§幻想舞踏会§ 第三十四話~ミヅキヒメとの邂逅・中編~
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§幻想舞踏会§ 第三十四話~ミヅキヒメとの邂逅・中編~
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第三十四話~ミヅキヒメとの邂逅・中編~
「姫様!!!
大丈夫ですか!?」
ゆっくりと起き上がる光姫に、まりーは問いかける。
光姫は周囲を見渡すと、自分へと声をかけてきた目の前の女性を不思議そうに見つめた。
「…。
あなたは誰?
白ノ民…のようではないわね。
混血かしら。不思議な子。
それにここはどこかしら
この自然…青国?」
「ひ、めさま…?」
まりーから周囲へと視線を移すと、
立ち上がると周囲の木々を見つめながら歩き出す。
光姫の前にていなんが立ちふさがる。
そして、片膝をつき手を胸に当てた。
これは自分より高貴だと判断した相手にのみ見せる所作である。
それに続くようジェイドも跪いた。
「…失礼致します。
初めまして。
赤ノ国第一王女、ていなんと申します。
貴女様が…【ミヅキヒメ】様で…間違いありませんか?」
「…ええ。如何にもわたくしがミヅキヒメよ。
…?
赤国にこんな若い王女?…おかしいわね…。」
「やはり、貴女様が…」
予想通り、光姫の身体には【ミヅキヒメ】という別人格が入っていた。
ミヅキヒメは不思議そうにていなんを見つめる。
「私も失礼します…。
赤ノ国魔道騎士団団長、ジェイドです。」
ていなんに続き、ジェイドも名乗る。
ミヅキヒメは更に驚いたような表情を見せた。
「団長…?それは誠なの?」
「え、はい…私が団長でありますが…いかがなさいました…?」
「団長は赤国一と謳われた魔導騎士だったスクルトだったはずでは?
わたくしと共に魔方陣を紡ぎ出した男よ。引退したなんて聞いてなくてよ?」
ありえないと言わんばかりにジェイドへと問いかける。
ジェイド自身も突然の名に驚くばかりだった。
「…スクルト…?すみません、そのお方は…?」
「なにを言ってるの?
赤国の民なら国一番の騎士であるスクルトの名前は知っているでしょう。」
(…スクルト…もしかすると…初代魔道騎士団団長様か…?)
ミヅキヒメとの会話が成立しない。
やはりミヅキヒメと自分達では生きていた時代が違う事が明らかだった。
「お目覚めになられたのですね、姫様。
僕とはほぼ初対面になりますかね?
そうま と申します。
青の国の……僕は特に王族とかではないのでただの男の子ってとこですかね。」
そうまがいつもの調子で挨拶をする。
ボブもそれに続こうと口を開いた。
「…ミヅキヒメ様…」
「…あら?…そこの、ちょっとこちらへ。」
ミヅキヒメが挨拶をしようとしたボブを手招きで呼び寄せる。
「…あ、俺ですか?」
言われるがままかづくと、ミヅキヒメはまじまじと観察するように顔を近づけ見つめる。
「…坊や、名前は?」
(顔が近い!!!…って、前回の事は覚えてないのか…?
記憶…いや、鏡の思念は呼び出すごとにリセットされている…?)
「ボブ…と申します…。」
「そう、ボブ…ボブね。
やはり名前は違うわね…。
夫に似ているわ。貴方。
若い頃の夫に本当そっくり。」
哀愁を含みながらボブの頬をそっと撫でる。
「っ!!!」
心臓が跳ね上がる。
ミヅキヒメに触れられたか所が熱く感じる。
(落ち着け…!この方はミヅキヒメ様だ。今はなにより、必要な情報を入手すべき時…!)
まりーが不満げに声を上げる。
「ひ...ミヅキヒメさま。
近過ぎます。
彼に近づかない方がよろしいかと。」
光姫はまりーの膨れた顔を見て微笑む。
「そうなの?
ふふ、あなた可愛いじゃない。
とてもわたくしの好みだわ。」
「か、可愛いだなんて…!」
(あ、相変わらずこの人は...!!!)
赤面するまりーをクスクスと笑うミヅキヒメは、普段の光姫そのものだった。
「ん?…あら、あなたその服装。
王族の従者かしら?」
「…あ、はい。左様でございます。
わたくしは…白ノ国の姫様の従者でございます。」
ミヅキヒメはまたもや首を傾げる。
「ああわたくしの娘?
おかしいわね。
娘に混血の従者などいないはず…」
まりーは笑顔ではぐらかす。
(あなた様のずーーっと先の子孫ですよ。きっと。)
ミヅキヒメは先ほどから会話する人物全てと会話が合致しない事に疑心がつのる。
そして独り言を呟きながら、あたりを見回しつつ歩き出す。
「…何だかここはおかしな世界ね?
わたくしの知る大陸と人々ではない。
よく見るとわたくしの身体もおかしいわ。」
噴水の元へと行くと水面を鏡にして自信を見る。
「…これは…これは…わたくしの身体ではない。
なるほど誰かがこのミヅキヒメであるわたくしを
この身体におろしたのね。」
まじまじと揺れる水面に映る光姫を見つめる。
その後自身の依代である身体を、手を見ては身体を動かしたり、何かを確かめる。
そして、溜息をひとつついた。
「…それにしても、
寄り代の身体にするにしては随分と酷い器。
魔力保持の器としてはわたくしと大差ないけど…
こんな幾重にも呪われた身体…
何をしたらこうなるのかしら?
随分と酷使された身体だこと。
生命維持の機能低下を自己干渉術で補うだなんて、なんて器用なのかしら。
…この身体
あと1か月もたないわよ。」
「………え」
まりーが声を上げる。
それはどういうことか、そう尋ねようとしたその時。
…ていなんが、まりーに背を向け立ちふさがった。
「まりーちゃん…今は耐えてくれ…。
早く光姫を休ませるためにも、今は聞きだせることを聞き出すんだ…!」
「てぃー様…。」
まりーは下唇を強く噛み締め、押し黙った。
「…さて
この身体にわたくしを呼び寄せたのは誰かしら?」
ミヅキヒメが誰とはなしに声を上げる。
ていなんが前に出た。
「…それでは僕から。
ミヅキヒメ。我々は貴女に聞きたいことがあってお呼び出ししました。
唐突で申し訳ないのですが、いくつか我らに質問する許可を頂けませんか?」
「良い、質問を許そう。」
ミヅキヒメは噴水を背に謁見の如く起立する。
「単刀直入に聞きます。貴女が以前仰られていた、『王子』とはなんですか?」
「…?
王子の話をそなたにしたことはないはずだが…
王子は王子よ。
わたくしの国を含む、五つの国の希望と未来の象徴。
もうすぐ二十歳になれば王となるのよ。」
ミヅキヒメはいわゆる残留思念。
前回現れた時の記憶は無かった事となっているようだった。
「……。
王子は、誰がなられるものなのですか?」
「五国の中から、神託を得た選ばれし赤子よ。
当時、それはそれは可愛い赤子だったわ。」
ミヅキヒメは懐かしむように微笑む。
「…赤子……ですか…
神託を得た赤子は加護を持ち合わせていたんですか?」
「何を言ってるの?
加護は一つの国に1人しか持つことのできないもの。
生まれもってくる物ではないわ。」
「……1つの国に1人まで…ねぇ……
ありがとうございました。」
「…他に質問者はいるの?」
ミヅキヒメがていなんを訝しみながらも、次の者を呼ぶ。
次に前へ出てきたのはジェイドだった。
「あ、私もよろしいですか。
私がお聞きしたいのは、今私たちがいるこの空に浮かぶ島と七色の宝石についてです。
元々、この島と宝石を作る予定や計画はあったのでしょうか?」
「島?ここは空の上なの?
青国ではなく?」
「はい、ここは空の上に浮かぶ島です。」
「そんな大がかりな建造、一つの国では出来ないわ。
でもそんなものを造るだなんて案件は聞いたこともない。
大陸で平和に過ごしているのにどうして空へと行く必要があるのかしら?」
「ふむ…そうですか…。」
(ミヅキヒメ様が生きる時代でもこの島は作られる予定ではなかった…?)
ジェイドが考え込む横から、まりーがおずおずと前へ出る。
「…ひ、…ミヅキヒメ様。私からも質問よろしいでしょうか?」
「どうぞ?」
「貴女様は...白ノ国の初代光姫様でしょうか?
私たちは白ノ国を治める方を、【ミツヒメ】様とお呼びしております。
しかし貴女は【ミヅキヒメ】様と仰るそうですね。
そこの食い違いに戸惑っております。」
ミヅキヒメの眉間にしわが寄る。
「初代ミツヒメ?
従者ともあろう者が冠名を間違えるとはどういうつもり?
…そうね、正式な国として白国を建国したのはわたくしだから、初代と言われれば
確かにわたくしが初代だわ。
冠名はわたくしが民より讃えられた誉れ高き名。
変えるだなんてあり得ないわ。
何かの間違いじゃないかしら?」
「…失礼致しました。
皆を代表して質問させていただきました故、お許しいただければと思います。」
「次はお気をつけなさい。」
(ミヅキヒメ様のときとやはり冠名が違っている…変えるなんてありえない、か…)
ミヅキヒメは自身の依代となっている身体の手を見つめ、開いて閉じてと何かを確認するかのように動かしている。
そんなミヅキヒメの元へ次に出てきたのは、そうまだった。
「僕から質問しても宜しいですか?」
「何が聞きたいのかしら?」
「ありがとうございます。
えっとですね、僕からは、国の統一についての話を少しお聞きしたいなーなんて…
さっき王子についてのお話でも
<五つの国の希望と未来の象徴>という言葉が出ていたので、少し気になってしまいました。」
ミヅキヒメは驚いたと言わんばかりの表情を見せる。
「…。
五国の歴史上最大の出来事になるであろう未来を知らないの?
まったくどうなっているの?
ここはどこなのかしら?
悪い夢でも見ているようね…。
五色の国は王子が二十歳になると同時に一つの国となるの。
これはわたくしを含む五国の王が十九年前に決めた事よ。
国は全ての加護を受け継ぎし王によって統治されるの。
これで未来永劫の安寧は約束される。
まったくこんな大切な事を知らないだなんてどうなっているのかしら?」
ミヅキヒメは腕を組み膨れたようにそっぽを向いてしまう。
「なるほど…
どうも僕は政治などには疎いようで、申し訳ありません。
ありがとうございました。」
「勉学に励みなさい。
学術の国に生まれたのだから吸収できるものは沢山吸収なさい。
ところで…ボブ?坊や?
ちょっとこちらへいらっしゃい。」
ミヅキヒメがしきりに自身の身体の動きを気にしながらボブを呼ぶ。
「は、御用でしょうか。」
「貴方は私の側にいなさい。」
「…承知致しました。」
ミヅキヒメはわずかに震えていた手がピタリと落ち着くのを見て確信していた。
(この者が側にいるとこの寄り代が安らぐようね。
わたくしが使用してる間も蝕むだなんてなんて悪趣味な呪いかしら。
この身体の本当の持ち主とも会ってみたいものね。)
ミヅキヒメは他の者には見えていないであろう自身を取り巻く鎖を恨めしく見つめた。
「ミヅキヒメ様〜!私からも質問よろしいでしょうか?」
突然現れた夜蝶はいつもの調子でメモを片手に現れた。
突然現れた小さな女子にミヅキヒメは驚きつつも返答する。
「わたくしに名乗りなさいな。
名乗れば質問を許すわ?」
「私、黄ノ国の魔法クラブの新米の夜蝶です。
ここでは、記者のようなものを(勝手に)させていただいてます!
どうぞ、お見知りおきを…!」
「ほう?質問は何かしら?」
「ありがとうございます♪
書記してるんですが質問をまとめるのは苦手で…4つに分けて質問させていただきますね!
1つ目、ミヅキヒメ様はいつも鏡を身につけてましたか?
2つ目、この島の上にある七色ノ宝石の中に鏡があるらしいのですが、それはミヅキヒメ様のものですか?
3つ目、ヤタノカガミについて何か知っていることは?
4つ目、鏡を持つ理由はなんでしょう?」
「………。
まとめて聞くとは
せっかちな子ね…
八咫鏡はわたくしの宝具よ。
加護とわたくしの力によって作り出した異世や別の場を写し出す宝具。
それによってわたくしは他国と交流してきたの。
この鏡に私の魔力と加護の一部を与えているのよ?
そんなこと他の国の王はできないから唯一無二の宝具なの。
…って、宝石…?」
ミヅキヒメは空を見上げた。
七色ノ宝石の中にあるであろうその物質に意識を集中させる。
「………。
確かにあの中にある鏡はわたくしのものだわ。
誰かしらわたくしの鏡を勝手に奪ったのは…
見つけ次第消し飛ばすわ。」
「質問に答えていただきありがとうございます。
あの鏡を奪った相手を見つけたら即刻報告しますので…」
「お願いするわ。
簀巻きにして白国へ届けてちょうだい。」
夜蝶に続いて暁月も歩み出る。
「私は赤ノ国の魔導隊士、暁月と申します。
ミヅキヒメ様?ぼk…私からも質問よろしいでしょうか?」
「ふむ、質問を許そう」
「ありがとうございます。
私も質問が複数あるため、先程の彼女と同様、まとめて聞かせていただきます。
一つ目、加護は一体、具体的にどのようなものか。
二つ目、加護は誰から授かったものか。
三つ目、加護は各国の王が所持しているものか。
四つ目、加護を授かった者の役割はなにか。
そして最後に…
先程【加護は1つの国に1人しか持つことができないもの】だと仰っていましたが、
【全ての加護を受け継ぎし王によって統治される】とも仰っていました。
矛盾してる気がするのですが、どういうことなのか。
私からはこれが全てです。」
暁月の質問はミヅキヒメの生きる時代にとって当たり前すぎる内容だったのか、ミヅキヒメは目を見開く。
「加護を知らない?
本当どうなってるのかしらここは…。
聞くこと全て驚かされてばかりだわ…。
…加護は、<天より授かりし五つの魔法石>よ。
その加護は天より降ってきたことで国は建国されたと言っても過言ではない。
加護は国を統治する者の身体へと宿るもの。
全ての国の王が持っているわ。
…正式には持っていた、かしら。
加護を持つことは、国の象徴になるということ。
加護を神と例えてもいいくらいよ。
そして加護は次世代の王へと受け継がせることができる。
だからわたくし達は国の統一のために、互いへの和平と信頼の証の意味も含め王子へ全ての国の加護を受け継がせたの。
一つの国に王は1人。
ならば加護も複数人が持つべきではないというのがわたくし達の答えよ。」
「…ありがとうございました。」
初めて聞く内容をさも当たり前のように話すミヅキヒメ。
その場にいる全員が既に気が付いていた。
この五国には切り取られ葬られた歴史がある事を。
…後編へつづく。
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