虹
ディアドラ&カサブランカ
虹
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ぱた、ぱた、ぱたと雨が傘を叩く音を、
ディアドラはぼんやりと聞いていた。
歩き慣れた家までの石畳は
雨に濡れ、黒曜石のように鈍く輝く。
右肩に感じるぬくもりがあれば
憂鬱な灰色の空など些細なことだった。
「ディアドラ、濡れていないかい?」
「大丈夫よ。ありがとう」
同じ1つの傘に入っている彼が
心配そうにそっと肩を抱き寄せる。
手の添えられた私の肩よりも、
彼の肩の方が雨に濡れてしまっているのに。
胸の奥が甘く疼くような愛しさに
ディアドラはそっとため息をついた。
「最近、毎日雨続きね」
「そうだね…青空とは暫くご無沙汰だ」
「早く晴れればいいのに」
そうしたら貴方の好物の野イチゴのジャムを
持って、ピクニックに行きましょう。
そういうと彼は嬉しそうに笑う。
私の作ったジャムが彼の一等お気に入りなのを
私は知っていた。
「でも、僕は雨の日も嫌いじゃないよ」
「あらそうなの?」
「そうさ、だって雨の日が…………」
彼の声が雨音にかき消される。
なに?何を言っているの?
彼の答えに耳をすまそうとして──
私は目を覚ました。
「…………何て夢」
ベッドから身を起こすと、
頬が濡れていることに気付きそっと拭う。
久しぶりに彼の夢を見た。
窓の外は鈍色の雲。雨は止みそうにない。
のろのろと身支度をして居間に向かうと
ディアドラの刺繍した白百合のドレスを着た
カサブランカが椅子に座っていた。
ただの居間が、彼女が優雅に座っているだけで
王家の一室のように見えるから不思議だ。
「ディア?おはよう、今日は…」
カサブランカは朝の挨拶を
不意に途切れさせると微かに眉をひそめた。
聡い彼女にばれてしまっただろうか。
少し赤くなってしまった目元を。
「少し遅れてしまったわね。朝食の用意を…」
「いえ、いいわ」
手のひらでディアドラを制すと、
そこに座っていなさいとソファを指す。
「でも………」
「いいから、そこで待っていて」
そして居間を出ていくと湯気たつポットと
温められた茶器と共に戻ってきた。
お湯の中でゆっくりと茶葉が開くと、
琥珀色のそれを静かにカップに注ぐ。
紅茶のお供には木イチゴのジャムを一すくい。
「わたくし手ずからお茶をいれるなんて、
そうそうないのよ。心して飲んでほしいわ」
「えっと、カサブランカ、これは…」
「暖かいものを飲むと心も暖かくなるの。
そういってたわ。前のマスターが」
「そう……。頂きます…」
カップに口をつけると、紅茶が喉を通り、
胸にゆっくりと温もりが広がっていく。
甘酸っぱい木イチゴの香り。
この酸っぱさが好きなんだよと語った
懐かしい優しい声を思い出す。
カップの紅茶の表面に映る自分の顔が
さざ波に飲まれてゆらゆらと揺れる。
ぽたりぽたりと瞳から溢れる雫のせいだ。
「……っ、あ…ありがとう、カサブランカ……」
「いいの。紅茶くらい……いくらでも淹れるわ」
しょっぱくなってしまった紅茶は
それでもとても優しい味がして。
そうして、ディアドラは思い出した。
彼はあの時何と言っていたのかを。
『だって雨の日が終われば、
虹が見えるかもしれないよディアドラ』
#EQCENTRIEQUE #ディアドラ #カサブランカ
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いつもそうよ。
拗ねるときみは。
私の大事な物を隠すでしょ。
その場所は決まって同じだから。
今日は先に行って待ってみるわ。
季節達が夕日を連れて来て
影が私をみつけて延びる…。
ビックリした顔で私をみつめては
急に口尖らせてプイっと外見るの。
ごめんね。と言うと
じゃあこっちに来てよと
ねぇ、ほら見て見て
影が重なった…。
【3/11 追記】
10拍手 誠にありがとうございます。
喪った愛を再度取り戻すディアドラと
カサブランカの物語を引き続きお楽しみ下さい
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