かれただろうか。木々が少なくなり草もまばらになってきた道すがら、襲ってきた大蠍を瞬殺して軽やかに進む。…ラブレターの返事を届けるアヴァロン最強軍師…ロマンチックなのが、異様な取り合わせで薄れている気もしなくない…またみりんに襲いかかる影、レイピアを振り回し、歩みを止めずに進む。後ろには何人もの盗賊が失神して倒れていた。
「険しい道をまた遙々と…本当にありがとうございます。どうぞこちらへ。出張所で一番涼しい席です。今飲み物をお持ちしますね」
到着したみりんを、凛とした褐色色の好青年が優しい笑顔と穏やかな声で出迎えた。ターバンから見える漆黒の髪が、彼の品をさらに強く演出する。…思ってはいけない。思ってはいけないのだけれども…
「キリエのニフ殿より安心感がある…」
「あはは、それは誉めすぎと言うものです。彼女は僕なんかより大分先輩ですよ。最近街として理事会の加盟を認定されたものですから、僕もまだ理事会員としては新参者なんです」
聞かれてしまったか!みりんは真っ赤になって口を押さえた。その姿を見てまた笑う理事会員。穏やかな時間、美女として人気のさとらの心をつかんだ理由が、何となくわかる気もした。
「…失礼しました。今回はどのようなご用件で?キリエには大きな借りができました。恩人のみりんさんには、全力でお答えいたしましょう」
手をゆっくり広げ、まっすぐにみりんを見つめて用件を聞いた。…ああ、そうか。また軍の指令で訪れているのだと思われていたのか。以前にもらったヴァサのドライフルーツが美味しく、日持ちもするので、何個か買い占めておこうと訪れていたのだ。そして、軍や理事会の依頼よりもっと重要な任務を遂行せねば…
「なんと。お忘れとは言わせませんよ?帰り際に頼んだ大きな責務を…」
軍師の瞳がギラリと光る。迫力にたじろぎながら考える理事会員。その顔がみるみる赤く崩れていく。
「ま、まさか…あれは…答えがないのが答えなのに、まだ想いがあるかもなんて欲が出てしまったのです…勿論、お願いを忘れた事などありません…あの後、何度も後悔しました。きっと未練がましい手紙をもらって、さとらさんはさぞ迷惑だったでしょう。みりんさんにもご足労をお掛けしてしまった…なんとお二人にお詫びしてよいやら」
「やはり恋文だったのですか!そんな大事なものを私に託したのですね!とは言え、キリエと砂漠の街は幾分離れている…その理事会員と呪詛屋のお二人が何故お知り合いなのですか?」
一見繋がりの見えない美男美女のカップル、ついみりんは訪ねてしまったが、理事会員は穏やかに赤らんだ顔で微笑んで語りだした。雨の呪詛の事、毎晩飲み物を差し入れてくれた少女の事、別れ際に言われた未熟な告白…
「その後に理事会員となるべく猛勉強して、街の運営に尽力していますが、片時もさとらさんを想わない時はありません…ん?みりんさん、胸を押さえてどうされたのですか?」
「…いや、軍に此の身を捧げてきた自分には、あまりに眩しすぎる話に動揺しただけですので、どうぞお構い無く」
っく!と顔を背けて小声で答えた。ふっと振り替えると、どこか悲しげに微笑んでいた。…自分は確かに縁談話があったり、戦場の青薔薇といわれ言い寄られることもあったが、彼らのような特定の相手と恋心を繋いでいくような体験はあまりしてない。だから、思うことは間違っているのかもしれない。自信もない、けれども…答えを見る前から諦めている彼や、彼に戸惑い手を伸ばすのを躊躇う彼女も…
「何故自分の望みがはっきりわかってるのに、わざわざ避けるのです?さとらさんは何度も悩んで、やっと答えを託してくれました。私がここに来た時、何よりもそれが一番聞きたかったのでは?照れていないで…受け取ってください。最愛の人からの、言葉の花束を…」
手紙を広げた彼は嬉しそうな泣き出しそうな表情を浮かべ、胸を押さえて苦しそうだった。
「大事な花束をありがとう…近々キリエに訪れます」
みりんも穏やかで優しい笑顔で彼を見据えた。
「承知しました。その旨、呪詛屋に伝えておきます。…ああ、これも何かの縁です、お名前を教えてくれませんか?」
「ああ!街の恩人に自己紹介もしていなかったとは、とんだ無礼を。僕は…」
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砂漠の理事会員がキリエを訪れる事になりました。
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