--
語り手/ 台本/瑛
--
- 30
- 2
- 0
ーー忘れないように、私の後悔の話をさせて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
覚えてる。まだ、覚えてる。孫の私の名を呼ぶ声を、まだ覚えてる。
小さな頃は祖父がどうしても威厳のある怖い存在に思えてあんまり自分から近づけなかった。それでも少し遠い祖父母の家に行くたび笑顔で迎えてくれて。ちょっと怖いけれど好きだった。
二人きりで歩いたのは確か祖父母の家で飼ってる犬の散歩について行った時。昔のことで全然覚えてないけれど近所の家の人のこととか母のこととかその犬のこととか色々話してくれた気がする。その時犬の散歩の仕方も覚えたんだ。気をつけることも散歩の道も。
ずっと忙しくて、病気になったと知ってもう一度祖父母の家に行った。よく泊まった部屋の見慣れないベットの上に横たわる姿に怖くなった。それでも近づく私に一言。「元気にしてるか」って。頷く私に「勉強はどうだ」と続けて問う。久しぶり過ぎて思わず敬語になる私に少し微笑んで「もう行きなさい」と。そのあと救急車に乗せられて行ってしまった。病院に行っても、会えなかった。
学校にいる時、母から連絡が入る。祖父が亡くなった、と。私は思ってしまった。「あぁ、やっぱり」と。泣かなかった。泣けなかった。私は薄情な孫だ。本当は最後の会話も上手く覚えてない。確かそんなやり取りをした、という断片だけ。
貴方のことで覚えていることは少ない。孫の私を可愛がってくれたこと。三人いる孫のうち二人きりで歩いたのは私だけなこと。色々お話してくれたこと。約束したのに一緒に酒を交わせなかったこと。それと、私を呼ぶ声。
少しずつ消えていく声の記憶に、まだ覚えているからこそ伝えたいんだ。最後にすら言えなかった言葉。いなくなったことに少しの涙も出せなかった薄情な孫の貴方へ送る言葉。
大好きでした。ありがとう。頑張るから、見ていて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ほとんど実録の私の話。私の後悔の話。とある仲良しさんの言葉を見て思い出したこと。確か亡くなったのは高一の頃。覚えてることは少ない。ほんとは血の繋がりは全くなくて、だけど、それでも私にとってとても尊敬できるかっこいい祖父だった。家族だった。今ならちゃんと伝えられるから。大好きだと伝えられるから。いつか、また会う時に。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
きっと長い。これは私の備忘録だから。たくさんの人の目に触れさせることでどうにか生きていてほしい、そんな記憶。もしよろしければあなたも覚えていてほしい。どうか、どうか。
私の後悔に付き合ってくれてありがとう、ございます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読んでくださるならどうか拍手を残していってください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
#台本 #一人声劇 #声劇 #朗読 #瑛の台本
コメント
まだコメントがありません