敵を知り己を知れば…
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敵を知り己を知れば…
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死んだ目でさとらを見上げるアグル。手にはコテと粘土が盛られたパレット。
「…やっとこ修復終わったのに…まだやんの?」
「戦い方教えてくれるって約束でしょ!?…て、何やってるの?アグル」
「壁壊したのニフにバレちまったんだよ。自分で直すか、罰金払えって言うんだもんさ!くそ…俺が何でもできる子だからよかったものの…」
ブツブツ言いながら後片付けを終えたアグル。煙草に火をつけてさとらに向き合う。
「モテる男は辛いね。…ルールは分かるよな?」
「勿論!寧ろ好都合。魔法禁止なんて、呪詛屋の腕がなるわ!!前回の貴方を見て、こんなの作ってみたの!見てくれる?」
そう言うと、ローブのスリットをヒラリとめくる。ブーツや足についたベルトに呪詛が上手くしまわれている。嬉しそうに語るさとらを見ると、攻撃系の呪詛に使うアクセサリーがあちらこちらで光っている。…コイツの策士としての能力を褒めたが、真の武器は強い好奇心と秘められた闘争心なのかもな。アグルは思った。家系で呪詛屋に収まっているが、道が違えばかなり運命が変わっていたのかもしれない。
「…ファッションショーは終わったかな?さて、どんな手を使ってもいいぜ?かかってこい」
アクアマリンのアミュレットを手で包み、祈るように組むと、周りから歌声が聞こえ出した。
「ウィンディーネ、心より感謝します。貴女の加護でこの地は枯れる事はありません」
「水の呪詛…しかもかなり高度だな。厄介だ」
「まず場を作る。貴方を見て学んだのよ」
人の戦い方をこんなにも早く吸収するとは…本当に裏に引きずり込みたくなる人材だとアグルは笑った。さとらはすかさず服の裏から呪詛の書かれた羊皮紙を取り出し湿った地面に捨て、呪詛具の角を取り出すと呪詛を発動させた。
「我らはケルピー。水に生き、住まう者。角なきこの地の侵略者を排除する者」
羊皮紙から馬の影が現れたかと思うと、水溜まりを伝ってアグルに襲いかかった。足元からまとわりつかれ、ギリギリと締め付けられながら身動きが取れなくなってしまった。
「怯んだ隙に攻撃。まー1回の戦いで良く学んだ事…こんなに飲み込み早い奴初めてだ。だがな…」
まだ自由の効く上半身を使い、隠し持っていたナイフを羊皮紙に向かい投げた。ナイフが刺さるとケルピーの影は瞬く間に消えてしまった。
「猿真似したって勝てやしねぇよ?…苦手な呪詛だが…ナタナエル、歯向かう者に報復を!秘事を焼き払え!」
羊皮紙に向かい十字を切り、ハーブの包みを焼いて投げ付けると、炎はまるで羊皮紙を食べる様に燃やした後、一直線にさとらを襲った。瞬時にピアスに着けた石を外して呪詛を展開したが、反撃の速度とアグルの使う系統が想定とズレていた為に対応しきれず、炎を浴びてしまった。
「お前は賢すぎて器用すぎる。それをよく分かっていてそこに胡座をかいてやがる。それでも良いだろうが、戦場はそうはいかね!」
ステップを踏み出したアグルは前回よりも更にスピードを増して襲いかかる。魔法禁止ルールがアグルの動きを更に自由にさせていた。詰め寄られる事も想定していた為、予めセットした地の呪詛のお陰で何とか持ちこたえているが、最早時間の問題…これまでか?アグルが鋭くさとらを見ると、足に手を伸ばし…笑っていた。
ジャキ!無機質な音が響くと共に、手には魔法銃が握られていた。先にあえて呪詛の隠し場所を見せる事で、銃から目を背けさせていたのだ。アグルの真似をするようにフィールドにウィンディーネを配置したのも全て…
「魔法銃は使えない系統の魔法の補助として使われるけど、弾を強化すれば威力はあるわ」
弾にアクアマリンをはめ込むと、場を湿地に変えていたウィンディーネ達が弾へと飛び込んできた。アグルは咄嗟に離れ、炎の呪詛を展開させようとしたが…
バン!……銃声が轟いた。
…恐る恐る目を開くアグル。痛みはない。さとらに目をやると、白い顔で酷く気まずそうな表情をしている。彼女の目線を追うとそこには…
「あーーーーー!!!!俺の半日!!!!」
直し終え、乾くのを待っていた壁に着弾し、ウィンディーネの四元魔法が容赦なく襲った。
「あの、ちが…んー…銃使うの初めてで…ね♡」
「ね♡じゃねぇ!!もう降参!!お前と戦ってると仕事増えるぅ!!」
髪を掻き乱してアグルは叫んだ。さとらは何度も平謝りしながら、一緒に壁を修復しだした。
「はー…お前って好戦的なのか、慎重なのかよく分からねぇな。銃も俺のスピードへの対策だったんだろ?腕はひでぇけど…確かに言えるのは、お前は既にスタイルを確立している。お前は徹底した策略家だ。策を練った上で相手を騙してくる。……綺麗な顔してんのになぁ…怖ぇ奴」
「褒めてるの?それとも貶してるのかしら?」
「プラスに捉えとけ…」
笑い声と煙草の煙がふわりと浮かんだ。
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白熱の戦い、お疲れ様でした。
「柘榴石」
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