特殊部隊:零
作者:不明
特殊部隊:零
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ーー第四話ーー
地球政府の拠点となっている場所は遥か上空にあった。
地上から伸びるエレベーターに三人は案内され乗り込む。
どうやらエレベーター内に監視カメラはあるものの音声を聞き取れるような仕掛けはなかった。
【姫黒】は【リハク】に向かって話の続きをしようと試みる。だがリハクは【久遠】と話し込んでいて姫黒の入る隙はなかった。
「地球政府が私たちに何の話ですかね?」
「知るか。俺は言われた通りにしただけ。しかも見た限り一般市民のあの女まで地球政府の拠点に来させるとか何考えてんだ」
久遠の発言は最もだった。パラドクスと戦う地球政府の基地となる上空拠点になぜ一般市民の姫黒が呼ばれたのか。兄が警察官でパラドクスに殺されたからか?いや違う。そんな人間は山ほどいたはずだ。では何故?
「姫黒さん、亡くなられたお兄さんはパラドクスに殺されたと仰っていましたね」
リハクが言う。姫黒は腕を組みあぁ、と言った。
「お兄さんを殺したパラドクスに復讐心はありますか?」
リハクが言うと姫黒が鼻で笑う。
「あるわけないでしょ。兄貴に守られたパラドクスはそこに【たまたま通りかかった】異能力者に殺されたんだから」
リハクと久遠の目が丸くなる。何を驚いているのかと姫黒が疑問に思ったところでエレベーターが止まる。地球政府の上空拠点に到着したのだ。
エレベーターのドアが開き、リハクと久遠、そして最後に姫黒がエレベーターから降りた。姫黒の目の前に広がっていたのは複数のモニターと夜のように暗い部屋だった。
暗い部屋にモニターの光。これはかなり目に優しくない光景だった。
モニターの前に立つ人間がこちらに気づき振り向く。
「よく来てくれたね、リハクくん、久遠くん」
人間はニコッと笑って姫黒を見た。
「姫黒」
その人間は姫黒を呼び捨てにした。リハクと久遠が姫黒に振り返る。姫黒の顔を見た二人はわかっていたのだろうか。
姫黒が地球政府を取り纏める男の実の娘だということを。
「……なんでお前が」
姫黒が口を開く。男はニコッと笑い何も言わなかった。リハクと久遠が男に向き直り、訝しげに男を見る。
「…何故我々がここに呼ばれたのか聞いても?」
リハクが冷静に聞く。男はフッと笑って三人を順番に見た。
「パラドクスと戦うための戦力が欲しくてね」
久遠が嫌な顔をする。それを見た男が楽しそうに笑った。
「君たちにパラドクス殲滅部隊…通称、【特殊部隊:零】として活動してもらいたい」
リハクがお言葉ですがと優しい声音で言う。
「私と久遠にその話が来るのは納得出来ますが、姫黒さんまで巻き込むというのは納得出来ませんよ。……例え貴方の娘とはいえ、パラドクスと戦う未来が見えているのに未熟な彼女が役に立つとは到底思えません」
「そうですよ。なんの事情も知らないこの人にパラドクスと戦う決意や覚悟があるとは思えません。お兄さんが亡くなったのなら父親である貴方が真っ先に保護し守るべきでは?」
リハクと久遠が思っていること全てを男に言った。姫黒は俯いたまま一言も喋らなかった。
「リハクくんは気付いているだろうけど、一応言っておくね」
男が姫黒を指差す。嫌な予感がしたリハクが止めようとするが時既に遅かった。
「姫黒は異能力持ちだよ」
姫黒が顔をバッと上げ苦しそうに男を見た。
「違う!!!」
姫黒が両手で耳を塞いだ。違うと何度も否定してしゃがみこんでしまった。
リハクは姫黒の元へ小走りで近づきしゃがむ。そして優しく姫黒の背中に手を当てた。
「人に異能力があるとバラされて誰が喜ぶと思うんです!少しは人のプライバシーってものに…」
「違う!!私は異能力なんて持ってない!あんな忌々しい力を私が持つはずない!!兄貴を殺したあの力なんて!」
リハクがハッと姫黒を見る。姫黒はカタカタと震えていた。
「その子の能力は【烏兎】。中国で太陽と月のことを動物で表すと烏(カラス)と兎(うさぎ)なんだそうだ。まるで2つの能力が太陽と月に似ていたことから名付けられた」
男が構わずに話す。久遠は男を睨むと舌打ちをした。
「プライバシーの侵害で捕まって死ね」
「過激だねぇ」
男は呑気に言った。
「久遠、プライバシーの侵害で死ぬことなんてないぞ?」
リハクが冷静に言うとまた久遠が舌打ちをした。
「うるせぇ目玉。早くこいつ連れてここから降りるぞ」
久遠が姫黒の肩に手を回しゆっくりと立つ。そのままゆっくりエレベーターに向かうとエレベーターのドアが開いた。リハクは持ってきたカバンを手に持ち、エレベーターに入る。久遠がブツブツと、違う、と繰り返す姫黒をエレベーターに放り込み、自分も乗った。
エレベーターのドアが閉まり、エレベーターは下へと下がっていった。
ナンセンス文学 feat.特殊部隊:零
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