白を破る深緑
岡崎律子
白を破る深緑
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住民帳に不備がないか。来る春の帳簿確認の為に、下準備として少し早めにまわる。酷い寒の戻りがあったが、少しずつ微睡むように世界は春へと変貌する。
「…あれ?ここにいつもは居るのに…」
理事会保有のキリエ最大の植物園にニフは訪れていた。彼女はいつもここで忙しそうに飛び回っているのだが…
「あ!だめぇ!!」
声に驚いて振り返るがそこには誰もいない。
「んもぉ!下です!下!」
ニフは下を見やると、ガラス細工のような美しい蜻蛉の羽根を懸命に羽ばたかせたフィーが、藁の詰まった袋を引きずり飛んでいた。
フィー。彼女は今では珍しい生粋のフェアリーである。フェアリー種は沢山いるが、他の種族と交わり、人間の子供程の身長まで育つ者が多い。しかし彼女はフェアリーの本来の姿を留めており、人の肩に座れるほど小さく、正に妖精の姿そのものである。
「声掛けても皆さん私を探すんですもん!まったく!」
「ご、ごめんなさい…ところで、ダメってなにか私やりましたか?」
ニフがアワアワしながらフィーに問いかけると、フィーはニフの前まで袋を運び、雪で真っ白な地面に降り立つと周りの雪を優しい手つきでかき分けた。すると、目の冴えるような深緑が顔を表しだした。綺麗に掻き分け終わると、雪に埋もれぬよう上から丁寧に藁を被せた。
「このまま進んでたら、春呼びの花を踏むところでした」
作業が終わるとふーっと一息つき、藁の一面を見つめた。フェアリー特有の幼い顔に、母の様な慈愛に満ちた微笑みが宿る。ニフもまた、頼れる庭師のフィーと共に小さな春を愛でていたが…
「あ!そうそう、フィーさんを探してたんですよ!ちょっと住民帳に不備があって…」
羊皮紙と小さな小さな羽根ペンをフィーに手渡す。
「はい…フィーさん、フェアリー族の亜人。うん、うん…はい!これで大丈夫です!フィーさんの憑神は女夷。使える魔法は回復と状態異常、地の魔法ですね」
「あ、まだ時間ありますか?ニフさん!」
話を聞くと、まだまだ藁を敷かねばならない場所は山とあるらしい…大きな藁袋に降り立ち、ニコニコと微笑むフィー。あうあうと口から呻き声が漏れるニフ。今日は長い一日になりそうだ…
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フィー 亜人(フェアリー) 女性
女夷のカミツキ
データを保管致しました。ようこそ!キリエの商店街へ…
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