#エスタシオン事務所
「あの場所を守るためなら、俺は何でもするよ。それで、夢眞が笑ってるなら、それでいい」
■子津 壱成:わかば
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ようやく二人で手に入れた場所だった。長い友人だから、何か残せるようなことがしたいねと夢眞がふと零した日から何年も経ってしまったけれど、アイドルとしてカプリコーンとして、様々な景色を見ることの出来る場所にまで上り詰めることが出来た。きっとこれから、もっと夢眞とたくさんの綺麗な光を見られるものだと思っていた。
「──病気です。皇様の身体は、ナルコレプシー病に侵されています」
元々夢眞はよく寝る方だった。それはもう学生時代からずっとそうだったから、いつものことだと慣れていた。けれど、ある日のライブのリハ中。突然夢眞がパフォーマンス中に事切れるように倒れたことがあった。慌ててマネージャーと病院に駆け込んだ俺は、医者から声を細めるようにそう告げられたのだ。
「ナルコレプシー…、って、治療方法は、」
「ありません。中枢神経を刺激する薬で多少の改善は見られるかもしれませんが…完治することは、おそらく」
「…ッ、」
「…今までのように仕事を続けることは困難かと思われます。残念ですが、歌手活動に関しては引退などをお考えいただいた方が賢明かと、」
目の前が真っ暗になるような心地だった。夢眞が願ったこと、一緒に見た景色、事務所の仲間、夢眞の病気。がらがらと目の前が崩れるような感覚を覚える。けど、一番やりきれないのは誰をも責めることなんて出来ないということだった。病気が全部悪い。ただ、病気を責めれば夢眞を責めることになる。俺は、唇を噛むことしか出来なかった。そして、もう一つ分かっていることがある。──アイドルを辞めれば、絶対に夢眞はそれを気にしてしまうってことを。
「壱成くん、」
「…カプリコーンは、辞めません。活動は少し減らして、今まで通り夢眞が行けそうな時だけライブとかCD収録しましょう」
「でもそれだと、不慮の事態が起こった時は…」
「俺が、全責任を取ります。…俺が、カプリコーンとして舞台にずっと立ち続けます。批判も文句も、全部俺が受け止めます。…そうじゃないと、夢眞の居場所が無くなっちゃうでしょ」
例え、鉄の雨に晒されようと。俺はカプリコーンの名を背負うしかない。夢眞が帰る場所を守っていなくちゃいけない。──それが、友人としての役目だから。
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