🍓派手でなければ祭りにあらず

Carole King Little Eva

普段から華やかな出で立ちのヤミィ。今日は輪をかけて派手である。顔には黒々としたサングラスがギラりと光る。 ｢ご依頼ありがとう…私が来たから安心なさい！メイクだろうが服だろうが、私の前では自己表現の1つ。美の伝道師にお任せよ！精霊どころか神々が着たがるようなドレスに仕上げてあげるわ｣ 火鼠の毛皮がゴージャスさを際立たせる。片手でサングラスをずらすと、パチリとウィンクした。そのド派手さに負けぬ大きな自信に、疲労困憊のさとらは突っ込む事も出来ず白い目を送り続ける。ゴロゴロ…2人の間に妙な物音が響き、ヤミィは怪訝そうに音のする方に顔を向けた。するとジュースを作るあの容器を外に出そうと、憔悴しきったニフが転がしながら外に出るところだった。 ｢…ねぇ、なにあれ｣ ｢お祭りに配るフルーツジュースを作る装置よ。果物を詰め込んでめいいっぱい転がすの｣ なにそれ…小声で口走るヤミィ。どうせ汗だくになる肉体労働、ヤミィには興味もないだろう。さとらは早速桜布の衣装室へと案内しようとした。 ｢なにそれ！ねぇえ！なんでそんな面白そうなのあるって教えてくれないのよ！！どうやって作るのかしら！？いいじゃない、街中転がしてお祭りをアピールするわよ！！｣ 思わず目が点になるさとらを他所に、バシッとキメたデザイナースタイルを脱ぎ去り腕捲りしながら、あの大きさなら1人は大変そうよね…従業員ちゃん呼ぼうかしら…とブツブツ1人作戦会議を呟き部屋を出ていってしまった。 ｢………ぇーーーー……｣ 困惑と驚愕と孤独と…複雑すぎて言葉にならない声が、1人部屋に残されたさとらの口から漏れた。 ｢さ！皆着替えなさい！会議は一時中止！！サロン一同祭りに貢献するわよぉ！｣ 今日はサロンを閉めて、年に2回の全体会議の日であった。全従業員が自分のコスメサンプルやプラン表を持ちながら集まった最中、高らかにヤミィの中止宣言がなされた。ポカンとする新人、あぁいつもの…と察する中堅、頭を抱える幹部たち。副長の顔たるや…一同は凍り付いた。 ｢今日は年に2回の定例会よ！責任者として、これがどれだけ大事なことかお分かりでしょう！｣ ｢勿論…皆、動きやすくてもオシャレな格好で来て。そして今日プレゼンするはずだったコスメでメイクプランを自分に施してらっしゃい。花祭の出し物の準備なんて最高の宣伝になるわ、野次馬も来るでしょう。そこで最も注目されたメイクを採用して、後で会議しましょう｣ 斬新だが的を得た提案、皆がハッとする。 ｢店の関係者が狭いところで集まって話してもたかが知れてるわ。メイクは見てもらってこそよ｣ 皆がヤミィのカリスマ性に感心し、各々準備に取り掛かった。しかし猫の目だけは、したり顔のヤミィを見逃さなかったが…。 1時間後、軽やかでありながらも華やかな集団が出張所の前でニフから説明を受けていた。 ｢この容器の中には各国の旬のフルーツが詰まっています。この容器を沢山転がす事により、装置が稼働して果汁と固形物を分離していきます。つまり、沢山回すほどよく絞れた美味しいミックスジュースになる訳です。場所はここの近くの広場をお借りしてるので…｣ ｢説明ありがとう！さっき決めた布陣で動くわよ！チラシ班、宣伝班は列の外で目立つように。裏方と男性陣は2班に別れて列の中央へ！しっかり働くのよ！！いざ、商店街大通りへ♡｣ ｢あ、え！？宣伝？チラシ！？？…ど、どこへ行くんです！？そっちは商店街へ向かう道です！｣ 慌てふためくニフの肩をガっと掴んで自分の方に向けると、ヤミィは慈愛に満ち満ちた顔で、全てお任せなさい…と微笑み、スキップしながら列へと消えていった。そこに先程のさとらと寸分変わらぬ反応のニフが佇んでいた。 作戦は幸をそうした…と言うよりは、最早新たなイベントと化していた。新しいメイクを施したサロン従業員に男女問わず興味津々だ。さらに見たことも無い巨大なジューサーがゴロゴロと人の手で押されて転がる様は、子供の目を引いた。後ろでは紙吹雪のようにチラシが巻かれ、宣伝班が新作コスメを思い思いに説明する。時折、ヤミィのウィンクや副長の流し目で割れんばかりの黄色い悲鳴が轟いた。 その後ろを、魂が抜けたさとらとニフが見守っていた… ｢…どうしよう…許可…取ってないのに…｣ ｢諦めなさい、ニフ…。ヤミィは1度火がついちゃうと世界樹が立ちはだかったってへし折るわ…このままジュースが出来れば良しと切り替えるのよ…｣ ｢キリエのメイクサロンと花祭！皆様ぁ、よろしく頼むわぁ！！｣ 花祭と…じゃないんかい。2人は心の底で突っ込んだ。 ‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇ ド派手なスタートを切りました。