百花一身
まふまふ
百花一身
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「こう!?こうかしらぁ!!」
「不!腰の入りが浅いネ!もと靭やかにヨー」
サロンに飛び交うヤミィの声と今日は妙に厳しいメアリの声、そして後から追いかける副長のため息。ヤミィが不慣れな大扇子を手が吊りそうになりながら必死に握りしめている…
時間は数分前に遡る。メイクモデル募集のチラシにスキップしながらメアリはサロンを訪れた。
「哎呀!ずとずとここ来たかったヨー!ヤミィさんもお客さんもとても綺麗ネ。私も綺麗にして欲しくて来たヨー!!」
「ずっとずっと私も待ってたの!いつか訪れようと思ったけど、先生の方から来てくださったわ!」
先生…?なんの事だ?そしてヤミィのその格好…従業員が皆それぞれにオシャレに着飾っている中で一人、髪を一つに束ねてジャージのようなダボッとして動きやすそうな服装のヤミィが真剣な眼差しでメアリを迎えた。…あれ?ここはサロンだよな…メアリは混乱の中不安に陥る。
「嬉しいネ!私のショー見てくれて、教わりたいと思ってくれた。その気持ちとても分かるヨー」
ヤミィの話を聞き、レッスンを終えたメアリは嬉しそうに微笑んだ。
「衣装に音楽、舞…い!ぶ!ん!か!!もうノスタルジックよ!まだまだ私も勉強不足ね!美しさは無限の広がりなのよ!!ああ、満喫したいわ!旅に出るわよ!!」
「現実に戻ってください?サロン長。貴方に付き合ってメアリさんまだ何にもしてないんだから」
冷たーい副長の声が後ろから響く。ちぇーと口を尖らせるとサロンのバックヤードに姿を消し、いつもの洗練された姿のヤミィがパッチテストデッキとカルテを抱え出てきた。幼い頃は大人の世界だったし、嘉嘉ではショーメイクしか学べなかった…ついに憧れのサロンで自分だけのメイク…サラサラとカルテに文字を書き込む音が鳴る度、メアリの心は春に膨らむ蕾のように揺れるのだった。
「うん、うん…分かったわ。完成したら呼ぶわね…。ねぇ、また舞を教えて欲しいの!私気に入ってる演目があるのよ。どうしても覚えたくて」
「ならメアリの家来ると良いヨ!古い家だけどお庭あるからそこなら沢山動けるネ」
「…小うるさい猫の目もないしね…」
後ろからギリリッと凍り付くような視線が刺している気がしたが、振り返る前にヤミィに先導されサロンを出ていった。
楽しみができた日々、待ちわびる事のなんと楽しい事か。朝、庭の植物たちに水を撒きつつ、昨日のショーに来てくれた例の獣人を思い出す。メアリがお化粧して会ったらなんて言うかな…想像もつかないのにニマニマしてしまう。
「あらぁん?楽しそうね、先生」
「哇ーーーー!!!」
突然の到来にジョウロをぶん投げてしまった。赤く光出す顔にヤミィは何かを察し、春は花の時期ねぇ…とニヤニヤ茶化した。
「それにしてもなんて素敵な家なの?もっと早く呼んで欲しかったわ…ああ、やっぱり正解ね」
正解?話が読めずにいると、ヤミィはすまなそうにメアリを見た。
「実はメイクプランを決めてないのよ。…コスメは作ってあるんだけど、メイクする前にどうしても見たいものがあるの。ねぇ先生…お願い。私が一番好きな演目を舞って見せて。花を次々手から出しながら舞うあの踊り…」
「百花千葉の舞!メアリあれ好きヨ!待ってテ」
メアリは準備を終えると、嘉嘉の花が刺繍された衣装と芍薬の花束を抱えて出てきた。ザワリ…風に揺れ、庭が香り立つ。花束を巧みに持ち替え、様々な花の表情を見せる。最後にバッと花を視界いっぱいに散らしたかと思うと、いつの間にか両手には菫の柄が描かれた大扇子を握っていた。扇子がぐるり宙を走る度にどこからともなく菫が星屑のように舞い落ちる。ウットリ見惚れていると、次は牡丹を模した傘を大きく広げる。本当に目の前で牡丹が咲き誇っているかのような存在感。たった1人で桃源郷を生み出す…表現の偉大さに息を飲むばかり。
「素晴らしい、素晴らしいわ…拍手するのも忘れてたなんて…私ったら…」
「えへへー!他の花の舞もあて、その時で舞を組み合わせるんだヨ!一つ一つにとても幸せな意味があて、すごく奥深いネ!」
余韻がまだ抜けない。いや、この夢の中でメイクをしなければ。話したい気持ちを抑え、メアリを近くにあった座りやすそうな石に座らせると、外のままメイクを初めた。びっくりするメアリにウィンクし、今度は私の番よと囁く。
パチリと開いたメアリの目に、深紅のアイラインを一本スっと引き、少しだけ乗せられたハイライトは暗い場所でもライトを浴びている錯覚を起こさせる。唇に品の良い淡紅を薄く乗せ、色気を放つグロスでコーティング。幼さの中に、ハッとする程大人の雰囲気を醸し出した、不思議なメイク…あどけない咲きたての花の艶やかさがあった。
「属性は経験に依存…でも、メアリは属性から経験を活かしているのかもね。光と状態異常に相性が強く出たわ。ハイライトは聖地で取れた雲母の粉末が混ぜられているの。魔法の力に抵抗力を少し与えるわ。そして、アイラインとグロスは妖狐の光毛やモーショボーの血が使われてる。稀に相手の精神に侵食してテンプテーションを起こすの。魅了…まさに大人の色気よね」
元気印でいつも子供っぽく扱われるメアリはその言葉に目を丸くする。私が大人っぽいだって!?ヤミィはその反応にクスリと笑い、貴女はもう立派な華よ?と呟いた。
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自分の新しい魅力に気づきました。
(ヤミィのサロン 売上3)
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