§幻想舞踏会§ 第三十三話~ミヅキヒメとの邂逅・前編~
§幻想舞踏会§
§幻想舞踏会§ 第三十三話~ミヅキヒメとの邂逅・前編~
- 67
- 9
- 0
§幻想舞踏会§
第三十三話~ミヅキヒメとの邂逅・前編~
全ての試合が無事終わり、広場には隊士達が集まっていた。
その輪の中心では、ジェイドを中心に、光姫、そうま、ボブ、そして暗い顔をしたまりーと、距離をとるようにていなんがいた。
夜蝶は相も変わらずカメラとメモを片手に茂みに隠れ、暁月はジェイドの後ろに控えていた。
ジェイドが先日口論となった全員がいる事を確認すると、小さくうなずき口を開いた。
「はい皆さん注目です。この間の件の多数決の結果が出ました。
皆さんによって選ばれたのは<ミヅキヒメ様を呼び出す>でした。
多数決なので、…もちろん異論はありませんね?」
「それが総意であるなら、異論はない…」
「ああ。」
「僕もないよ。」
口々に同意を示す中、まりーだけが未だに口を固く綴んでいた。
光姫はそんなまりーを悲しく見つめるが、声をかけることは無かった。
ボブが光姫へと近づく。
「あ、姫さ…。……こん…にちは…」
ぎこちない挨拶が口から漏れる。
「…ごきげんよう。」
光姫は静かにボブを見つめるが、すぐに視線を逸らした。
ボブはそれ以上何もしゃべる事無く、光姫より数歩後ろに控えるように立つことしかできなかった。
ていなんはそんな様子を見て、イラ立ちを露わにするかのように腕を組み人差し指を細かく動かす。
ボブの行動は第三者から見れば、何を意味しているか明らかなるものだ。
なのに本人が気づいていない。
そして、それは誰かが教えるものではない事だと解りつつも、ていなんは気に食わなかった。
そんな主君の苛立ちをジェイドも察知していた。
光姫とボブのやりとりを見ていたのは、ていなんだけではなかった。
そうまも一連のやりとりを見て、光姫のボブに対する態度の冷たさを不思議に感じる。
光姫へと問いかける。
「またボブが何かしましたか?
なんか最近少し様子がおかしいようですが…」
光姫はどこか寂しげに微笑んだ。
「…ボブさんも私もいつも通りですよ。
そう、ボブさんは[ボブさん]のままなのです。」
(そして彼と貴方は私という経験を糧に成長しなければいけない時…)
光姫は自分の思考とは裏腹に呪いとはまた違う鈍い痛みを胸に感じつつも、その痛みに目をそむけた。
「さて!そうとなれば私の出番ですね。」
気まずい空気を払いのけるかのように明るい声を出す。
「やはり、宝石の鏡と直接共鳴するのが一番でしょう。
なのでまた宝石に近づこうと思います。」
いち早くボブが反応する。
「姫様、宝石へ向かうのなら前回の様に…」
「いえ、結構です。貴女の力は借りません。温存なさい。」
「ですが…!
……はい、失礼しました。」
間髪入れずに断られる。
ボブは何故ここまで距離を置かれているのか理解できない様子で落ち込む。
そんな空気を感じ取ったそうまが2人の間に入ってきた。
「姫様、要はあの宝石に近づければいいんですよね?
ボブにばっかりカッコつけさせるのはムカつくので、今回は僕の魔法で運びましょうか♪」
「おお、そういえばそうまさんの風魔法がありましたね!
ぜひお願いできますか?」
「はい!任せてください。」
そうまの笑顔の後ろで、まりーが心配そうに見つめる。
光姫はまりーの元へと歩むと、そっと手を包んだ。
「まりーさん心配しないで。
大丈夫ですから。」
やさしく微笑む光姫と反対にまりーの表情は重く暗い。
「...そう、言われましても...
心配なのは変わりません。
姫様のお身体が心配なんです。」
「そうまさんの魔法をお借りしますので、問題はありません。
広場の隊士達の安全は任せましたよ。
…ていなんさんのこともね」
「………はい。」
まりーは離れた位置で腕を組んでいるていなんを見ては、すぐに視線を逸らす。
前回の衝突以降、ていなんとまりーは今だ気まずい関係が続いていた。
光姫の手を握る力を強くする。
(私が空を飛べたら…私にもっと力があれば……
私が姫様のお側にいられるのに…姫様の、側で…)
「そうまさん…姫様の事、よろしくお願いします」
「まかせて☆」
そうまは笑顔で快諾すると、光姫を軽々持ち上げた。
「うぇ!?」
光姫の顔が驚きの表情に変わる。
「そ、そうまさん!?いや私ひとりで…!」
「ちゃんと掴まってて下さいね!せーのっ」
「え!?え~~~!?」
光姫の言葉など意に介さず、
そうまはそのまま風を纏うと、七色ノ宝石へと飛び立っていった。
ボブは飛び立った2人を見ていると、またもや理解できない感情に襲われる。
(何か…もやっとする…?
どうしてか以前から姫様に距離を置かれている気がする…。
それならそれで構わない…姫様は他国の王女様であるし…学生である俺が会うはずのなかった人だ…。
それでいい…はずなのに……)
「……行ったな。」
ていなんは光姫が七色ノ宝石へと飛び立つのを確認すると、ボブの元へと歩み寄る。
「………なぁ。
前から気になってたんだが、お前はどうしてそんなに光姫に固執してんだよ?」
いまだ空を見上げているボブへ怒気を含んだ声をかける。
「固執?でございますか?
いえ…俺はそんな……ただ手助けが出来ればと。」
「………。」
鈍い音が広場に響いた。
ていなんがボブを無言で殴り飛ばしたと理解するには、あまりに突然の出来事だった。
そして、その拳は普段の拳と違うものであった。
「は!?ていなん様!いきなり何するんですか!」
「うるさい!!!」
吐き捨てるように叫ぶと、ボブの元を離れ近場の木へともたれ掛る。
(…同じ姫という立場として、光姫に同情するよ…)
ていなんが去った後、ジェイドもボブへと近づく。
ボブは殴られた理由が解らないとばかりに混乱していた。
「……はぁ。
今回はネタじゃなく、本当にボブ君が悪いと思うよ。
…後悔する前に早く気付いた方がいい。」
ジェイドはいつものように悪態をつく訳でもなく、静かに言葉を並べる。
「ジェイド、お前も何を言っているんだ…」
「このままでホントにいいのかって言ってるの。」
「だから何がなんだよ!
ジェイドもていなん様も、何を言っているんだ…わからない…」
ジェイドから深い溜息が漏れる。
「…ここまで来るとホントに…。
ていなん様がああしたい気持ちも分かる。僕もいい?」
「ふざけるな…ほんとにわからないんだよ何も…。
最近は自分のことすらな……」
ボブはもう一度、見上げる。
空を飛ぶ光姫とそうまを見ると、やはり説明のできない感情が胸を覆う。
その気持ちを何と呼ぶのか。
そして、どうしてこんなにも悩むのか。
(いや…今は、ミヅキヒメ様との対話が優先だ…。)
答えの出ない疑問を、無理矢理心の隅へと押しやる。
そうすることでしか、自分自身の感情を抑える術がなかったのだ。
~~~
「さて、着きましたね。」
そうまの魔法により、上空へと来た光姫とそうまは、目の前で光り輝く七色ノ宝石を見据える。
宝石は太陽の光を細かく反射し、淡い光を纏っていた。
「そうまさんありがとうございます。
魔力を解放して集中します…
何かあればそうまさんだけでも広場に降りてくださいね。」
「はい!たまには僕にもカッコつけさせてください♪」
そうまはにこやかにほほ笑む。
光姫は小さく頷くと、抑圧珠を外した。
(余計な魔力は使わないように、鏡一点のみを目指す…。)
自分にしか見えない呪いの象徴である鎖の動きが加速する。
心臓を締め付けるような痛みが光姫を襲った。
「…っ。」
「姫様、無理はしちゃダメですよ。」
そうまが光姫を強く抱きしめる。
光姫の目に宝石の中心にある鏡のみを見据えていた。
(鏡の周りには…やはり魔石と似た気配と…私の知らない魔力…
…前回私はこの魔力に掴まれた…。)
「今度は…私からあなたを掴ませてもらう!」
宝石の中に滑り込ませた自身の意識で、鏡を纏う魔力を掴み、引き抜いた。
とたんに光姫の目の色が黄金色へと輝きだした。
「…!姫様の目の色が変わった…!!」
下で見守るジェイドが声を上げる。
光姫は呼吸荒くうつろな目で宝石を見つめる。
「ごめん…なさい…ちょっと…休…」
小さくつぶやくと、光姫はそのまま眠り出してしまった。
「…わかりました。
お疲れでしょうから、ゆっくり休んでくださいね。
さてここで飛んでても僕は何もできないから降りようかな。」
そうまは眠る光姫と共に、下降していく。
真っ先にまりーが2人の元へと駆け寄ってきた。
「姫様!…姫様はご無事ですか!?」
そうまの腕で眠る光姫をまりーは真っ青な顔で介抱する。
「姫様!」
ボブもそれに続いて駆け寄ってくるが、まりーがそれを阻止した。
「触らないで!!!」
「!?」
まりーは自分以外を全て敵と見なすようにボブを含め全員を睨み付ける。
「姫様に触る者は…攻撃するわ。」
まりーの殺気を含んだ声に、全員が静まり返った。
ボブも黙ってまりーが介抱する様子を見守る。
そんなボブの肩にそうまが手を置く。
「ボブ、どうしたの?
なにか思うことがあるなら言っていいんだよ?」
そうまの問いかけにボブは自分の胸の内を言葉にしようとする。
しかし、やはり言葉にならない。
ボブは苦悶の表情を浮かべた。
「いや…まだ自分でも何も分かってないんだ…。
こんなことは初めてだ。
いくら研究してもわからないことなど…」
「…まだ悩んでる…ってところか。」
「もはや何がわからないのかすら、見えなくなっている…。
何だろうな、人というのは。
合理的に動いてきたはずなのに、その正しさすら今は見えない。」
ボブは今も眠る光姫をじっと見つめながら、言葉を絞り出す。
そうまはそんな様子を見て、何かを決心した。
「…なるほどねー。
ボブに話したいことがあるけど、それはこれが一旦落ち着いたらゆっくり話そう。」
「…?わかった…。」
(僕もつくづくボブに甘いな…。)
そうまはため息交じりに息を吐いた。
「………ぅ…。」
光姫の目がゆっくりと開かれる。
その開かれた眼は、黄金色の美しい瞳だった。
…中編へ続く。
コメント
まだコメントがありません